▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『 新たな敵と新た味方 』
煤原 燃衣aa2271)&アイリスaa0124hero001)&火蛾魅 塵aa5095)&阪須賀 槇aa4862)&阪須賀 誄aa4862hero001)&エミル・ハイドレンジアaa0425)&世良 杏奈aa3447)&藤咲 仁菜aa3237)&楪 アルトaa4349)&エリズバーク・ウェンジェンスaa5611hero001

第一章 衝突

「おい、お前。御前に彼女がわかるってのかよ」
 どすの利いた声。ただならぬ覇気。それを受けてもまだ杏奈は涼しげだった。
 ここは戦場のど真ん中。ゾンビの群の中。
 その中で塵と杏奈はお互いにらみ合う。
「あいつの魂はなぁ、俺と一緒なんだよ。ずっとここでな。叫んでんだよ、苦しみをよ!」
 塵は怨念の声を聴く力がある。ただ、霊魂に干渉できるのは塵の専売特許ではない。限定が無い分むしろ杏奈の方が強いのではないだろうか。
「甘えたことを言わないで、人が一つの側面だけなわけがないでしょう?」
 杏奈は空中で何かをなでる動作をした。それが皆には何をしているか分からない。
「泣いてるわよ、彼女が」
 杏奈が告げる。
「おめぇに聞こえるはずねぇだろ」
 場の剣呑さが増していく、それが楽しくて青龍は笑った。
 その笑い声だけが、天国と地獄を合わせたようなこの町に響く唯一の音となる。
「てめ、目障りだな。殺してもいいが。それよりお前の目の前で旦那をつるしたほうが話しは早そうだな。死んだ人間の声が聞こえるんだろ? だったらよぉ。旦那が生きてても死んでても変んねぇんじゃねぇ?」
「あなたは楽そうでいいわね」
「あ?」
 いつもは聞けない、とげのある声で杏奈はそう言葉を投げた。
 溜息と共に髪をかきあげ、ぞっとするほど冷たい視線を塵に送る。
「全部殺せば解決すると思ってるんでしょ? それで解決したことにしてる。けど違う。だからあなたは大切な人を一人も守れないのよ」 
 杏奈は知っている、自分を、他人を、未来を守るために自分で勝手に傷ついて行ってしまう彼を。 
 悩んで苦悩して、ズタボロになって。でも家族にやわらかく微笑む彼を。
 杏奈は知っているのだ。選択肢は滅ぼすだけでないと。
 人はわかりあえるのだと。
「……きめた。お前殺すわ。いいよな燃衣」
 その言葉に誰かが声を返す前に世界に異変が起こった。黄金の歌がひずんだのだ。
 悪夢の夜は過ぎ去り、今魂亡き亡者たちは魂のある亡者たちへとなり替わり大人しく虚空を眺めている。
 全ては杏奈の魂と触れ合う力。そしてアイリスの地獄を抑え込む結界にて維持されて起きた現象だ。
 今アイリスは休眠の淵にいる。その輝きは弱弱しく点灯を繰り返し、片羽はぼろぼろと崩れて足元を覆う。
 完全休眠を防ぐために体の機能の半分をカットして結界維持に回しているのだ。もう長くは持たない。
 本来であれば一般の英雄にはできない芸当だが、アイリスは本来神話級の精霊である、それに加えて宝石と華と大地の属性を持っている。この土地の霊脈と接続できたのが功を奏した。
 いまだレディケイオスは健在。
 だがしかしだ。すでに戦いは終わっている。
 青龍は燃衣に馬乗りになられて身動きができない、あの美貌は腫れあがった顔面の皮膚で崩れている。
 ついでに白虎は逃亡の一手である。
 ではなぜまだ結界を維持する必要があるのか。それはここにいるはずのない不吉な男の登場ゆえ……。ではない。アイリスは語る。
「今、玄武の細胞はこの町、土、何なら零脈を汚染している。今私が抑え込んでいるが、この結界が外れた時、爆発的に広がる可能性がある。それでも争っている暇はあるのかな?」
 ゾンビたちはまだいいだろう、杏奈が今送る準備をしている。魂を天に、肉体を地に。
 残されたモノへ伝えたい言葉を残して、その身は炎へと変えるべく大きな火を町の中心に灯している。
「本当は、別々に埋葬してあげたいのだけど」
 杏奈はそう苦しげな表情を見せた。だが仕方がない、アイリスも限界が近ければ杏奈も限界が近いのだ。
 青龍と白虎との戦いは楽勝とはいかなかった。全員が全ての力を振り絞って、やっとここに立っている。 
「自分を責めることはない」
 アイリスが杏奈……いや全員に言った。だが暁の表情は暗い。
「と、割り切れないんだろうね。まぁ仕方ないだろう」
 そうアイリスは瞳を閉じる。
「で? この状況で現れてなんだってんだお? 手伝ってくれるのかお?」
 告げる槇。ここで何にもしないのにでてきたのだったらそれはおまぬけというものである。
「あん? 俺が何でおめぇらを?」
 どうやら協力するために出てきたわけではないらしい。
「とりあえず、その糞アマぶち殺したらおまえな」
 そう睨む塵の視線を受けて槇は半歩後ろに下がった。すると共鳴を解いて佇んでいた誄の肩にぶつかる。
「こちらとしてはあなた達が現れた理由が不明なんだけど。評判がよくないの自分で解ってるよね? それも加味してどうしたいか表明してくれないと困るんだけど」
 誄はそう塵に言葉を返す、それに対して塵は何事か考え込み口を開こうとした、その矢先だった。
「もう、面倒くさいではありませんか小悪党。全てを更地に変えてしまえばよい話でございましょう?」
 次の瞬間。魔術弾が暁の面々へと降り注いだ。
 それはガードしようにも許されず全員の体に突き刺さる。
(弾道が曲がった?)
