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『信者には祝福を(2) 』
白鳥・瑞科8402

 人けのない路地裏を行った先に、その店はあった。友達と共にやっと探し当てたその店へと辿り着いた少女は、何故こんな目立たない場所に店があるのかと嘆きながらも、嬉しそうな笑みを浮かべる。
 だが、店へと入ろうとした少女と友人は、不意にその場へと崩折れた。
「申し訳ありませんわ。少しだけ、おやすみしていてくださいまし」
 眠りに落ちた少女達を、瑞科は優しく抱きとめ安全な場所へど移動させる。『教会』に協力してくれている善良な組織から譲り受けた睡眠の香なので害はないはずだが、このような強引な手段を取る事は瑞科の望む事ではなかった。しかし、少女達をこの店に入れるわけにはどうしてもいかないのだ。
 何せ、今からここは――戦場になる。

 最近、少女達の間で噂が広まっている雑貨店。調査により、奇病がはやり始めた時期と、この店に関する噂が流れ始めた時期は重なっている事が分かった。偶然だと片付けてしまうには無理がある程に、あまりにもタイミングが合いすぎている。
「ビンゴですわね」
 案の定その店から怪しげな気配を感じ、瑞科は自らの推測が間違っていない事を確信した。
(純粋な少女達の興味を引く噂をわざと流し、売ったストラップを介して彼女達から生気を吸い取っていた……といったところでしょうね)
 そして、吸い取った生気を悪しき者に捧げていたのだろう。今回の事件を起こしたのは、悪魔を盲信する狂信者で間違いなさそうであった。
 敵はこの先にいる。気配からして、一人二人ではないだろう。裏に隠れている者がいる可能性も高いため、十を軽く超えるかもしれない。
 しかし、こちらは瑞科ただ一人。それは神父が瑞科の事を蔑ろにしているわけではなく、逆に彼女の実力を信頼しているが故の事であった。
(その期待に、応えないわけにはいきませんわ)
 艷やかな彼女の手が、ゆっくりと扉を開く。それが開戦の合図となった。室内に足を踏み入れ、すぐに瑞科は行動を開始。手に持った杖を掲げ、得意の電撃を店員に化けている敵に向かい放った。
 悲鳴と怒声。喧騒の中、いくつもの殺気が彼女の美しき肢体へと突き刺さる。しかし、その視線すら、瑞科を長く囚えておく事は出来ない。
 疾駆。駆けた聖女は一番近くにいた者へと、杖で一撃をくらわせる。更に、二撃目。大きく振り払った杖の軌道は、瑞科の計算した通りの場所……別の敵の身体へと叩き込まれる。
「な、何者だ貴様!」
 突然現れた美しい女性に、敵は動揺を隠せぬ様子だった。そんな隙を、みすみす逃す瑞科ではない。もはや彼らは、『教会』随一の実力を持つ瑞科に翻弄されるしかなかった。
「さて、裁きの時間ですわ。純真な少女達に手をかけた罪、この場で償ってもらいますわよ!」
 店内に置かれた棚や商品を器用に避け、瑞科は再び駆ける。電撃を味方につけた杖を振るい敵を怯ませ、更にその杖で追撃を加える。その瞬間に瑞科の後ろから襲いかかろうとした卑怯な相手にも、振り返り様に回し蹴りを食らわせた。
 それでも、狂信者達は数では自分達の方が勝っている、と。相手が女一人なのだから負ける事はないはずだ、と。心のどこかで油断しているらしかった。
 そんな油断を瑞科が攻めるのは、瞬きをするよりも簡単な事だ。彼らが、数の差ではどうする事も出来ない実力差に気付き、慌て始めた頃にはもう遅い。最も、最初からその事実に気付いていたとしても、彼らの力では瑞科の足元にも及ばないのだが。

 準備運動にもならない程の時間で、勝敗は決してしまった。傷を負うどころか、この身体に相手から触れられる事すら許さず、一人残った瑞科は眼下を見る。倒れた狂信者の身体は、まるで風に吹かれた砂山のように少しずつ塵と化してしまっていた。
「傀儡の身体……。あなた達はすでに、自らの身体すら悪しき者へと捧げてしまっていましたのね」
 瑞科の顔に浮かぶのは、哀れみだ。狂った信者達の向かう道には、決まって救いなどはない。
「くくく、我らの命など……あの方のためなら、安いもの……」
 不気味に笑いながら、最後の狂信者も空気へと溶けていく。
「もう遅い……、ぎ、儀式はすでに成功している……」
 残された不穏な言葉に、瑞科が返事をする事はない。もう聞く者はいないからだ。
 その代わり、優しき聖女は僅かの間だけ祈りを捧げる。それは、狂った果てに自らを見失い、死すら救いではなくなった哀れな彼らのための、せめてもの追悼であった。

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【8402/白鳥・瑞科/女/21/武装審問官(戦闘シスター)】
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年11月21日

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