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『boxes' pride 』
アルヴィン = オールドリッチka2378)&エアルドフリスka1856

●器の言い分

「ヤァヤァ手伝いに来たヨ、ルールー!」
 宿屋の主人に在室を聞いていたアルヴィンは、あえてノックをせずにドアを開けた。階段を上る足音を忍ばせたわけでもないし、何より階下でエアルドフリスの所在を聞く声を控えていたわけでもないので。
「別に頼んどらん、帰れ!」
 ほら、予想通り。ハリセンを構えた薬師が待ち構えている。
(鍵を閉めたっていいのにネ?)
 そこまでしないと分かっているが。忙しいなら、今の作業を進めていればいいのに、態々手を止めて、ハリセンを用意して。そうして構ってくれるのだから、誰だって甘えてしまうというもの。
「またまたァ、ひとりで寂しいルールーを労いに来てあげたんダヨ☆」
「誰がそんな」
「思い当たるのはひとりデショ?」
 恋人のことを匂わせれば、小さく溜息が返る。
「……座ってろ」
 くれぐれも、周りのものに触るなよ?

 弟子がブレンドし、来客用として置いている特製香草茶を2人分。エアルドフリスがカップをもってくるのを、応接用の椅子にかけながらアルヴィンが待ち受ける。
 作業途中だったはずの道具類は蒸らす間に片付けたらしい。急ぎの仕事というわけではなかったということか。
「いただきマス☆」
 飲みやすい温度のそれを笑顔で受け取り、一口。
 言われた通りに大人しくしている貴族の様子に違和感があるものの、薬師もカップに口をつけた。
「ルールーは結婚しないのカナ?」
 ブーッ!?
 相談をしに来る客が落ち着いた気分になれるように。そんな意図をもってブレンドされたはずの香草茶も台無しである。
「なっ……!?」
 拭うにしても手元がおぼつかない。あまりの突然過ぎる言葉に動揺する薬師に、胸ポケットからハンカチを取り出し差し出す貴族。
「助かる。……じゃない!」
「ワァ☆ 接客が板についてるネー」
 律儀に対応する己に突っ込む薬師はまだ翻弄されている。
「……答えろアルヴィン、何を聞いた」
 あいつが何か言ったのか。据わった目を向けられても貴族は動じない。
「何も?」
「じゃあ、なんでだ」
「お茶した時に、雨が降ってネ」
 はやく要点を、と急かすような視線を気にせず、自分のペースで続ける。
「暇つぶしに、カードをしたんダヨ」
 言いながら胸の隠しからカードを取り出す。薬師に向けるのは逆位置の、ハートの4で。
「……だからか」
 それだけで察した。過去の師に教えられた中に占術も含まれていたのだ。師は複数で、それぞれ流派のようなものがあった。占術もひとつの手法として会得していて……そうした知識に関しては、独学の貴族よりもあると自負がある。
「実際は横向きだったケド」
「……ッ。アルヴィンお前、わざと」
「でも、知りたいデショ?」
「……」
 これは諸説あるのだが。
 自分の内面と見つめ合うだけならともかく、自分と誰かの関係を絡めて視ることはあまり、良いものとはされていない。視る本人の意思が介在して歪みが生じるから……と考えられることが多い。
 実際、薬師は自分を視ることさえもしない。視たくないという意思もあるかもしれないが。
「ねぇルールー、暇つぶしに付き合ってくれないカナ?」
 そこに甘言とも呼べる言葉が滑りこむ。視る者が二人なら、別の誰かの手が入るなら。介在する力は分散するという考え方。……随分と、今の状況には都合のいい言葉だ。
「それも、お前が知りたいからか?」
 全て、貴族が感情を、愛を知るためなのか、と。
「……ソウ……だね。ソウなのカモ?」
 一度、きょとんとあどけない表情になって。ゆっくりと頷く。この提案は無意識の、つまり本能的なものだったようで。
(だから手に負えない)
 恋人とは別の意味で目が離せない相手の様子に、薬師は目を細める。いつもは飄々としているのだが、妙な所で危なっかしい。無茶はしないが、相手の許容可能な場所を探る様に、突拍子もないことをしでかす男。何だかんだと懐に入れてしまっているから、放っておくわけにもいかなくて。
「……やり方は任せる」
 今更だと思いながら、視る許可を出した。
 自分でも選べない何かの、切欠が見えてしまうかもしれなくても。互いに視ることになるのだ、おあいことしたものだろう。
(あくまでも切欠だ。選ぶのは……)

●護符の整理

「同じ方法が一番だからネ」
 既に用意されていたカードを取り出し、テーブルに伏せて混ぜる。互いに触れて混ぜて、また散らして。
 加減乗除全て利用して7になれば終わりとの説明は混ぜる最中に終えている。
 行程の中で一番大事なのは、視るのはあくまでもアルヴィンであるということ。
 手順をすべて終えたと手を差し出せば、エアルドフリスが目を瞑った。手探りで一枚を探り当て、捲る。

