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『信者には祝福を(1) 』
白鳥・瑞科8402

 お気に入りの喫茶店にて軽い昼食をとっている最中の白鳥・瑞科の形の良い耳を、中学生らしき少女達の無邪気な声がくすぐった。隣のテーブルから聞こえてきた「クリスマス」というフレーズに、瑞科は紅茶の入ったカップに口をつけながら(そういえば、そろそろそんな時期でしたわね)と思う。
 どうやら『最近オープンしたばかりのとある雑貨店でストラップを買うと恋人が出来る』というジンクスのようなものが、最近学生達の間では話題になっているらしい。クリスマスまでに絶対彼氏を作りたいからこの後一緒にその店に行こうと騒ぐ少女の様子が微笑ましく、瑞科はつい頬を緩めてしまう。
(それにしても、この辺りに新しいお店が出来ていたなんて、知りませんでしたわ。今度探してみるのも良いですわね)
 だが、瑞科がその店に行けるとしても恐らくは次の休暇以降になってしまう事だろう。生憎と、彼女は多忙な人間であった。
 先程も、上司から仕事に関する連絡があったばかりだ。これを食べ終えたら、すぐに上司の元へと向かわなくてはならない。
 昼下がりの穏やかなティータイムを、ゆっくり楽しむ時間もない。しかし、席を立った瑞科の顔に浮かぶのは憂いではなく喜色だ。晴れやかな表情で、彼女は今日も職場である『教会』へと足を運ぶのだった。

 ◆

 一見普通の教会に見えるその場所の奥、普通の者は立ち入れぬ場所に瑞科達の拠点はある。私服の瑞科を見て休暇の途中に呼び出してしまった事を詫びる上司に、彼女は優しく首を横に振った。
「わたくしを呼んだ、という事は……事件でして?」
 そして、すぐに本題に入る。上司である神父のどこか焦った様子から、すでに犠牲者が出てしまっている事を彼女は察したのだろう。
 神父曰く、最近街では原因不明の奇病がはやっているのだという。眠るように意識を失い、目覚めなくなってしまう者が後を絶たないのだ。
 その事件を起こしている者の討伐、それが今回の瑞科がこなすべき仕事だった。医療関係の者ではない彼女にこの依頼が下されるという事は、この奇病がただの病ではない事を言外に語っている。
 神父から手渡された資料を見て、瑞科は綺麗な形の眉を僅かに寄せた。被害者は女性、とくに学生が多いらしく、まるで弱い者を狙っているかのような悪質さに瑞科の表情が陰る。
『教会』の諜報部隊が調査したところ、被害者達には何者かに生気を吸い取られたような痕跡があったらしい。
「ただの人の仕業ではない、という事ですわね」
 恐らく、魑魅魍魎、あるいはそれに準ずる何者かの犯行だろう。だとすると、そういった類のせん滅を目的としている『教会』が仕事にあたる事は道理と言えた。
「シスター白鳥、あなたにしか頼めない危険な任務です。どうか悪しきを払い、この街に加護を……」
 神父の言葉に、瑞科は当然のように笑みを返す。
「ええ、わたくしにお任せくださいませ」
 その笑みはどこまでも優しく、それでいて頼もしいものだった。

 神父と話し終えた後、すぐに瑞科は私室へと戻る。
 年頃の女性である瑞科はお洒落にも余念がなく、彼女の部屋のクローゼットにはセンスの良い衣服が行儀よく並んでいた。だが、今、瑞科が用があるのはそれらではない。
 普段着用のとはまた別の、特別な衣服だけを閉まっている専用のワードローブ。
 聖女の柔らかな肌から離れるのを惜しむように、ゆっくりと床へと彼女が身にまとっていた衣服が舞い降りた。その代わりに、今しがたワードローブから出したばかりの衣装が瑞科の肌へと触れる事を許される。
 教会を象った装飾が施された上着が、彼女の女性らしい魅力に溢れたその身体のラインをなぞるようにぴったりと瑞科を包み込む。形の良いヒップを守るのは、美しい装飾の刻まれた黒のプリーツスカート。短いそこから覗くしなやかな美脚を飾るのは、ニーソックスとガーターベルトだ。
 女性らしい愛らしい丸みをおびた肩には、鉄製の肩当て。小型なそれにもまた、細かな装飾が施されている。短めなマントが、聖女の決して敵に向けられる事のない背を飾り、白色の編み上げのブーツが彼女の膝を覆い隠した。
 姿見を見ると、そこには神聖で美しい聖女が立っている。私服や普段のシスター服とはまた違った魅力に溢れるその姿に、目を奪われる者は多いだろう。
 だがこれは、ただ瑞科の魅力を一層引き立たせる美しいだけの衣服ではない。最先端の素材で作られた特別な衣装。瑞科が任務の時にだけ身にまとう、戦闘用の衣装であった。
 その証拠とばかりに、ニーソックスの食い込む太腿にはナイフが携えられ、手には長い杖が握られている。
(準備完了ですわ)
 すでに、敵の場所にはあたりをつけている。頭の中でその場所に辿り着くまでの最短距離を計算しながら、苦しむ民に救いの手を差し伸べるために聖女は戦場へと向かうのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8402/白鳥・瑞科/女/21/武装審問官(戦闘シスター)】
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年11月21日

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