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『道楽者道楽記 』
紫苑aa4199hero001)&Lady−Xaa4199hero002


『ねえ、一緒にお洋服買いに行かない?』
 そうLady−X(aa4199hero002)が紫苑(aa4199hero001)に持ち掛けたのは、久しぶりにLady−Xが帰ってきたとある午後の事だった。「久しぶりに帰ってきた」、というのもLady−Xは大体を留守にしており、その大体のほぼ大体を気ままな旅に費やしている。なので紫苑がLady−Xの顔を見るのも久しぶりだし、ましてや買い物に誘われるなど極めて珍しい事なのだ。
『どうして?』
『そろそろ新しい服が欲しいと思って』
 答えになっているようでまったく答えになっていない。そりゃあ服を買いに行く理由は服が欲しいからだろうが、それだけなら一人で行けばいい話で、わざわざ紫苑を誘って行く理由にはなり得ない。彼女にとっての(そして自分にとっての)財布係は能力者なのだし。
『たまにはあんたと買い物ってのもいいかと思って』
 腑に落ちない顔でもしていたのかLady−Xは付け足した。だがそれもまた答えになっているようで以下省略。
『きみは一人が好きなのかと思っていたよ』
『あたしは一人が好きなんじゃなくて、楽しいことが大好きで、束縛されるのが大嫌いなの。それだけよ。それで、いいの? それともダメ?』
 Lady−Xは猫のように紫苑にしな垂れかかってきた。小麦色の肌と肉感的な身体を持つ美女。そんな彼女に誘われれば大抵の男はイチコロだろう。
 だが紫苑も美しさ、麗しさでは負けてはいない。妖艶な美女と蠱惑的な美丈夫が、口付けをする直前の恋人のように見つめ合う。
『まあ、たまにはいいかな』


『まずはここに入るわよ』
 Lady−Xが指差したのはいかにも高級そうなブティックだった。具体的に言うと服一着でピー音が鳴るような。財布……もといお金くれるおじさん……もとい二人が誓約している能力者から金は貰っているはずなので、そこら辺の事情は心配しなくてもいいと思うが。(もっとも実際の所はどうであろうと、紫苑にLady−Xの懐事情を心配するつもりはないが)。
 Lady−Xは店に入ると、紫苑を入り口に置き去りにして一人奥へと進んでいった。目に入った服を片っ端から手に取って、遠慮容赦なく試着室に雪崩れ込んで入り浸る。そこに至って紫苑はようやく、荷物持ちという概念があった事を思い出した。女性用ブティックに連れ込まれる理由のナンバーワンぐらいのアレだ。
『(どうせならあっちの方を付き合わせてくれればいいのになあ……)』
 店の内外の女の子が「あの人カッコいい」とひそひそしている事など意に介さずにそう思う。荷物持ちが嫌だという意味ではなく、そっちの方が面白そうだという意味で。あのいかにも裏家業といった強面で、こんな高級ブティックで、仏頂面でじっと待っている様子を想像するだけでかなり楽しい。一体どの辺で待つのだろうか。どんな顔をして? あの太い腕は何処に置いて? 荷物持ちのためだけに待たされる数十分以上を、一体どんな事を考えながら『彼』は過ごすというのだろう。
『どっちが似合う?』
 と、紫苑が思索にふけっていると、Lady−Xが両手に花、ならぬ服を持って戻ってきた。どちらもLady−Xのナイスバディによく合いそうな、そして値段の張りそうな服。
『どっちも素敵だよ』
『もーそういうことじゃなくて』
『僕としては、こっちの方がより素敵だと思うけど』
 と、柔らかく笑みながら紫苑は右の服を指す。Lady−Xは紫苑のおススメを三秒程眺めていたが、『やっぱり両方買おう!』と店員の所に持っていった。はっきり言って紫苑の意見が必要だったか疑問だが、女性とはそういうものだと紫苑はよく弁えている。元の世界でもこういう事はよくやった。女性の買い物に付き合わされ、服や装飾具を見せられて、その都度会話に相槌を打ち……
『おまたせ』
『もういいの?』
『うん、綺麗な物が手に入ったし』
 言ってLady−Xはくるりと回る。今身に着けている物は全てこの店の元商品だ。もちろん買った物はそれだけではなく、当たり前のようにずいっと紙袋を突き出されたが。
 紫苑は嫌がる事はせず優雅な動作で袋を受け取り、率先して扉を開けてLady−Xをエスコートした。とにかくこれで買い物は終わり……と思った所で、小麦色の肌に腕をがっしり掴まれる。
『どうしたの?』
『次はこっち』
『?』
『甘いものを食べに行こう』
『……まだあったんだね』


