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『“さよなら”はこの手で弔う 』
空月・王魔8916

 まるで、離島の様に隔離された村には“人だったモノ”が、理性の無いゾンビの様にただ視界に入った人を喰らおうとする。
 村に足を踏み入れた空月・王魔(8916)は、蒼玉の様に青い鋭い眼光で見据えるとコートを翻し、魔皇殻の弓を握りしめると駆け出した。
 射る、のではなく、矢を手にしてソレを近接武器代わりに、目の前の怪異の胸を貫いた。
 本当は、躊躇っていた。

 元は人、救済する力があればーー……村を救う事は出来るんじゃないか?

 目の前の怪異を倒しながら、王魔は少し悲しそうな瞳で消えゆく彼らを瞳に映す。
 絹の様に美しい髪が、激しい戦いの中で翻る度にキラキラと太陽の光で真珠の様に輝く。
 矢を弓の弦につがえると、ギリギリと弓が軋む音共に引き放つ。
「やめて! それは、その人はっ! 私の双子のっ!」
 黒く染められた白無垢の怪異を矢で貫いた瞬間、一人の少女が王魔の背後から声を上げた。
 思わず弓を下げようとするが、怪異は容赦無く呻き声を口の隙間から漏らしながら、王魔に向かって駆け出した。

 姉妹の前で、片割れを倒すべきなのだろうか?

 人として、家族を失う者に対して、王魔は躊躇う。
 矢を持つ右手が微かに震える、が。
 しかし、王魔は魔皇殻の弓を再び強く握り締めると、矢じりを真っ直ぐに迫り来る怪異に向けた。

 私には、元に戻す力はない……だから、せめてーー……

 この、苦しみから開放ーーしてあげよう。

 “核”となる部分、つまり弱点はあると感じた王魔は、少女に問う。
「弱点は?」
「……です。……び、首の刺青、です」
 少女は今にも泣きそうな、震える声で答えると地面に膝を着くと、嗚咽を漏らす。
 王魔は怪異の首に視線を向けると、首輪の様に見たことも無い模様が刻まれていた。

 さようなら。

 そして、ごめんな……静かに眠ってくれ。

 右手が矢から離れると、矢は真っ直ぐに首に刻まれた刺青を貫いた。
「私が、私が……ごめんなさい。だから、本当のお父様を呼んで……村の全てをあちら側に、持っていきます」
 少女が立ち上がると、倒れている片割れの頬を両手で包むと頬に涙が伝った。
 倒しただけでは終らぬ怪異。
 王魔は、己の無力さにグッと拳を痛い程に握り締めた。
「……何処の、何方かは知りませんが……この子を山に持って行きたいので、お手伝いをしていただけませんでしょうか?」
 と、少女は王魔を見上げた。
 王魔はただ頷くと、少女と一緒に怪異となった片割れの骸を一緒に山へと運んだ。
「もう、大丈夫です。もうすぐお父様が来ますので、お姉さんは村から出て下さい」
 と、少女は少し悲しそうな表情で言う。
 これから起きる事を見た王魔は、首を横に振った途端に身体中が何かの存在を感知、いや、生存本能が逃げろと警鐘を鳴らす。
「お父様は、冥界の住人。私たちは、半分人ではありません。ここに、居る事が間違いで……現にこうして侵食しています」
「だが!」
 王魔が声を上げると、少女は首を横に振ると後ろを指した。
 その方向に、視線を向けると海から怪異が次から次へと村に押し寄せていた。
「ただ倒しても、儀式をするか、この門を塞がない限り……怪異は必ず現れます」
「……仕方がない。私一人では無理……という事だと言いたいのか?」
 少女の言葉に、王魔は表情を1つも変えずに問う。
 肯定するかの様に、少女はゆっくりと頷くと村の出入り口を指す。
「だが、生きている村人だけは避難させてもらうからな」
 少女の返答を待たずに踵を返すと、王魔は怪異になっていない村人を連れ、村の外へと避難させた。
 先程まで少女が居た場所に門が生成され、黒い怪異は導かれるように門の向こう側へと消えた。

 私は、少女を助ける事さえ出来なかった。

 力だけでは、限界がある事を痛感した王魔は、避難させた村人達を近くの街に受け入れさせる様に手配をした。

 せめて、生き残った村人達が、幸せになる事を祈ってーー……

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8916/空月・王魔/女/23/ボディーガード(兼家事手伝い)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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東京怪談ゲームノベルの発注ありがとうございました。
納品がかなり遅れてしまい、本当にごめんなさい。
意に沿った内容になったかは分かりませんが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
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東京怪談
2018年11月21日

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