 誄の腹部を貫通する弾丸は、確かに回避したと思った一撃だったのだ。しかし。
 彼女は器用なことに放った弾丸を曲げ、誄の腹部に魔術弾を叩き込んだのだ。
「誄お兄ちゃん!」
 あわてて駆け寄る仁菜。
 その仁菜を遮ろうと動く塵。
 その動きについていく燃衣。燃衣は塵の肩を掴んで引き寄せて。次の瞬間霊力の塊が二人の間に打ちこまれた。
「てめぇ……。やっぱろくでもねぇ奴らだったな」
 アルトが激昂する。弾薬が底をついてスーツのみとなっていたが普段の威勢はそのままだ。
「いえ、ごめんなさい。私まどろっこしいお話しが苦手で」
 アルトへ穏やかな声が降る、その時初めてその姿を見ることができた。
 たおやかな笑み、淑女然とした要望。しかし。その手には確かな敵対意志が握られている。
「あいつ……見たことある」
 誄は体を起こそうとすると仁菜が駆け寄って体を抱き起した。
「動かないで、血がこんなに」
 この出血量はまずい。けど目の前の敵の方がやばい。
 そう誄の本能が警鐘をならす。
「逃げろって言っても逃げないだろうね」
 誄が告げると仁菜は首を振る。
「そんなこと、できるわけないでしょう?」
「本当は兄者だけでもって言いたいんだけど」
 誄は仁菜の肩を支えに立ち上がり、そして槇と並ぶ。
「弟者……」
 か細い声で鳴く兄の姿に誄はやれやれと呆れた笑みを浮かべた。
 怖いはずなのだ。だけど引かないのは兄にとっての一番の恐怖は仲間がいなくなることだからだ。
 その気持ちは誄も分かる。誄も同じ気持ちだから。
 一皮剥けば血と暴力が溢れ出すこの狂った世界。
 物分かりの良すぎる誄がココで正気を保つ為には精神的支柱が必要だった。
 誄も誰かに心を預けてる。
 槇だ。誄には槇が必要だ。そして槇には同じように暁が必要だ。
「だから兄者を仲間を傷付ける奴は……許さない」
 殺意を向けるなら殺意で返す。それが誄の流儀だ。
 エキシビジョンの幕が上がる。

第二章 光とそれを飲むもの

 先ず塵は杏奈に異形の蝶を差し向けた。 
 その蝶はゆったりと空中を羽ばたきながら杏奈に向かう。
 その眼前に仁菜が立った。
 今杏奈がダメージを受けるのはまずい。
「燃衣! 避難していた人たちが」
 町の外にいつの間にかバリケードが張られていた。
 見上げるような巨大な石の壁が町の道路を覆っている。
「いったいどうやって!」
 燃衣は塵に殴り掛かったが、塵は上半身をそらしてそれを回避。
「あ? 作ったに決まってんだろ。H.O.P.E.に言ったら作ってくれたぜ」
「生きている人もいるのになんで」
「生きてる人間なんていねぇって俺が言ったからに決まってんだろうがよぉ」
 大笑いしながら塵は告げた。
「なんでそんなこと言ったんだよ!」
 アルトが怒声を浴びせる。ただ本題はそこではない。誄が言葉を遅くする。
「一番重要なのは、塵。あんたがこの町にいる状態なのにH.O.P.E.はバリケードを作ったってことだ」
 アルトが振り返る。
「あんた、ヴィランとしてH.O.P.E.に認定されてるの?」
「御明察だなぁ!!」
「あなた、変わってしまったのね」
 杏奈が告げる。
「昔はそうじゃなかったって、この子が……」
「てめぇ、それ以上ほら吹くと、黙ってねぇぞ」
 塵はあきらかに重たい声でそう告げるとパチンっと指を鳴らす。
「魔女がな!」
 上空をとるエリズバーク。 
 彼女は霊力を銃口に集中そして一本の熱線として放った。それを見て鎖繰が叫んだ。
「防御に専念しろ、嫌な予感がする」
 それだけではない。迫る鎖繰を二本のレーザーで牽制。
 その鎖繰はアルトが投げつけたアスファルトの塊を足場にレーザーを回避回転しながら刃を叩き付けようとする。
「目標、補足、彼女をころせばよくて?」
「ん? ああ。そうだな、そいつお前に任せたわ。俺は誄を勧誘する」
 足元から立ち上がる四本のレーザーではじく。  
 そのレーザーは空中に複雑な文様をうかべ、それがさらに別の16本のレーザーを放つ。
