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『いつまで夢の中なのやら。 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 んふふふ、と含み笑いだけがその場には響いている。
 その含み笑いの主は――その場で動いているのは、一人の少女だけ。

 それ以外は――『カタチ』はあるが、動いていない。

 シリューナ・リュクテイアと、ファルス・ティレイラ。異空間転移により別世界からこの世界へと訪れた、紫の翼を持つ竜族の姉妹――いや、血は繋がっていないのだがシリューナの方はティレイラを妹のように可愛がっていて、ティレイラの方はシリューナを姉のように慕っていると言う事なのだが――もうここは殆ど姉妹でいいだろう。いや、魔法の師弟と言う関係で言い表す事も出来るか。シリューナは多くの系統の魔法に造詣が深く、同族であるティレイラにそれら魔法を厳しく教えていると言う面もあるのだから。
 ともあれ、そんな彼女たち二人の『カタチ』――『姿』、だけならある。

 但し、色彩やその質感は、本来の彼女たちとは程遠い。
 そこにあるのは、彼女らの姿をした、『お菓子』、である。

 何故こんな事になっているのかと言えば――まぁ、ある意味ではいつもの事、でもある。
 あらゆる策謀を巡らせ数多の封印魔法を駆使し、『お気に入りの相手』をその標的にして――オブジェ等の美術品の如く『作り上げた』モノを心行くまで鑑賞。そんな風にして遊ぶのは…まぁ、シリューナの高尚な『趣味』である。そしてティレイラもその薫陶を受けてしまっている上に――シリューナの交友関係にも『同好の士』がこれまた数多居る。

 そんな訳で、今のこの状態は――シリューナとティレイラの方が、『作り上げられて』しまった方になる訳である。で、仕掛けた方が――唯一動いている少女の方。と言うかまぁ、こちらの少女も少女で、ティレイラと良く似た容姿をしてはいるのだが――こちらは完全に、他人の空似。

 事の次第を語るなら、この動いている少女――自称魔族の少女が、面白い魔法道具を仕入れたからそれを使ってティレイラを封印、オブジェ化させて遊ぼうとシリューナにこっそり持ち掛けた事から始まる。勿論、持ち掛けた通りの事柄も目的ではあったが、その裏にもう一つ、ティレイラに仕掛ける時にシリューナごと魔法道具の効果に巻き込んでしまおうと言う思惑もあった。そしてその時は目論見通りに上手く行く。
 が、少女の方は実のところその後にシリューナが自分に仕掛けて来るだろう『仕返し』の方を愉しみにしていた節もあり、実際にその通りに『仕返し』もされる。…シリューナたちにした事と全く同じ事を仕返される形で。
 が、それで終わらない。
 懲りない少女が次に戻った時、さっきのお詫びにお裾分け、と偶然持っていた風を装い『お菓子』を二人にあげた。…『夢魔系の魔法が掛かっている菓子』を。
 勿論、流れ上、二人ともそれなりに警戒はした。けれど実際美味しいお菓子でもある上に、疑うならと少女の方でも先にぱくりと食べてみせた事で、その『お菓子』は二人の口に確り入る。

 そして――今のお菓子な姿、に至る訳だ。

 この菓子の効能は、食べた者を夢の世界に誘い、夢の中で食べたいと思った菓子を無尽蔵に出す事で対象を虜にする。そして――虜になった者は、虜になっている間、夢で見たその菓子へと封印されてしまう、と言うものになる。…ただ仕掛けた方の少女の場合、自称魔族だけあって夢魔系の魔法には幾らか耐性があり、一口程度なら食べても効果は出なかったりする――今の場合はその差を上手く使って再度仕掛けた訳である。

 …趣味人としてはわかりやすく美術品として作り上げる訳で無くとも、こういうのもアリなのである。…と言うか飴細工とかねりきりとか、菓子でも美術品に匹敵する美しく作られるものは幾らでもあるか。
 ともあれ、美味しそうで可愛らしい素敵なお菓子二人分が、『同好の士』な少女の目の前にある訳である。

 満喫しない訳が無い。

 どんなお菓子の夢見てるのかなと想像しつつ、まずはシリューナの方にくんくんと鼻を近付け香りを聞いてみる。初めにあげた当のお菓子以上の、美味しそうな芳香――見ているだろう夢の力も、仕上がりを左右する。勿論、心行くまで吸い込み、堪能する。…甘いけど、爽やかで、幾らでも入りそうな。素敵な匂い。
 堪らず、ちょっとだけ、と差し支えが無さそうな――髪の毛先辺りを折り取り、ぱくりと味見。
 …うーん。想像通り、最高。

 んふふふふ、シリューナ、今度はどんな風にわたしに『仕返し』してくれるかしらね? 愉しみ♪







 …――至福の時間が過ぎていく。

 お姉さまお姉さま、こっちのお皿のケーキも美味しいです! とティレイラ。気が付けばティレイラの着いた席の前には様々なケーキの載った皿が食べてとばかりに幾つも置いてある。ティレの喜ぶ姿は本当に見ているだけでも可愛らしい。一つ形に封印せずとも、これだけでも充分鑑賞に堪える。
 シリューナの前にも、ケーキの載った皿がある事はある。が――ティレイラ程の数は無い。シリューナが望む分――つまり、味と造形さえ極上ならば文句は無い訳で、数や量…については然程重視はしていない。
 お姉さまの方の味見してもいいですか? いいわよ、代わりに私もティレの方の味見させてもらうわ――勿論です! 取り替えっこですね――お互いで興味の湧いた皿を取り替え、少しだけ御相伴に与る。シリューナはフォークでほんの少し刺し取った分を咀嚼し、味を確認――あら、これも美味しい、もう少し貰おうかしらと軽く感動した時点で――刺し取って欠落した筈のその箇所が、完全に元に戻っている――皿の上のケーキとして完璧な造形に戻っている事に些細な違和感を覚えた。
 ティレイラはお姉さまのも美味しいですー! と、感極まったようにじたばたしつつも食べ続けている。…が、そちらもそちらでやはり減った様子が無い。

