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『とある問答 』
ファリンaa3137)&ヤン・シーズィaa3137hero001

「ふむ」
 私室の内、碁盤を前に座したヤン・シーズィはひとつうなずき、白の碁石を盤へ置いて、次いで黒の碁石を手に黙考する。
 局面はすでに終盤だが、圧倒的に白が優位である。さて、ここから巻き返せるものか……
 彼の背中を追い越して伸べられた指が碁石を取り上げ、一点に据えた。
「ファリン、重いぞ」
「あら、失礼いたしましたわ」
 言いながらもヤンの背にのしかかったまま動かないファリン。
 その重さを内功で支え、やれやれ。ヤンは息をついた。
 この童女さながらの振る舞いは稚気ならず、確認だ。自分がまだ冗談を演じられるものか、ヤンはこのときも自分を受け容れてくれるものか。
 とどのつまりは甘えだ。それもまたやむなしではあるのだが、な。
 幾度となく信念を、そして信頼を躙られた過去が、一度は彼女からすべてを奪い去った。今は新たな思いと誓いとを胸に、再び立ち上がったわけだが……傷痕の疼きは時折こうしてファリンを駆り立てる。
 それを知ればこそ、俺はぬいぐるみを演じてやらねばならんということだ。
 思いながらもけして不快ではないあたり、兄馬鹿というものなのかもしれない。いや、「いったいいつまでこうして俺に甘えてくれるものか」などという感傷を覚えたりしているわけなので、それはもう完全に兄馬鹿である。
 と、それはともあれ。
「そこに打っては下手な定石をなぞるだけのことだ。どのみち切られ、繋がることなく死へと至る」
 ファリンの置いた黒石を起点にいくつかの展開を示してみせ、ヤンはかぶりをふった。
 対してファリンは小首を傾げて局面を見やり、不満げに唇を尖らせる。
「白で定石、黒で鬼手を演じていらっしゃるのはわかりますけれど……定石なき鬼手を生かす術がありますの?」
 鬼手とはすなわち奇策である。定石を大きく外し、相手にとっては予想外の手を打つことで逆転を狙う、追い詰められし者の賭け。しかし、それを生かすためには正しい打ち筋をなぞる中、ここぞというときを見切る目が必要となるものだ。このあたりはまさに戦と同じ。ゆえにこそ、ファリンは腑に落ちないのだ。兵法にも通じたヤンが、「鬼手のセオリー」を破って打ち続けていることに。
「疑問があってな」
 伸びゆく先のことごとくを白石に塞がれた黒石の有様を見下ろし、ヤンはもう一度息をついた。
「疑問、ですの?」
「ああ。打ち手の技量が同じほどならば、定石は鬼手をこのように封殺する。なぜなら鬼手とは奇抜でありながら有用でなければならぬもので、それを為すには結局のところ、常識の内に自らを留めておかねばならん」
 そのとおりだ。先に考えたとおり、鬼手が奇襲である以上はいつしかけるかを読まなければならない。ただの破れかぶれでは、勝利を得ることなどできはしないのだから。
「しかし人というものは、しばしば定石を突き崩すほどの鬼手を打ってくるものだ。同じ規律や常識を持つはずが、な」
 そういうことですのね。ファリンはようようと得心した。
 今、ヤンが演じているのは碁ではなく、人という不可解な存在の有り様を巡る問答だ。しかしながら、得心の先に新たな疑問が生じもする。
「お兄様のお求めになる正解はなんですかしら?」
 仙人の思索に答求めるは無粋というものだろうが、あえて問う。なぜならヤンの行いが、人界に囚われぬという仙人のセオリーを破るものに他ならなかったから。
「大きく括るならば人を識るがためということになろうが……俺にも俺が求める答えは知れぬ」
「結局のところ、人は遊戯の駒ならぬものだから……ということになるのでしょうね」
 ヤンの言葉にファリンが添える。
“人”を碁盤から読み解くことは困難だろう。ならば自分という人間をもって、ヤンの問いへ解をもたらすきっかけを。
「先に述べたが、それにしても常道はある。互いに互いを測り、計り、図り――社会という形を保とうとするものだ。人は他者なくして己が姿を認められぬ以上は、それを情動で崩すことは鬼手ですらない悪手だろう」
 常道と情動。この場合は対となるものであるが。
「常道の理に対するは情動の利ですわね。我を押し通すことで利を得たい、それは社会の理を守るよりも容易く、そして快いことですわ」
 ファリンはすべての石を一度落とした碁盤、その中央に黒石をひとつ置く。さらにもひとつ、もうひとつと黒石を置いて陣を成した。白石を置かせず、勝手に描いた“完璧な世界”。
「民族性というものもあるだろうが、特に日本のような『察する、読む』を美徳とする社会においては、横紙破りも鬼手となり得る」
 いくつかの白石をもって黒の陣を突き破り、ヤンが首肯した。
「そして相手の利を通させんとすれば、こちらは我を張るよりない」
「互いにそれを弁えてさえいれば、結局のところは理を守るよりなくなるのですけれど」
 あらためて盤を綺麗にして、ファリンは碁において第四線と呼ばれる、外から数えて四マス目のひとつに白石を置いた。上下左右へ石を伸ばすことができるこのポジションは、まさに序盤を形作るための常道である。
「つまり、この我は他の内に含められるということだな。それは実に正しく、美しい。しかしながら――」