「な!」
 命中した地面。壁。そこには新たな文様が浮かび、レーザーを媒体に霊力が装填される。
 合計16の文様はそれぞれ五本のレーザーを放つ。
 それは80の魔力弾丸となって暁の面々に降り注ぐ。
 だがその弾丸は空中で突如静止。
「まさか」
 にやりと笑うエリズバーク。
「この程度まだ、前菜でしてよ」
 その魔力弾は球体となりエネルギーをため込んで膨張した。
 そこからさらにエネルギー反応。球体一つにつき膨大な数のレーザーが放たれる。
 もはや光の波となったそれは建物を切断し、土を掘り返し。ガラスを融解させ。そして。
「そんな! まだ!」
 杏奈の目の前で魂の入ったゾンビたちを薙ぎ払った。
 彼らは渾身の力で笑って見せる。
 ありがとうと、言った気がした。
 魂もすべて天国でも地獄でもない。ただただ消えるという無の世界に送られる。
 杏奈は己の無力さに地面を叩く。
「くそおおおおおお」
 吠える鎖繰は右足で踏み込んで刀をエリズバークに投げた。その刀はエリズバークにはじかれることなく空中で静止。刀が空中で回転すると鎖繰めがけて射出された。
 それが鎖繰の肩につきささる。
「あら、ごめんあそばせ?」
 そうふざけて会釈して見せるエリズバークを杏奈は睨む。
「みんな、苦しんでた」
「あら? そうでしたの? 魂にも痛みはある物なんですねぇ、おもしろいですわ」
 そんな杏奈を尻目に、塵はアイリスに歩み寄る。
「にしても御前はよぉ、いつも思ってけど硬てぇな。おい羽虫こら、無視かこら」
 塵の反射神経をもってすればエリズバークの攻撃程度回避はたやすい。 
 盾を引っこ抜いてやろうとアイリスに迫ったのだが。
 アイリスは意志のように微動だにしない。
「おい、こら蟲みてぇななりしやがって、人間様の言葉は無視かこら?」
「いや、すまないね。話すだけで今はすごく疲れるんだ。後にしてくれないかな」
 そういつもと変わらない調子で返すアイリス。
「とりあえずその盾が邪魔だから抜くぞ」
「できるならやってみるといい」
 しかし、塵がどれだけ頑張っても盾は抜けない。
「霊脈と接続されていてね、どうにもできないんだ」
「じゃあ、お前ごと砕くわ、じゃーな」
 その背後から迫るのが誄である。
 誄はナイフを横なぎに振るうとバックステップしながら銃を撃つ。
 その塵を追おうとしたが足元に光る何か。ふまれると爆発する現代版のまきびしである。
 塵はたたらを踏んだ。
 そんな塵へと銃弾を放つ誄だが、塵は無理な体勢から弾丸を回避してしまう。
 塵は、弧を描くようにまきびし地帯を避けて走り。そして誄へと手を伸ばそうとした瞬間だった。
 燃衣が爆発的推進量で上空からキックを放ってきた。
 塵はすんでのところでそれを回避。
「あん? はえーな」
 いぶかしむ塵、それもそのはず。本来の燃衣では塵の速度についてこられないはずだ。
 それができたのはひとえに『火羅鬼志』『火綯体』の併用である。
 これで塵の反射神経、戦闘速度についていける。青龍の攻撃もこれで避けたのだ。
 ただ、これは命を削る。
 連続使用ですでに16分。
 あとどれくらい持つか。
「てめぇ、今アイリスさん殺そうとしただろ?」
「あ? だから?」
「しね」
 その時誄は見るだろう。彼の至った境地、彼の決意の証。そして存在すら燃料に得た獣の力。
 それはひとえに暴力。
 燃衣の周囲に陰炎が生まれる。それは的確な距離感をつかませず、ただでさえ神速の息に達した燃衣の速度も相まってまるで幻想のように見えた。
 塵はしかし、それにすら対応する。
 燃衣のストレートを受け流し、足を払う塵。
 燃衣は空中で一回転して着地、バク中で塵の魔術攻撃を避ける。
 燃衣は四つん這いで着地。そのまま左右にフェイントをかけ突撃、塵はそのタックルを半身ひねって回避。燃衣は前方に進む勢いを右腕を地面に突き刺すことで縦回転の動きに変更。
 サマーソルト。
 塵はその足の動きに合わせて足を受け止め、逆に燃衣を地面から引っ込ぬいた。
