『桜落葉 』

水落 葵（aa1538）

●
「さて、どうしようか」
　水落 葵(aa1538)はテーブルの上に袋を置き、その袋の中身を見て首を右に傾げていた。袋の中には赤や黄の、美しく色づいた桜の葉が入っている。桜の葉。葵が管理を任されたビルの、その駐車場に植わっている八重紅枝垂桜が落としたものだ。
　季節は秋。春であれば濃い紅色をつける八重紅枝垂桜だが、秋は生い茂らせた葉を赤や黄金に染め上げる。もっともその装いも、冬に近付くに連れて段々と寂しくなってきたが（例えそうなったとしても、枝だけになったとしても十分美しい桜だが）、今葵の目の前にあるのはつまりその桜が落とした枯れ葉。通常落ちた桜の葉はゴミ袋に入れるだろうが、葵は肌触りのいい綿の袋に入れている。そして先程から「さて、どうしようか」と首を捻り続けている。
「さて、どうしようか」
　何度目か分からぬ台詞を言って、葵は再び首を傾げた。

●
　物心つく前から、いや葵が生まれるずっと前から、葵の生家には大量の桜の樹が植わっていた。
「ここにいるのはみんな、私達の一番大切な人達なのよ。大好きな人達。みんな、とっても綺麗でしょう？　みんな綺麗な人達だから、毎年咲く桜の花も、本当に、とても美しいの」
　そう葵に言ったのが誰だったのかは覚えていないが、それが水落一族全員の総意なのは確かである。葵の生家にある桜はどれもみな美しく、そしてそれは水落の誰かの大切な人である。葵もそうだ。葵もそうした。だから水落家には葵の桜が二本あり、そしてこのビルの駐車場にも八重紅枝垂桜がある。
　そんな事情があるので、例え地面に落ちた葉でも捨てるという事は出来ない。普通に考えれば桜の葉、それも食用に使いようもない枯れ葉など捨てる一択に決まっているが……集めた枯れ葉に芋を入れて燃やすという選択もあるだろうが……葵にそんな事は出来ない。出来ればこのまま袋に入れて取っておきたい所だが、そんな事をすれば同居人が嫌な顔をするに決まってる。
「さて、どうしようか」
　一体実家は、毎年この時期に出る落葉をどのようにしていたのだろうか。先にも述べたように葵の生家には大量の桜が植わっており、秋の紅葉も落葉もそれはすごいものだった。だが気付けば地面に落ちた枯れ葉は綺麗に消えていた。片付けを手伝った覚えはないし、芋を入れて焚き火を囲んだ思い出なども一切ない。
「さて、どうしようか」
　葵は考えに考えて、袋をテーブルの上に置いて一時間は経った頃、「そうだ堆肥にしよう」と突然に閃いた。堆肥なら捨てる必要はないし捨てる事にもなり得ない。
　急に心が軽くなり、そのまま葵はスマホを取った。堆肥の作り方を親戚の業者に聞くためだ。以前作った事はあるが、せっかくプロがいるのだからここは頼った方がいい。「何か困った事があれば遠慮なく連絡くれていいからね」と以前言ってもらった訳だし。
　葵はさっそく業者に電話しようとしたが、その前に何気なく袋の中に視線を移した。わざわざ堆肥にしなくても、いずれ腐るのを待つばかりのモノ。
　愛しいものの落とした一部。

●
「ここにいるのはみんな、私達の一番大切な人達なのよ。大好きな人達。みんな、とっても綺麗でしょう？」
　昔水落一族の誰かが葵にそう言った。それは水落一族全員の言葉でもある。みんなそうしてきた。葵もそうした。義務でも押し付けでも呪いでもなく、そうしたいと思ったからそうした。
　愛しい人の美しい姿を見たいと思って何が悪い。
　葵は電話をかけ終わると綿の袋に近付いた。手に取って、引き寄せて、赤や黄金や茶色になった落葉に視線を落とす。カサカサとした感触は、柔らかな桜の花のそれにも、愛しい人の柔肌にもまったく似つかぬものだけど。
　葵は袋の中に顔を入れ、充満する匂いを思いっきり吸い込んだ。
　枯れた葉の一枚だって、何処にもやったりするものか。
　
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【水落 葵(aa1538)／外見性別：男性／外見年齢：２７／能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
　こんにちは、雪虫です。葵さんは桜！　というイメージが強かったので／でも花以外のお話も書いてみたいなと思ったので、このようなお話にしてみました。葉っぱと言えども葵さんなら捨てはしないかなと思ったのです。イメージや設定など齟齬がありました場合は、お手数ですがリテイクのご連絡お願い致します。
　この度はおまかせのご注文、誠にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願い致します。

おまかせノベル

雪虫

リンクブレイブ

2018年11月20日