 黒石で白石を囲み、ヤンはファリンを見やった。
「こうして他に封じられた我は、果たしてそれを是とするものか」
 圧倒的多数で押し潰されんとした少数が命を賭けて反抗した例は多い。現代においてすら、少数民族による紛争が絶えたためしはないのだから。
「彼の方の我が願いや祈りの域にあるのでしたら、白を黒へ染め替えることもできましょうね」
 黒に囲まれた白石をつまみあげて退け、もう一度同じマスへ置く。
「しかしながら人は比べ合ってしまうものですわ、互いの譲れぬものの丈を。果たしてそれが自縛であることを知りながらも」
 自らの価値観にこだわればこそ争いは生まれる。相手が愚神ならば始めから論ならぬ刃弾で争えばいい。しかし、人同士であればそうはいかない。どちらもが適当に折れ、妥協するのが理となろう。
 諦念と戒めに含められたファリンの自嘲を嗅ぎ取り、ヤンは論を導く。
「それが自縛と知るならば退くべきだろう。縛られてなお我を張り続けるは稚児の行いだぞ」
 ファリンはうなずき、かぶりを振った。
「これまで生きる中で学んだことがあります。我を張る者が“大人になる”ことで得をするのは、その本人などではありえませんのよ」
 有形無形を問わず、我を引っ込めた者に贈られるものなどなにひとつありはしない。我を張り続けた者に勝利は与えられ、まわりの他者には安寧が与えられ、それで終わりだ。すなわち、他者の我のために負けてやることとなるわけで、だからこそ彼女が生まれた大陸では血で血を洗う争いが繰り広げられてきたし、今なおそれは変わらない。
「すみません。これでは問答がただの繰り言になってしまいますわね」
 ファリンの謝罪を受け取り、ヤンは胸中で苦笑する。
 いつの間にやらこの問答、俺が理、ファリンが利を担うこととなったか。致し方ない。ファリンはそれほどの傷を負ってきたのだから。そして今は“妹”として俺に我を突きつけている。ならば応えてやらねばなるまい……“兄”の情理をもって。
 心と声音とを整え、ヤンはあらためて口を開いた。
「おまえが張るならば張り通せ。それがたとえ理ならぬ利であれ、他を顧みぬ我であれ、それを捨てることがおまえを幸いから遠ざけるならば、俺は理を曲げ、他を躙ることをためらわん」
 殺仏殺相。打ちのめされたファリンが再び立ち上がるがため、ヤンと誓った新たな生き方だ。しかし、結局のところ彼女は生来の慈愛によって理と他を捨てきれず、自縄自縛へ陥っている。
 しかし。
「わたくしがわたくしにそれを認めてしまっては、それこそわたくしを貫くことを損ねることとなりますわ」
 彼女を縛るものは、正しきものへの執念だ。
 それがあればこそ彼女は自らを縛め、得るものなしとわかりきっていながら立ち続けて自らを戒める。
「お兄様はずるいですわね……わたくしがそう応えずにいられないことを知りながら、そんなことをおっしゃるのですもの」
 悟っていたか。ヤンは鷹揚にファリンの言を受け流し、茶を淹れる。
 硝子製のポットの内、湯を吸って開きゆく花茶の花弁を見やり、胸中ならず口の端で笑んだ。
「惑うことはあるだろう。食いしばることも、押し詰まることも。しかし、おまえの芯が理であるのなら、他に屈せず我を張り、その我をもって他を利するよりあるまい」
 ひとりは皆のために。なかなかに報われぬ戦いではあるが、姫白という少女がかくあるものであるのなら、投げ出すことなく挑むべきだ。――と、ここまでは兄の理。そして。
「俺はいつなりとおまえの傍らにある。当然ながら彼の大哥もな。さらには、この茶もだ」
 程よく彩づいた茶を杯へそそぎ、ファリンへすすめる。
 かくて彼女がひと口含めば、舌の上へ転がる茉莉花の甘い香り。花茶は茶葉を一葉一葉重ねて結わえた工芸茶であるが、味わった瞬間に知れた。これはお兄様がお作りになられたもの。
「あたたかいですわ。心を冷やす陰気を溶かされてしまうほどに」
 今はごまかされてさしあげます、お兄様の情に敬意を……そして妹の情をもって。ただし。
「結局のところ、碁に託された問いに答は得られそうですの?」
 それだけはごまかされてさしあげませんわよ?
 しかしながら、問いを突きつけられたヤンは茶を飲む手を止めずに悠々と。
「そも仙人とは思索の内に遊ぶものだ。答はいずれ行き着いたときに心得顔で語ればいい。時の後先に縛られるなど無粋にも程がある」
 人を超えし者の余裕を見せつけられたファリンは、それを見上げて苦笑するよりないのだった。
 わたくしは今しばらく、地に足をつけて生きますわ。二度と掬われないよう踏みしめて、けして退かずに立ち続けましょう。たとえなにひとつ得られずとも、強く、強く、強く――わたくしを張り続けます。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ファリン(aa3137) / 女性 / 18歳 / 危急存亡を断つ女神】
【ヤン・シーズィ(aa3137hero001) / 男性 / 25歳 / 君がそう望むなら】
 
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2018年11月20日

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