 そのまま塵は燃衣を地面に叩き付けようとした瞬間、誄が発砲した。
 だが塵はその弾丸すら見えている。
「おいおい」
 塵は背を低くして直進。燃衣の体を掬いあげるように肩に当てて盾として弾丸を回避。
「ぐあっ」
「ごめん、隊長」
 そのまま肩を使って燃衣を弾きあげるとその拳に纏った霊力を放つ。
「死面蝶」
 髑髏を背負った無数の羽。それは誄に群がると噛みついて、そして。
「ばーん」
 塵は振り返って指をならした。軽快な音が闇へと溶け死面蝶が爆散した。
「くっ」
 誄が吹き飛ばされると同時に塵の鼻っ面を燃衣の踵がかすめた。
 地面に倒れた状態から無理やり体を起こした回し蹴り、その足が地面につく勢いを使って燃衣は体を起こした。
「あああああああああ!」
 拳を打ちつける。下から上から。右へ。踏み込んで肘鉄からのアッパー。薙ぎ払うように腕を振るう。
 それを塵は受け止め、そらし、交わして。肘鉄を腕全体で受ける。半歩引くと眼前を燃衣の拳が通過していき。大きく振るわれた腕を塵は両腕でとってそして。
「死ね」
 燃衣の腕が爆発した。
 その爆風にも負けずに塵は燃衣の懐へ。
「内臓を食い散らかしてやるよ」
 燃衣の腹部に押し込まれる霊力、それが燃衣の内部で形になっていく。
「まさか」
「死面蝶・骸蛹」
 告げると塵は燃衣の額をつんっとおした、その燃衣の体がゆったり倒れていく。
 重たいものが地面に叩きつけられる音がした。燃衣の体が地面にぶつかってバウンドする。
 ついで、燃衣の腹部から大量の蝶があふれ出た。
「隊長!」
 立ち上がる誄。その誄へ回し蹴りを浴びせる塵。誄はなれない体の痛みでうまく回避できない、後ずさってどんどん建物の壁に追い詰めらえていく。
「おまえ、なににも変えられねぇ、そうだなぁ。願いってやつぅ?」
 ケタケタ笑いながら塵は告げる。
「もってるだろ」
「どういうことさ」
「あん? だからよ。お兄ちゃんのためなら燃衣だって殺せるだろっていってんだよ」
 それは破たんしている、誄は思う。
 なぜなら兄の心を支えてるのが暁だ。そして暁は燃衣が作った。
「このままだとお前のお兄ちゃん、死んじまうぞ?」
 その言葉に誄は目を見開くことになる。


第三章 甘言

 誄は塵の言葉にまともに取り合うことはしない。
 ただ、それを塵は許してくれなかった。誄はついに追いつめられる。逃げ道をふさぐように右手を誄の顔左側につきつけた。
「おうおう、俺様のありがてぇ話を無視するってか?」
 逃げようとする誄の右側も腕でふさぐ塵。
「考えてもみろよ。あいつはもう理性なんざのこってねぇよ」
「隊長のことか? 隊長はただ憎しみが」
 憎しみが重たくのしかかってるだけだ。
 そう言おうとしたけれど。
「あいつはラグ・ストーカー倒すことに躍起になってる。けどよ、お前らはそれにつきあう意味あるのか?」
 塵の言葉が徐々に冷静になっていく、誄は始めてそこで見た、塵の瞳にはきちんと知性が宿っていることを。
「アイドル女も、ウサ耳女も、羽虫野郎も戦う理由は有るかもしれねぇ、けどよお前の大好きな大好きなお兄ちゃんはどうなんだよ」
「どうって、兄者は暁を守りたいんだ、兄者がいないと暁は崩壊する。だから兄者は必要な……」
「だからだよ。結局暁ってやつはよ。誰も考えられねぇんだ。燃衣の理想にただ引っ張られてくだけだ。その過程で誰が死んでもあいつはそれを戦う理由にしちまう。戦いをやめる理由にはしねぇよ」
「それは当たり前だろ。どこかで立ち止まったら、今まで犠牲になった人たちにどう顔向けすればいいんだって」
 その言葉に、塵は言葉を失った。そして。
「………………くっははははははは」
 笑いだす。
「何がおかしい?」
「ご立派。ご立派だぜ誄。だがなそれは、俺とあいつの発想だ。おまえの発想でもいい。けどお前の兄貴はどうなんだ? 本当に立ち止まったら公開すると思ってると思うのか?」
「それは」
