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『Mischief of candles 』
ファルス・ティレイラ3733

 ふらりと立ち寄った露天商があった。
 アロマ関係のグッズなどを扱う、傍から見ると若干怪しい感じの女性が売っていたのだが、ティレイラは何故か惹かれてしまったのだ。
「そちらは新作のアロマキャンドルですよ」
「良い匂い……」
 見た目にも可愛らしいアロマキャンドルが目についたティレイラは、色とりどりのそれを一つ手に取り、甘い匂いを確かめた。
 すると、女性が数個を手に取り紙袋に入れて、差し出してくる。
「え、あの……」
「良かったら、どうぞ。今一つずつお試しキャンペーンやってるんです。気に入ったものがあれば、また来てください」
「そうなんだ……ありがとうございます!」
 ティレイラはその女性の厚意を素直に受け入れ、紙袋を受け取った。
 嬉しそうな表情を浮かべて礼を言った彼女は、その場でゆっくりと立ち上がって踵を返し、帰路へと進んでいく。
 ティレイラを見送った露天商の女性が、人知れず小さく笑ったのを、もちろん彼女は気づかずにいた。

「ええと、こっちがチャイで、これがレモングラス……ジャスミンとカモミールもいい匂いだなぁ……。形もかわいいし、手作り感あって素敵……」
 一般的なキャンドルと違って、蝋に香りのハーブが埋め込まれた、いかにも女子受けしそうなそれは、やはりティレイラの目も楽しませていた。
 自室に戻り、メールで友達の雫を誘ってから、窓際にキャンドルを並べて自身の火の魔法を人差し指に生み出して灯してみる。
 スマートフォンでいくつか写真を撮っていると、一瞬だけ視界がブレるような感覚に陥った。
「!」
 ティレイラは慌ててそれを振り切り、数回瞬きすると、窓辺のキャンドルが一つ形を崩し始めた。
「え、なんで……」
 どろりと変容するそれは、ティレイラが手を差し伸べるより先に大きくなり、窓辺から床へと降り立った。
 ――それは、蝋燭に手足が生えた姿をしていた。
「魔法の気配……っ、あなた、魔力で動いているのね……!」
『………!!』
 言葉にならない声らしきものが、ティレイラの室内を覆った。蝋燭の悲鳴のようなものだった。
 そしてそれは、次の瞬間には暴れ始めた。
「だめよ、大人しくして……あっ、腕を振り上げないで……!」
 ティレイラが青ざめながらそう言うと、蝋燭が振り上げた右手が部屋にある花瓶を落として割った。
 ガシャン、と派手な音が響き渡る。
 それに肩を竦めつつ、ティレイラは蝋燭をなんとかしようとそれに飛びかかる。
 すると、蝋燭は左手を彼女に向けるようにして降ってきた。
 どろっとした液体が飛び散って、ティレイラの腕にかかる。
「ちょっ……なにこれ、蝋……? え、うそっ、もう固まって……ッ」
 ティレイラの腕にかかった蝋は、見る間に固まっていった。彼女は慌ててもう片方の腕でそれを叩いて割るが、そうこうしているうちに蝋燭本体が新たな蝋を浴びせてくる。
「や、やめて……っ、それ以上暴れないで!」
 彼女はそう言いながら、背中の翼をバサリと出した。同じタイミングで尻尾も出して、飛んでくる蝋を防ぐ。
 何度かはそれで弾けたが、長くは続かなかった。
 鈍い音が、翼と尻尾に張り付くようにして響く。
「……っ、この感じ……」
 尻尾の先と翼の先が固まっていく感触を得たティレイラは、それらを視界で確かめた後、再び蝋燭を見た。
「あれっ……? え、どこ行った、の、……!?」
 暴れていたはずの蝋燭の姿が、消えていた。
 ――正確には、溶けていたと言ったほうが良いだろうか。形を崩し部屋を満たすかのようにその蝋は広がっていたのだ。
 そして、氷柱のような形状となった蝋の雫が、ティレイラの体へと降ってくる。
「う、うぅ……動けない……っ、お姉さまが留守の時に、限って……」
 蝋は驚くほど早く彼女の体を包み込み、そして固まっていくのも早かった。
 ティレイラはもう既にその場から動くことが出来なくなっていて、かろうじて動かすことの出来た首を少しだけ傾け、視界の先に止まった姿見鏡を見る。
 鏡の中に映る自分の姿は、想像していたものとは随分と違った。
「こ、これが、私、なの……っ!?」
 どろりと滴る蝋が、幾層にも重なっている。そんな中に、自分の姿がある。
 美しい像というよりかは、ホラーハウスにでもいそうだとティレイラは思ってしまった。そして彼女は、そんな見た目のショックを表情に浮かべたままで、全てを蝋に包み込まれてしまうのだった。

「こんにちは〜! ティレちゃーん、雫だよ〜っ!」
 数分後、ティレイラに呼ばれていた雫がやってきた。インターフォンを二度ほど鳴らしたが、反応は無い。
 店の方に回っても見たが、ガラス戸の向こうのプレートは『CLOSED』になっている。店主の女性も居ないようだ。
「うーん、どうしよう……。あれ、玄関のドア、開いてる……?」
 雫はその場でウロウロとしながら、反応のない家を再び見た。すると、住宅側のドアが少しだけ開いていたのだ。
「……ティレちゃーん、お邪魔しまーす!」
 数秒迷ったが、雫はそんな声を上げながら開き門戸を押し開けた。
 そして、妙に静まり返っているドアに手をかけて、中へと入っていった。
「あ、そうだ。お邪魔してるって店主さんのほうに連絡入れておこうっと……」
 内玄関で靴を脱ぎつつ、雫はスマートフォンをトントンと叩き、メールを打った。
 ティレイラの師匠であり、家主である女性に連絡を入れたのだ。
「お部屋は二階……な〜んか、怪しい空気だなぁ……。でも、いい匂いがする」
 雫はそんな独り言を続けながら、階段を上がった。
 そしてティレイラの部屋のドアノブに手をかけ、室内を覗き見る。
「……これって、蝋燭? いい匂いってアロマキャンドルだったんだ……」
 芳香が無ければ、一見では蝋だと分からなかったかも知れない。
 そんな事を思いながら、雫は部屋の中へと踏み込んだ。
 先日の鍾乳洞を思わせるような氷柱の先に、人の背丈ほどある蝋燭があった。
「ティレちゃん……だねぇ、これは……」
 幾度かこんなパターンを見てきた雫にとっては、粗方の想像通りと言ったところだろうか。
 目の前の大きな蝋燭に手を伸ばして、感触を確かめる。
 形こそ歪だが、良い香りの蝋燭には変わりない。
「題して、竜の少女、アロマキャンドルに変貌! とかかなぁ……」
 雫はそんな事を言いながら、手元のスマートフォンのカメラを忙しなく動かしていた。
 ゴーストネットOFFのネタにでもするのだろうか。オカルト好き少女の好奇心は、ティレイラよりも強いのかも知れない。
 その後、連絡を受けた家主の女性が戻るまで、雫は蝋の像となってしまったティレイラを良い香りとともに堪能するのだった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3733 : ファルス・ティレイラ : 女性 : 15歳 : 配達屋さん(なんでも屋さん)】
【NPCA003 : 瀬名・雫】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 再びお声がけ頂けて嬉しかったです。
 師匠さんが戻った暁には、雫ちゃんと一緒になって鑑賞会になるのかなと思いつつ…。
 少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
 また機会がございましたら、よろしくお願い致します。
東京怪談ノベル(シングル) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年11月20日

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