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『Bleu et 』
浅黄 小夜ka3062

久々の休日。
小夜は海岸沿いの大通りを歩いていた。
ハンター業がリゼリオでの生業になりつつある小夜にとって、毎日は追われるように忙しい。束の間の小休止といったところだ。
左手に臨む海は、良く晴れた今日、沖合までが美しく青い。きらめく波の合間には船の影がちらちら見える。一方の右手にはさまざまな店が所狭しと立ち並んで、多くの客で賑わっている。行き交う人々の喧騒。笑う声。明るい往来の光。リゼリオの街並みを眺め渡して、小夜はほっと息をついた。
こんな気分で街を歩くのは久しぶりかもしれない。

「そこの可愛いお嬢さ〜ん! 抽選会やってかな〜い?」
「はいっ!?」
急に声を掛けられて顔を上げると、ドレッドヘアの男が近づいてくるところだった。
「タダよぉ〜、なのに豪華な賞品もらえちゃうの〜! どう?」
「えっ…いや」
思わず身構えた小夜にもおかまいなしだ。
「1等はなんと! かの戦艦の搭乗券! はい!」
のけぞる小夜に、まるで搭乗券そのもののように「抽選券」と書かれた紙を握らせる。
インチキくさい話だと思ったが、抽選券の賞品欄を見たら、心が揺れた。

1等  サルヴァトーレ・ロッソ搭乗券(ガイド付き)
2等  オーシャンホテル&スパ御宿泊券
3等  リゼリオ公立水族館入場券
4等  リゼリオ市内一日周遊券
参加賞 リゼリオ特産品3点セット

「…ロッソ…」
地球で建造されたサルヴァトーレ・ロッソは、言い換えればその存在丸ごとが小夜の故郷で出来ているともいえる。
「そう! 普段は一般公開されていない所まで案内して貰えちゃうんだって!」
リゼリオで弱気になった時、やはり心がリアルブルーへと還っていくのを感じる。ここで頑張るんだと思っても、だ。いつかあるかもしれない地球帰還の時、その時のためにと思えば頑張れる。だから、サルヴァトーレ・ロッソを感じたい。
とはいえ1等は1等だけに当選するのは難しそうだ。
しかし4等にも惹かれた。市内の交通機関であれば何でも乗り放題らしい。それはそれで休日らしい一日を過ごせそうだ。
小夜は抽選券を手に、男が指さす抽選会場へと向かった。


行列ができていた会場で、結構な順番待ちの後、小夜の番が来た。
「ゆっくり回してくださいね〜」
「はい…」
目を瞑って抽選箱のハンドルをぐるんと回す。
1等が当たりますように。そうでなければ4等が当たりますように。
ザラザラ鳴る八角形の抽選箱から軽やかな音を立てて転がり出たのは、水色の玉だった。
抽選スタッフが笑顔でベルをふりまわす。
「3等出ました〜! リゼリオ公立水族館の入場券でーす!」
「…さ、3等…、当たってもうた…」
「おめでとうございま〜す! 抽選会は来月末まででーす! よかったらまた来てくださいね〜!」
リゼリオでも特に有名なことは小夜でも知っていた。が。
思いがけず手に入れてしまった入場券を見詰めた。


「ほんま、綺麗やわ…」
館内の人ごみの中、水槽を前にして小夜は小さく呟いた。
驚くほど広く高い青一色のドーム。そこに、名高いリゼリオ公立水族館で最も有名な展示物、超巨大水槽があった。
砂地に影を落として悠々とゆく大型魚から、群れなして泳ぐ銀色の魚たち、珊瑚の間を縫うカラフルな魚や軟体生物まで、様々な海の生き物たちがいる。
こんな休日は予想もしていなかったが、案外悪くない。

半透明のお椀のような生き物たちが、ふわふわと水中を漂っていく。
微細な色彩の粒が、波うつように透明な体のラインの上を流れて、長く曳くひれは天女の羽衣のようだ。
「クラゲはいつ見ても不思議やなぁ…」
水槽に張りつきながら小夜は呟く。
そういえば、学校の夏休みに友達と遊びに行った遠浅の海にもこんなクラゲがいた。初めて見た小夜が知らずにぷよぷよ触って遊んでいたら、隣にいた子が刺されて泣き出して大騒ぎになったんだっけ。それから暫く海水浴がこわくなって……
ふと、壁に貼られていた一枚の説明書きが小夜の目に入った。
【この巨大水槽は水槽面にかかる大水圧をマテリアル技術によって調整維持しています】
でも。やっぱり。
(…ここはクリムゾンウェストなんやね…)
小夜のちょうど正面、ゆったりと浮かんでいる落下傘のようなクラゲ。
こんなに近くにいる気がしているのに。
小夜との間にある、魔法強化された、この分厚いガラス壁。
水槽に耳を押し当ててみる。
泳ぐたくさんの魚たち。水面に浮かび上がってゆく美しい泡。そんなふうだったから、水中の音も聞こえるかと思った。
でも、ガラス越し、聞こえなかった。
生き物たちの息吹も、水の音も。何も。
青い水の向こうは、ただ、しん、と静かで、冷たかった。
そっと身を離した。
水槽は、ただ青くそこにあるだけだった。

「……さいなら、ね」

彼らに笑みかけて、手を振って。
振った手は、く、と握り込んだ。
「順路」と矢印が書かれた札にそって歩き出す。
魚を指差し歓声をあげる子どもたち。
休日のリゼリオの家族連れたちに紛れるよう、小夜は消えていった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3062/浅黄 小夜/女性/16/魔術師(マギステル)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、工藤彼方と申します。
このたびの発注、たいへんありがとうございました。
日々忙しそうな小夜さんには、せっかくの休日ですので、
もう少し街歩きや水族館のあれこれを楽しんでいただきたかったのですが!
字数の関係上ここまでと相成りました…。
あらためてまして、ありがとうございました。

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ファナティックブラッド
2018年11月21日

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