「お前の兄貴は、どっちかてーと、これ以上誰も死なさねぇために足を止める、そう言う優しいやつなんじゃねぇのか?」
 塵の瞳が近くなる。誄はその瞳から視線をそらすことができない。
「お前が……」
 誄はゆっくりと思いを口にする。
「あん?」
「お前が兄者を語るな」
 次の瞬間銃声が響く、見れば誄のシャツから煙が上がっていた。
 ガンバックルならぬガンプレート、銅装備にちょっとした霊力操作で散弾が放たれるように細工してあったのだ。
「ちぇ。奇襲……成功?」
 にやりと笑う誄。
 塵の腹部が血でぬれる。
「誄お兄ちゃーーーーーーん」
 その時である、塵の横っ腹に盾が付きささった。正確には仁菜が。
「誄お兄ちゃんは!私の!お兄ちゃんなので!!悪いやつがお兄ちゃんなんて呼ばないでください!!」
「よんでねぇ……」
「時になんだ、その…DQNさん、お誘い光栄だけど」
 塵は反射的に誄から銃を奪う、しかし。それは塵の腕の中で爆発した。
「暁ナメんなよな。殺すよお前?」
 誄は銃を持ち変える。それはレーザーを主体とした光学兵器。
 誄は背後の壁をレーザー銃で切り刻むと大きく距離をとる。その時誄へと声が降る。
「誄様だったかしら?ええ、私も見所があると思いますよ。貴方は私達と同じ目をしていますわ。」
 目的を為すためならどんな手も使う者の目を。
「いや、俺はあんたらとは違う。むしろ仁菜さんみたいなつぶらな目をしてると思うよ」
 その返答が気にいらなかったのか、エリズバークは首を振って告げる。
「それでは殺しておきましょうか?」
 地獄をさらなる地獄とする無差別範囲攻撃連発。誄もそれを応戦するが一切ダメージはない。
 あわてて仁菜が盾で間に入る。その体はすでにぼろぼろで一人エリズバークの攻撃を受け止めていたことが察せられた。
「絶対に、ま……もる」
 仁菜のつぶやきをエリズバークが拾う。
「守る、仲間と馬鹿な事ばかり。傷の舐めあい集団に何が出来ると言うのですか?」
 放たれる魔力が属性を帯びる。炎、雷、水。それははた目からしたら暴走しているように見えるだろう。その一撃を塵は回避して悪態をついた。
「くそ、魔女! 足止めもできねぇのかおめぇは」
 仁菜はよけておけと命じたはずだった。その塵にエリズバークは悪びれることもなく言葉を返す。
「知りませんわぁ」
 エリズバークは盾の防御に隙を見た。左右側面。上空から 攻撃すればいいのでは? その眼前に光の玉を召喚。それは仁菜の頭上で輝いて。そして。
 誄もろとも打ち貫いた。
「言ったはずでしょう? 私の専門分野は」
 破壊。笑う魔女。
 誄を突き飛ばして、血まみれで立つ仁菜。
「これ以上誰も、殺させない。絶対に」
 そうエリズバークを睨む仁菜の瞳も熱に燃えている。
「その意志こそ壊してみたいですわ」
 そう謳うように告げたエリズバークはついで仁菜を獲物を見るような目で見つめた。唇をなめてそしてその両手に膨大な霊力をため込む。
 エリズバークは遊びをやめるつもりだった。塵には分かる。
 あの仕草、あの術式。あれを発動させれば文字通りこのあたりが更地になる。塵は舌打ちした。
 止めなければ。あれを発動すれば最後、エリズバーク自身楽しくなってしまって塵の話もきかないだろう。
「飽きた! やーめた!」
 そう手をあげて塵は全員を注目させる。
「はぁ?」
 一番不服そうな態度を見せたのはエリズバーク。
「あなた、いきなり」
「うっせばばあ」
 告げて塵は紫色のブルームフレアを放つ。ただそれは脅しであってダメージはない。味方識別した状態での攻撃だ。
 ただ、あっけにとられたままの暁陣営。その面々の顔色を見てそれを嘲笑い。
 そして塵はマイペースに言葉を続けた。
「でさ相談だがな、お前らの仲間にくわえろ」
「はぁ?」
 思わず首をひねる燃衣であった。


第四章 再会。そして。

「なぁ。あんたたちはどうしてそうなっちまったんだ?」
 アルトは遠くで爆発音を聞きながら担いできた白虎と青龍を地面に転がした。