 ――ダイヤのキング、横向き――

「ワァ、流石ルールー☆」
 純粋な賞賛の筈なのに、アルヴィンが言うとどこか違うように聞こえる。そう思いながら目を開けたエアルドフリスは、意味するところを察してテーブルへと突っ伏した。
「男性的な魅力溢れる、デモ本当は独占欲いっぱい☆」
「言うな……ッ!」
 容赦のない追い打ちにハリセンを探すものの、羞恥が強すぎてままならない。実はアルヴィンの座る椅子の後ろに隠されているのだが、思いいたる余裕もない。
「フフーフ。勿論、誰にも言わナイに決まってるヨー」
 それが視るものの決まりデショという貴族。先のカードについては互いに言わぬが花、視る者同士の秘密の同盟ということで暗黙の了解となっている。

 ――ダイヤの3、正位置――

 エアルドフリスに倣って目を瞑り、触れてすぐの一枚をそのまま捲った。持ち上げたらそれだけで縦横に気付いてしまいそうだったからだ。
「過去から、視えてるのカナ」
 ぽつりと零す様子に、薬師は声を掛けなかった。家庭内のもめごとなんて、本当の親を知らない彼には未知のものだ、そして簡単に触れていいものではないものだというくらい、知っている。
「次は俺か」
 聞かなかったふりをして、二枚目を探ることにする。

 ――ダイヤの4、正位置――

 アルヴィンの声はない。ないのだが。
「だから嫌なんだ……」
 もう一方の手で顔を覆う。過去に受けた教育はどれも師達との出会いがあってこそだが。エアルドフリスに素養があったからこそとも言える。つまり、視ようと思えば視えるのだ。視たくないと思っていても。視る手段を、道具に触れれば、勝手に応えてくるとでも言えばいいのか。
「でも、お揃いみたいなものデショ?」
 いつも通りほどではないが、声が聞こえる。多少は回復したのだと安堵しながら顔をあげた。
「あいつもそう出たのだったか……ハートの4、確かに、そうだな」
 それも結局は自分の問題の気はするが。
(まだやらなきゃいけないのかね)
 正直続けたくはない。だが中途半端も良くはないから。

 ――予備札、白紙――

「ヤッパリ☆」
 無造作に捲った一枚を見たアルヴィンの、簡潔な一言。
「そこはジョーカーとしたもんだろう」
 言外に何故かと尋ねる。答えが返ってくるとも思ってはいないが。
「僕が視るナラ、必要だと思うカラネ」
 それは心を無にするためにか、それとも自身を示すものとして入れているのか。エアルドフリスにはどちらとも判別がつかない。
「しかし、それはどう使うのかね」
「ゼロの代わりダヨ?」
「……そういうことにしておこうか」

 ――ダイヤの2、逆位置――

 早く終わってしまえばいいと思ったから引き当てたのだろうか。
(自分で答えが出せるかと聞かれたら……)
 答えを出さないまま、もう何年もこの地に留まっている。
 いつか還るつもりで、流れるつもりで。停滞を続けている。
「フフーフ、これは僕の出番カナ☆」
 思考の海に沈みかけたエアルドフリスをアルヴィンが遮り、掬い上げる。気付けばいつもの笑顔で、薬師愛用のハリセンを振りかぶっている。
「!?」
「考えるな、感じろ! ッテ、リアルブルーの言葉にあるらしいヨ☆」
 すぱーん!

「道理で傍にないと思った」
 勝手に人のものを盗るな。お前はそれでも聖導士かと説教をするものの、アルヴィンは一向に気にしない。
「愛のタメなら許してくれるヨー☆」
 神が、ではない。この場合はエアルドフリスの恋人が、になるのだろうか。
「……で、7になったが。これで終わりでいいのだろう?」
 話題を長引かせたくなかった薬師が尋ねれば、頷く貴族。
「それじゃ、お片付けしなくちゃネー」
「いいや。……お前は終わってないだろう?」
 今更だ。
 視おわるまでは、帰さん。 

 ――ダイヤの5、逆位置――
 ――ダイヤのA、正位置――

「ほぅ、これで互いに7になったじゃないか」
 そうなるまで引かせた当人であるエアルドフリスが、やっと終われるなと笑みを浮かべる。
「僕が不安定だトカ、野望に失敗するトカ、ルールーは心配してくれナイの?」
 微塵も辛そうに見えない顔で尋ねるあたり、アルヴィンも本気では言っていない。
「しないな」
「えぇーヒドーイ!」
 頬を膨らませて子供のように振舞う様子に、軽く噴き出す。
「すまんな」
 くっくっ……すぐに笑みを堪えきれないようで、少しだけ間があいた。
「だがアルヴィン。お前がもしそうなった、というのなら……俺は安心するだろうと思ってな」
 感情が欠けた様子の友人が、強い野望を持ったり、心の揺らぎを感じるというのなら。それは喜ばしい変化だと思える。
「まあ、本当かはわからんものだがな?」
 視えたものだけが真実とは限らない。切欠はあくまでも切欠でしかないのだ。

●器に

 鈴の音は、邪悪なものを振り払う力があると言われている。
 濁りなき金剛石は圧倒的な強さを秘め、何物にも汚されず、前を向ける程の強い護りの力があるという。
 財宝の証としても分かりやすい象徴の硬貨は、時に母なる大地を、命を産む力を示すことがある。

 ――欠片を集めるだけではなく。自らで、力を掴む道も。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2378/アルヴィン = オールドリッチ/男/26歳/聖輝導士/曇りを祓い、己を視つけるか】
【ka1856/エアルドフリス/男/30歳/魔術薬師/迷いを祓い、先を視すえるか】
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2018年11月21日

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