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『調香師と××と 』
踏青 クルドaa1641hero002


「ふぅ……今回の調合は当り、と」
趣味というかそれ以上というか。新しい調合を試しながら、踏青クルドは再度パイプを銜える。
今回は新しく手に入った香木を使ってみたが、なかなかに悪くはない。
ふわりと漂うのは甘くない、どちらかというと爽やかな香り。
僅かにスモーキーな香りが後に漂ってくる。
恐らく前者の爽やかさは香草。後者のスモーキーが香木だろう。
ゆうるりと金の目を僅かに細め、香りを楽しんでいたクルドだが。
ふと、足元――正確には、己のズボンを引っ張る気配に視線を降ろした。

そこにいたのは、茶色の髪に煤けた煙色の瞳をした、小さな子供だった。
「ねぇおにいさん、そのかおり、すき?」
にこりと笑うその子供が指さすのは、クルドが銜えたパイプ。
「あー……なんだ、おまえさん」
やや気怠げに腰を落とし子供と視線を合わせたクルドが、首を傾げ問いかけるも、子供は笑顔を絶やさない。
「おにいさん、そのかおり、すき?」
煙色の瞳は、期待を込めてクルドを見つめている。
「まぁ、悪くない」
「そっか!」
好きか嫌いかで訊ねた子供に、そのどちらでもない言葉で返答したというのに、子供はまるでクルドの返事の真意を理解しているかのように笑う。
「で、おまえさんは結局どこの子だ。名前は」
周囲を見回すも、親らしきものどころか、人っ子一人いない。
ならばこの子供は一体何処から、誰と来たというのか。
まさか一人でここまで来たのなら、最悪人のいる場所まで送り届けてやらねばならないだろう。
自分がやや巻き込まれ体質的なのは、相棒である能力者との出会いで嫌というほど理解している。
「おにいさんは、いろんなかおりがするね。でも、そのかおりがいちばんになってくれると、うれしいな」
「聞いちゃいないな……」
こちらの問いかけには答えない。けれど、どうやら子供は観察眼というか嗅覚は異常にいいらしい。
「我は調香師だからな」
「そっかぁ」
子供は笑いながら、ズボンのポケットから一本の小枝を取り出した。
瞳を閉じてからそっとその小枝を額に当てると、ふぅ、と息を吹きかける。
(……?)
何処かで見たことがある木のようだが、小さな小枝のせいで判別がつかない。
訝しむクルドに、子供は満面の笑みでその小枝を差し出した。
「あのね、そのかおりには、じゃきはらいのこうかがあるの」
ぼくを、わたしを、きにいってくれたあなたに、じゃきがよりませんように。
掌に落とされた小枝から視線を上げたクルドの眼前から。
子供の姿は、掻き消えていた。

掌に落とされた茶色の小枝を、鼻先に寄せる。
調香前のせいか香りはまだ弱いが、漂うのはスモーキーな香り。
(茶髪に、煙色の瞳……)
成程、不思議なこともあるものだ。
子供の正体を思い描きながら、クルドはもう一度パイプを口に銜え、香りを楽しむのだった。


(了)
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【aa1641hero002/踏青 クルド/男性/22歳/調香師】
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2018年11月21日

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