 あそこにいれば死んでしまう。そう思ったアルトは二人を避難させたのだ。
 そんな二人は地面に転がされた痛みで呻く。
「アタシとは話せねぇってか?」
 その言葉に白虎が小さく声を上げた。
「あんたさ、欲しいものが何でも手に入るとしたらどうする?」
「あ? あたしはもう欲しいもの全部手に入れてんだよ」
 あと願うとすれば英雄の修理だろうか。
「これだから、普通の人間はねぇ」
 白虎がため息をついて矢継ぎ早にこう告げる。
「よくぼうなんて、満たされるはずがないでしょ。わたしだって最初は可愛い女の子だった。けどね。ぞくぞくしてしょうがないの、誰かの苦悶の表情が。誰かの悲鳴が。だから私はつねにそれをききたいの」
「……欲望の満たし方がそれしかないって、異常だろ」
 アルトはそうため息をついて頭をかく。
 戦闘はやまず続いている。自分が加勢にいっても足を引っ張るだけなのでいかないが、ここにいるのも手持無沙汰だった。
 その時背後に人の気配。アルトは最低限と思って装備していた拳銃を手に振り返る。そこにいたのは小柄なシルエット。
「おい、お前まさか」
 アルトが何事か口にしようとした瞬間、その人影はアルトにせまり。そして。

   *   *
  
 エリズバークがしぶしぶ矛を収めると仁菜がまず誄に飛びついた。
「顔が怖くなってますよ! 誄お兄ちゃん!」
 そう誄のほっぺたを引っ張って伸ばしたり縮めたりする仁菜。それに対して誄は苦笑いを浮かべた。
「俺、元から怖い人だよ」
 誄は胸の中で塵の言葉を反すうする。塵に言われたこと。誰かに相談なんてできない。できなかった。
「大丈夫です。誄お兄ちゃんの手はこんなに優しいもん。」
 何も知らない仁菜はそう言って誄の手を優しくにぎる。
「仁菜さん、おれ」
「大丈夫」
 そう仁菜は誄をだまらせた。仁菜は知っているのだ。誄がどんな言葉をかけられたか。
 けれど仁菜はこれも知っているのだ。
(誄お兄ちゃんは槇お兄ちゃんの為ならなんでも出来るって言うけど。今はきっと…なんでもは出来ないよ)
 大切な仲間が出来て、守りたいものは一つじゃなくなった。そう感じている。
 それが気に入らないのか塵はニッタリ笑って仁菜に茶々を入れた。
「お前、ラフィングキャットってしってっか?」
 その言葉に誄は視線を落す、首をひねる仁菜。
「知らない」 
 告げる仁菜に、塵はまぁいいだろっと告げた。
「とりあえず及第点だなお前等、俺が組んでやるぜ」
 その言葉に鎖繰が首を振る。
「こいつ、裏世界に名前を響かせる悪党だぞ。燃衣。信用するしない以前に暁に汚名がつく」
「あん? むしろ俺ちゃんが協力してるって拍がつくじゃねぇの?」
「ちょっと待てください、いつの間にかあなた達主導の話になってる。しかも僕はあなた達を仲間にすると言った覚えはありません」
「はいはーい、私も反対」
 杏奈が手を上げた。目元が赤いのは泣いていたからだろうか。
 それが気に食わず塵は唾を吐き捨てた。
「お父さんもこういってる『俺が現役の頃だったら、ほぼ間違いなく撃ち殺してる程の悪党だぞコイツ』」
 その言葉に槇も誄も頷いた。
「そっちのお姉さんも怖いんだけど」
 誄の訴えにエリズバークは涼しげだ、良い体つきはしてるんだけどなと誄は思う。
「あ? 使えるもんは使えよ。お前等余裕ねぇだろ、それにな」
 塵は憎悪のこもった声で告げた。
「あんま魂と話せるアピールするんじゃねぇ。あいつがそばにいるってまだいうつもりかよ。あと断ンなら俺ちゃんの命に代えても……世良の旦那を殺すぜ?」
 告げると塵はニッタリわらう。燃衣は一瞬杏奈を見た。気丈に振る舞ってはいるが心配なはずだ。
「別に僕らの邪魔をしないのであればなんとでも」
「交渉成立だな。まぁ。俺もアイツ等だけは殺さねーとなんだわ」
「いえ、ひとつ条件は飲んでもらいます。……次に誰かを殺したら。全員でキミを殺します」
 燃衣の纏うオーラが変わった。思わず暁メンバーも身構えるほどに。
「あん? じゃあ次殺すのはお前だ、そうすりゃ俺は殺せねえだろ?」 