『このお店のパフェがね、ずっと気になってたの』
 とLady−Xが連れてきたのは、これまた値段の張りそうなオシャレでキレイなカフェだった。紫苑がこういった店を忌避する理由も、尻込みする理由もないが、どうして自分を連れてきたのか、というのはやはり疑問だった。一人で入り一人でパフェを食べた所で別に問題ないだろうに。
 その疑問はわりとすぐに解消された。席に通されてすぐ、Lady−Xが『このカップル限定パフェを二つ』と頼んだからだ。もっとも店員から「申し訳ございません、このパフェは一テーブルにつきひとつまでとなっておりますので」と却下されたが。
 店内は甘い雰囲気に溢れていた。カフェなので当然と言えば当然だが、若い女性、若い女性同士、若い男性と女性……紫苑とLady−Xも、傍から見れば『そう』見えるだろう。カップル限定パフェなんて頼んでいるのだから尚更だ。
 だが二人の関係は恋人同士からは程遠い。じゃあ何かと問われれば、同居人というのが適切だろうか。とある男を軸にして一つ所にいるだけの――
「お待たせしました」
 二人の前に全長七十センチはあろうかという巨大パフェが到着した。甘いものが苦手な人なら見るだけで胸やけするだろうし、カップル二人で分けるにしても大分ボリューミーである。だがLady−Xは、紫苑に断ることもなく即行でスプーンを入れる。紫苑も特に咎めはせず巨大なパフェに視線を向ける。
 ここに『彼』がいたらどういう反応をするだろうか。こんな所、普通だったら絶対来ないと思うし、超巨大パフェなんて早々に断るだろうけど、例えばパフェに従魔が取り憑いたとか。それで大量のパフェを食べないといけなくなるとか。表向きはポーカーフェイスでもくもくとパフェを食べる『彼』の姿を想像し、紫苑の口元が知らず緩む。
『楽しそうだね』
 スプーンを口に咥えたままLady−Xが出し抜けに言った。指摘されて紫苑はわずかに首を傾げてみせる。
『楽しそうに見える?』
『とっても。あたしも楽しいことが大好きだから、楽しそうな人はすぐに分かるよ。あんた、とっても楽しそう』
 楽しい。紫苑は甘いパフェの代わりにその言葉を咀嚼する。紫苑にとっての楽しみは能力者を眺める事だ。『彼』の精神状態を眺めている事が楽しい。彼は壊れているから。そして紫苑も壊れている。お互い壊れた精神を持つ者として、紫苑は『彼』の精神状態を眺めて楽しんでいる。
 もっとも精神状態だけでなく、時にはインスタントラーメン食べ尽し依頼に連れていったり、焼肉食べ放題に連れていったり、おもち食べ尽し依頼に連れていったり、レジャープールのフードコートのメニューの端から端を押し付けたり、と弄って楽しんでいる事もあるが(もちろん胃袋攻め以外も色々やっている)、それでもやはり一番の興味は『彼』の心の内である。
 手負いの獣を愛でるような、そんな表情をする紫苑に、『これ、全部食べちゃってもいいかな』とLady−Xは聞いてきた。言ったのが『彼』であったなら、色々と難癖をつけて奪い取っていただろうが、Lady−Xに対してそれをする理由はない。(その前に『彼』ならパフェを独り占めにはしないだろうし、さらにその前に食べないだろうが)(けれどまあ、もしそんな機会があるなら是非とも見てみたい)。
『どうぞ』
 紫苑は右手を相手に向け、Lady−Xは豪快に、けれど上品にパフェを平らげる。特注のグラスが空になり、いよいよお開きかと思ったが、Lady−Xは口の生クリームをぺろりと舐めながらこう言った。
『もう一個、あともう一個だけ』


「お二人ともよくお似合いですわ」
 Lady−Xが最後に訪れたのは、花魁の着付け体験が出来るフォトスタジオだった。紫苑は中紅色の着物を、Lady−Xは蒲葡(えびぞめ)を。傾国と呼ぶに相応しい麗しさを前にして、店員が溜息を吐くのも仕方のない事だった。
『これいいなー。欲しいなー』
『おねだりしてみたらいいんじゃない?』
 高級そうな花魁姿でそんな事を言うLady−Xに、紫苑はクスクスと笑いながらそんな事を口にした。もっとも本当におねだりしたら『彼』はどんな顔をするだろうか。なんとも思わないか。溜息を吐くか。それとも。
『気に入っているんだね』
 何を、とLady−Xは言わなかった。色気をふんだんに振り撒いて、意味ありげに見上げる様はまさしく男を惑わす夜の花。
 けれど人を惑わすのは紫苑とて同じ事。琥珀のような瞳を細め、かつて「鬼」と呼ばれた男は薄く笑みを浮かべてみせる。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【紫苑(aa4199hero001)/外見性別:男性/外見年齢:24/ジャックポット】
【Lady−X(aa4199hero002) /外見性別:女性/外見年齢:24/カオティックブレイド】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。Lady−Xさんのプロフィールに「旅が好きで、留守がち」とありましたので、お二人が一緒にいたらこんな感じかな、と作成させて頂きました。イメージや設定等と齟齬がありました場合は、お手数ですがリテイクのご連絡をお願い致します。
 おまかせノベルのご注文、本当にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願い致します。
おまかせノベル -
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2018年11月20日

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