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『信者には祝福を(3) 』
白鳥・瑞科8402

 狂信者の支部と化していた店は、瑞科が外に出た瞬間にまるで最初からそこに存在しなかったかのように消えてしまった。あの店自体が、狂信者が禁忌の術で作り上げたまやかしだったのだろう。
 件のストラップも、店と共に消滅したに違いない。これ以上犠牲者が出ない事に安堵しながらも、瑞科は足早にどこかへと向かい始める。
 神父から通信が入り、一度拠点に帰ってきて休むかと問われたが、彼女は首を左右へと振った。
「いえ、復活したと思われる悪魔を倒すまで、わたくしは帰りませんわ。それに、敵の居場所はわたくし、だいたい見当がつきましたの」
 悪しき何者かを復活させるために、生気を集めていた狂信者。だが、ただ生気を吸い取るだけを目的としていたなら、わざわざ目立たぬ場所に店を構える必要はないだろう。
 故に、その手段すらも何らかの儀式の一環だった可能性がある。だとしたら、重要なのは店の位置だ。
 端末で調べた結果、同時期に別の場所にも種類は違えど新しい店がいつの間にかオープンしていた事に瑞科は気付いた。
「やはり、ここですのね」
 そして、その店同士を地図上で線で結べば、ある場所を中央にした図形が描かれる。この中央にある場所こそが、恐らく敵の拠点に違いなかった。

 ◆

 辿り着いたのは、今はもう使われていない寂れた施設だった。
 建物内は静まり返っており、人けはない。ただ冷たい隙間風が、瑞科の艷やかな身体を撫でるだけだ。儀式のために用意した店ですら、傀儡しかいなかったのだ。拠点であるここに、もはや人は残っていないだろう。
 それでも落ち着いた面持ちで、冷静に瑞科は歩みを進める。強者でありながら決して油断しないところも、彼女の強さの一つだった。
 やがて、彼女の耳を久しぶりに風以外の音がくすぐった。何かを食らうような、不気味な音。何も置かれていない広々とした一室に、果たしてその怪物は立っていた。
 傀儡と化していた狂信者の魂すらも食らっていたのだろう。影に紛れた漆黒の怪物は、その鋭い牙を傀儡に立てていた。塵と化した傀儡すらも飲み込み、ゆったりとした動作で巨大な化物は瑞科の方へと向く。
 それはただ食欲という欲のためだけに生きる、醜い怪物だった。狂信者がこの化物に生気を捧げ何をしようとしていたかは不明だが、このおぞましい生物の復活のために純粋な少女達の生気が利用された事実に瑞科は眉を寄せる。
 次の瞬間、化物の腕が伸び、瑞科の立っている場所へとまるで槍のように突き刺さった。正確には、さっきまで瑞科の立っていた場所、だ。驚異的な反射神経で化物の攻撃を見切った瑞科は、華麗に跳躍しその奇襲を回避していたのだ。まるで羽がはえているのかと錯覚する程、空を舞うその姿は自由で美しかった。
「あらあら、せっかちさんですわね」
 くすり、と唇で弧を描き、瑞科は杖を構える。電撃が、周囲を明るく照らし出した。だが、手応えはない。
「電気は効かないようですわね。でしたら、こちらはいかがでして?」
 瑞科が操れるものは、電撃だけではない。放たれた重力弾が、怪物の身体を押さえつけた。苦しげに呻きながらも、化物は腕を細長く伸ばす。
 瑞科自身へと攻撃を当てるのは難しいと悟ったのか、怪物が狙いを定めたのは彼女の武器だ。まるで食らうような勢いで、怪物は杖へと攻撃を続ける。これではしばらく、杖を自由に使う事は出来ないだろう。
 だが、瑞科の武器は杖だけではない。風を切るような速さで、瑞科は杖を持っていない方の腕を振り上げる。
 彼女の手に握られているのは、ナイフだ。太腿に携えていた瑞科のもう一つの武器だった。そして、それは今回の戦いの終わりを告げる鐘の代わりとなる。
 ナイフにより切り裂かれた怪物は、どす黒い血を流しながらゆっくりと倒れていった。
「おやすみなさいませ。もう二度と目覚める事がありませんよう祈っておりますわ」

 ◆

 依頼を終え拠点に戻る途中、瑞科はふと聞き覚えのある声に足を止める。今しがたすれ違った少女達は、昼に瑞科が喫茶店で食事していた時に隣のテーブルにいた子達であった。
 目当ての店が見つからない事に肩を落とす彼女達の後ろ姿を、瑞科は優しげな眼差しで見送る。
(願わくば、ジンクスを信じる微笑ましい少女達に、祝福があらん事を)
 祈りを終えた聖女は、穏やかな日常の中に帰っていく。
 次はいったいどんな任務が待っているのか。まだ見ぬ未来へと思いを馳せながら、瑞科は今回も街を救えた事に胸を高鳴らせるのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8402/白鳥・瑞科/女/21/武装審問官(戦闘シスター)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございました! ライターのしまだです。
今回の瑞科さんのご活躍、このようなお話になりましたがいかがでしたでしょうか。
お楽しみいただけましたら幸いです。何か不備等御座いましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、このたびはご依頼本当にありがとうございました。
また機会がございましたら、よろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年11月21日

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