 そう悠々と言葉を返す塵だが、そう告げつつも幻想蝶からタブレットを取り出す。
「土産もある」
 そう塵が差し出したタブレットにはとある座標が記されていた。 
 それはラグストーカーの本拠地である。
「あなたはもっと、するべきことがあるはずよ」
 そう塵と燃衣が話す姿をみて杏奈は傷ついた魂をなでる。
「この子はあなたと話をしたがってる」
 杏奈が訴えるように塵に告げた。
「話ならもうしてるぜぇ、ころせ、ころせってなぁ。俺たちの運命を捻じ曲げるやつぁみんな殺せって彼女も言ってるぜ」
「違う、それは彼女の一面でしかない。聞いてあげて……この子の声を……あなたもその気になれば私と同じように」
「おい、燃衣。こいつ俺ちゃんの顔見るたびに説教するきみたいだぜ。殺していいかぁ?」
「僕の話きいてなかったんですか? 殺しますよ?」
「どうでもいいですけど、もう殺しができないならば私帰りますわよ」
 つげて踵を返すエリズバーク。彼女にとって暁メンバーはとるに足らない羽虫なのだ。
「これを……」
 塵に羊皮紙を手渡して彼女は町の中に消えていった。
 これにて一件落着、そう思い燃衣は思わずその場にしゃがみこんでしまう。
「隊長!」
 仁菜が駆け寄って。その体をささえる。
 それも当然だろう、玄武からの連戦に継ぐ連戦である。アイリスも眠りに落ちているし他のメンバーも満身創痍。
 ただ、ひとつ助かったのは、エリズバークが全ての保菌者を焼き払ってくれたこと。だろうか。
「とりあえず、この町から脱出しないと」
 仁菜が代わりに現状何をすべきか考える。その言葉を塵は嘲笑った。
「あ? 無理に決まってんだろ」
 その言葉に仁菜が首をかしげる。
「だってよ、ゾンビもののラストにつきもんのあれがねぇだろ?」
 あれ? その言葉に仁菜が首をかしげるが、直後全員の耳元をノイズが駆け抜けてそれどころではなくなった。ついでアルトの声が機械音で聞こえてきた。
「おまえ! なんで!」
 苦しそうなアルトのうめき声。次いで何者かの声が小さく聞こえた。
「ん……ブラックボックス持ってる? 母様がほしいって。それももらう」
「私、行ってきます、鎖繰さんもお願いします。」
 現状まともに動けるのは仁菜だけだ。仁菜は素早く地面をかけた。アルトが危ない。
「って、まてよ、おい。ったく……あわてんぼうかよ」
 そう頭の後ろをかく塵。
「そろそろこの町自体地図から消されちまうってのに」
「え? 今なんていいました?」
 燃衣の顔面から色が失われる。



エピローグ


「母さんがブラックボックス欲しいって、ねぇアルトどこに隠した? 持ってきてないの?」
 アルトは地面に組み伏せられていた。喉笛を右手で抑えられる。その小柄な人影は見たこともない大剣をその手に握っている。
 それはお母様お手製の、化物のみしか使えない刃。
 こんな物が無くとも暁程度圧倒できる。そう言ったのだが一度柄を握ってしまえば、なるほど体にぴったり合う気がした。
「あんさん何者?」
「ん? 新しい玄武? 青龍、白虎……黄龍? よくわかんない」
「あ? 新しいって何だよ。あんた行き成り現れてあたしたちの席をとろうってか?」
 若干体力が回復したのか、青龍と白虎は立ち上がり霊力をためだした。 
 青龍が纏う水の球体の上を白虎の電気が走る。生み出された水素と酸素に膨大な霊力を纏い、そして着火された焔は不死鳥を模して飛び上がる。
「骨までとろけてしまいなはれ」
「じゃまだよ」
 その時小柄なその人物は身の丈以上の大剣を振るった。するとその刃は分裂し、 パキパキという音を鳴らしながらまるで獣の尻尾のように伸びた。
 鱗のようななにかをまき散らしながら伸びて。白虎の心臓そして青龍の肩口をばっさり切り裂いた。
「白虎!」
 青龍の悲鳴が木霊する。次いで降り注ぐ炎の鳥を少女は。
「ちょっと待ってて」
 アルトを投げ飛ばした後に片手で防ぐ。
 その腕は黒焦げになる矢先、すぐに回復していくのがアルトの目に映った。
