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『瑠璃に舞い降りた初の白 』
静玖ka5980


「冬も近うなっとるんに、なかなか寒うならしまへんなぁ」
はぁと息を吐くも、吐息微かにしか白く染まらない。
静玖が住んでいた土地では、冬になると厳しい寒さに加えてましろの雪が降るものだった。
家出、という形で土地を離れた静玖たちは、今は兄弟水入らずで暮らしている。
鬼という種族がこの世界に名を馳せ始めたのは最近の事。
人にはあり得ない角を持つものを、人々はなかなか受け入れられずにいた。
それでも少しずつ歩み寄ってくれる人たちもいて。
同じハンターとして戦う仲間として、背を預けてくれる人もいて。
静玖はそれがほんの少しだけ気恥ずかしくも、嬉しかったりもした。

きっと、自分の半身や兄も、同じように思ってくれているだろう。
思ってくれているといい。
だって、色付く草花や素敵な歌や踊り。美しい景色に心奪われるのは、鬼も人も同じだろうから。
外見がどうであれ。力がどうであれ。生まれがどうであれ。
いつかはきっと、全てとは言わずとも分かり合える時が来る。
静玖はそう思っている。

ふと、視界を過った小さな何かに目を奪われる。
ひらりひらり、まるで舞い散る小さな花びらのようなそれ。
あまりにもほんの少しで分かり辛かったけれど。
静玖の瑠璃の髪に、着重ねられた金襴の着物の上に。
大切な扇の上に。
舞い落ちて、溶けていくのは。
「あらまぁ、まだそんな寒うないのに、気の早い雪ん子はんが遊びに来ぃはったわ」
瓶覗の瞳がゆうるりと細められる。
雪が舞うには気温がまだ低くない筈だが、どうやらあわてんぼうの雪の子がいたようだ。
前髪に隠れたようにそっと生えた真白と深紅の角にも、ひやりと小さな雪の落とし物。
小さく笑って静玖は身を翻した。
家の中には大切で大好きな人たちがいるだろう。
どうせなら、一緒にこの一足早い雪ん子を見てやるのもいいかもしれない。
なんなら即興で歌や踊りを舞ってもいい。
あぁ、なら楽器は濡れないように軒下で。
もし見物人が寄って来たなら、それを縁に出来れば上々だ。
「でも、その前に……」
軒先に置いてあった桶の中の水は、流石に冷たかった。
ひんやりとしたその水へと、我慢して手を付けた。
後ろから響く足音にそっと水から手を抜いて、振り返る。
「静玖、あんまり外にいると風邪を引くうひゃああ!?」
兄の言葉の途中でぴとり、と水に浸けていた両手を首筋に当ててやれば、それはそれは素敵な悲鳴が上がった。
「え?なぁに。どうしたの静玖」
「ふふ。ちょうど悪戯に成功したところやったんどす」
現れた双子は、その瞬間を見逃してしまったせいか、普段の無表情からほんの少しだけむっと膨れているように見えた。
「ほら、二人とも。まだちらちら散ってはるだけやけど、初雪さんどすえ?」
愛する兄妹たちと観る初雪は、揃いの瑠璃髪へとちらり、ちらり。
(あぁ、こんな平和な日も、ええもんどすなぁ)
小さく微笑みながら、静玖はそっと空を見上げ続けるのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5980/静玖/女性/11歳/符術師】
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ファナティックブラッド
2018年11月21日

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