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『黄金の酒 』
クィーロ・ヴェリルka4122


 ぶらりと市場を歩きながら、鮮度のいい食材を選んでは買って行く。
 戦禍の真っただ中だというのに、人々は逞しく生きている。
 クィーロ・ヴェリルはそれを楽し気に見ながら、両手いっぱいの荷物を軽々と持ち上げた。
「兄ちゃん大丈夫か?もう結構な重さだろ」
「大丈夫だよ。僕、こう見えて結構力持ちだから」
 小麦色の体躯はしっかりとしていて、流石はハンターとして様々な戦場に立つだけはある。
 荷物を肩に担ぎあげて店主に手を振ると、クィーロはさてと目当ての店を目指して歩を進めた。

 そこにあったのは酒屋。
 ここの酒屋には時々、掘り出し物の珍しい酒が入るのだ。
 クィーロも彼の相棒も大の酒好き。
 放っておくと朝まで飲んで潰れて床で寝てる。とはとある同じ小隊の少女談。
 閑話休題。
 とにかく新しい酒は入っているだろうかと戸をくぐれば、見慣れた店主――の代わりに、女将さんが立っていた。
「こんにちは女将さん。御主人はどうしたんだい?」
「いやねぇ、珍しい酒が入ったんだって張り切って樽を持ち上げようとしたら」
「樽……」
 ここの店主、結構な年齢だったはずだ。何故、樽を持ち上げようとしたのだろう。
 クィーロは苦笑ひとつ零して、そっと自分の持つ荷物の中身を考える。
 少しの間位置いておいても、腐るものは買い込んでいない。
 なにせ自分もいつ戦場に召集されるか分からない身だ。
「よければ手伝うよ」
 日頃のお礼だと言ったクィーロに、女将は嬉しそうなすまなそうな表情で頭を下げるのだった。

「その樽は……その樽だけは……転がさねぇでくれぇぇ……」
「うん、分かったから御主人。持って運ぶから布団から這い出てこないでね」
 相棒がこの店主の姿を見たらなんだったか。ホラーの何かを思い出すな。なんて言い出しそうだと一人笑いつつ、重たい樽を担ぎ上げる。
 結構な重さだが、クィーロにとっては持ち上げ運ぶくらいなんということはなかった。
 樽を希望された位置に置き、他にも入荷していた酒瓶を並べて、少し古いのか埃が被りそうなものは拭きあげ。
 つい気になるところがあると掃除をしてしまいたくなるのも、相棒のせいだろうか。いや、相棒には怒られそうだが。
 気が付いたら結構な時間が経っていた。
「あれまぁ、こんなに綺麗にしてもらって悪いねぇクィーロ」
「いえ、余計なことまでしてたらごめんよ」
「そんなことないさぁ。旦那じゃこんなこと気も付きゃしないんだから」
 さて、そろそろ閉店の頃だろう。精算や接客は女将がしていたから、クィーロは物を運んだり拭きあげたりと裏方の仕事を率先して手伝っていたのだ。
(お店を切り盛りするって大変なんだなぁ)
 これを老夫婦二人きりで切り盛りしているのだ。尊敬してしまう。
「おぉおい、クィーロ坊」
 奥から声がかかる。自分を「坊」なんて呼び方で呼ぶのはこの店の主人くらいだ。
「奥から空のワイン瓶持って来て、樽の中身の上澄み部分を掬って入れて持ってけ」
「え?いいのかい?」
「駄賃だ駄賃。上澄み部分が上手いっつー、珍しい酒なんだよ」
 だから転がすな、ということだったのか。
 有難く頂戴することとなったその酒は、黄金色の見事な酒で。
 後日、酒好きの相棒に見せたところ、とんでもない希少酒だということが判明するのだが。
 それはまた、別のお話。


(了)
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【ka4122/クィーロ・ヴェリル/男性/25歳/闘狩人】
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2018年11月22日

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