(そうか、もう人間やめちまったんだな)
 空を舞うアルトの体、それを受け止める仁菜。
「これどういうこと!」
「アタシもわかんねぇよ!」
 アルトと仁菜を追い抜いて鎖繰が前へ。
「とりあえず、大人しくしてもらおう!」
「やめろ!」
 アルトの叫びももう遅い。大剣が地面を走った。その刃は空中で枝分れし、胸、肩と足に突き刺さる。そして最後のひと振りが鎖繰の刃握る右腕を切り落とし、そして血を噴出させた。
「ああああああああ!」
「ん……まだうまく扱えない、ごめんね」
「おまえ! なぜここにあらわれた。目的は私たちの殲滅か?」
 断面を抑えながら少女を見あげる鎖繰。しかしその表情はフードの闇に飲まれて見えない。
 その右手の焦げも瞬く間に修復され、完全なる無傷にもどっている。
「ちがう……そんな命令ない。私は仲間の回収とできれば……ピグの心臓部分回収するように言われた」
 直後空が白んだ仁菜と鎖繰が顔を上げる。そこには……。
「な、町ごとわたし達も焼き払うつもりか」
 まるで太陽が落ちてくるかのような光の壁が見えた。それは高速でこちらに迫り町全体を焼き尽くそうとしている。
「ん……。まかせて」
 少女は大剣を地面に突き刺すと其れが少女の背中と融合、翼のようになって少女は空に飛び立った。
 そして。
 両腕で町全体を焼き払うエネルギー量を受け止めた。
「……ん、全部飲み干す」
 それは少女の特別な力。細胞一つ一つが膨大な霊力タンクであり、少女の技量をもってすればこの程度の霊力、ご飯に他ならない。
「うどんのほうがよかった」
 つぶやきながら全ての熱と火力を飲み干すと、素早く白虎、そして青龍を回収して飛び立った。
 その姿を見送って、アルトは力なくその場に座り込む。
「たぶん、あたしにしか分からねぇ」
 少女は霊力によって、姿、声を偽装していたが。その言葉の癖や話し方は偽装できていなかった。
「たぶん、あいつは」
 大の字に寝転ぶアルト、はやくこの町から脱出すべきだがその心労で動くことが出来なかった。
 暁の戦いは今回の一件でまた複雑になったと言える。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
『煤原 燃衣 (aa2271@WTZERO)』
『火蛾魅 塵(aa5095@WTZERO)』
『エミル・ハイドレンジア(aa0425@WTZERO)』
『アイリス(aa0124hero001@WTZEROHERO)』
『阪須賀 槇(aa4862@WTZERO)』
『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』
『世良 杏奈 (aa3447@WTZERO)』
『楪 アルト(aa4349@WTZERO)』
『阪須賀 誄(aa4862hero001@WTZEROHERO)』
『エリズバーク・ウェンジェンス(aa5611hero001@WTZEROHERO)』
『月奏 鎖繰(NPC)』
『青龍妃(NPC)』
『白虎姫(NPC)』


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 いつもお世話になっております鳴海でございます。
 今回はある意味ブレイクスルーになりそうです。
 戦闘能力が、リンブレの基準を大きく超えてしまった!
 それがノベルのだいご味でもあります。
 ちなみに、今回は裏暁の面々と誄さんをテーマにかいてみました。
 誄さんは心の機微を頑張ってみましたがいかがでしょうか。
 それではまたお会いしましょう、鳴海でした。ありがとうございました。

パーティノベル この商品を注文する
鳴海 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2018年11月22日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.