 …おや? と思う。

 もうちょっともらいますねー、とティレ。言いつつも口に運んでいる量は、到底「もうちょっと」では無いような気がした。が――皿の上のケーキを見る限り、ちょうど「もうちょっと」程度の減り方で落ち着きそうな状態、になっているような気がした。

 まるで、私やティレの感覚にケーキの方が合わせているかのような――…











 …――事の初めから思い起こそうと努めてみる。

 私は、いつからお茶会をしているのか。何故、お茶会をしているのか。
 シリューナはお菓子いっぱいで御満悦なティレイラの様子を眺めつつ、自分の手の方は止めて考える。取り替えっこしていた皿は元に戻した。戻したら、ちょうどティレイラなら食べるだろう量だけ減っており、私がティレイラに返した皿の方も、ほんの少し味見した程度だけ減っているのは確認出来ている。

 ただ、私は「ほんの少しの味見」にしては食べ過ぎてしまったかな、と言う程度食べてしまった気がしているのだが。そう、皿を戻されたティレイラが少ししょんぼりするくらいには。

 何かが、おかしい。

 そもそも、いつ、これだけの量のお菓子を用意したのだったっけ――…?











 …――考える事自体を妨害されているような気がして来た。

 いつこれだけの菓子を用意したのかと思えば、他にももっと魅力的な造形と味のお菓子があって、いつでも用意出来るからそんな事を気にする必要は無い、といつの間にか認識している自分が居る。始まりを辿ろうとすれば、まずそれまでに食べたお菓子の事が――その魅力が、一つ一つ鮮明に思い返される。まるで、始まりを辿ろうとするその思考を何とか押し退け、代わりに菓子で埋め尽くそうとしているように。

 これはいよいよおかしいとシリューナは気付き、魔力での防御も意識しつつ再び事の初めを思い起こす事を試みる。これはもう精神攻撃の可能性すらあると思っての、魔力での防御――と。

 そこまでする必要も無かったか、とすぐに状況を把握した。
 途端、お茶会の如く菓子を囲んでティレイラと同席していたシリューナの姿が、その場から掻き消える――…







 あらら、もう? と少し残念そうにこちらを見つめるティレイラの姿がある。残念そうながらも何処か愉しそうな――何かの期待すら籠っているような、悪戯めいた物腰。
 …いや、彼女はティレでは無い。
 自称魔族の、別人だ。

 そして――シリューナとティレイラに、性懲りも無く封印魔法のかかった菓子を食べさせた、張本人。

 ここまで理性がはっきりしてくれば――封印が打ち破れれば、シリューナには何があったかなどだいたいわかる。あの菓子の力で、自分もティレイラも何かしらの遊べるモノに作り変えられていた。どういう効能だったかまでは知らないが、彼女がこれ程愉しそうなら余程の『作品』になっていたのだろうと思う。

 幾らあの『仕返し』の直後だったからと言って、ティレが食べたがったからと言って、実際に味が美味しかったからと言って、出した本人も食べてみせたからと言って――少々油断したか。

「…何回やれば気が済むのよあなたは」
「シリューナとなら何回でも。あ、勿論ティレイラちゃんともね」

 んふふ、と笑いながらも自称魔族の少女は流し目。流した方へとシリューナの視線を促すような視線の運び方――「勿論、ティレイラちゃんもね」、そう言った直後の、視線。
 その先には――先程まで夢の中で感じていたような、いやそれ以上にはっきりとした、現実にある――甘く美味しそうな香りの、源が。

 捉えた途端、殆ど反射的に感嘆した。
 造形の基本は、ティレイラ。
 けれどこれの本質は――お菓子、である。ちょうど、夢の中でティレイラが食べていたような、ふわふわとした、食感も味も極上の、ケーキのような。

「――っ」
「どお、素敵でしょ?」
「…ええ。悔しいけど素敵」
「じゃあ、お詫び込みで」
「駄目。お詫びは別」
「むぅ」
「あなたには後できっちり仕返ししてあげるから、少し黙っていなさいな」
「はーい♪ どうぞ心行くまで御堪能下さいなっ」
「…言われなくとも」

 こんな可愛らしいティレを、放っておくなんて出来る訳が無い。
 余計な事を色々考えるのは後回し。折角の機会なのだから、愉しむ方が先。

 …その間くらい、『仕返し』、待てるわよね?



 恐らく次は『仕返し』待ちのターン。即ち手を出しては来るまい――と思っても、自称魔族の少女への警戒は今度こそ怠らない。シリューナが「衝かれる隙」を作ってしまうのはティレイラの『作品』が絡む時だから、こういう時は一番危ない――わかっていても隙を作ってしまうのはある意味仕方無いのだが。ティレが可愛く魅力的過ぎるのが悪い。即ち、こういうティレイラを前にするとどうしても理性が多少崩れる。
 夢の中の記憶と現実の香りが重なり、少し面白い感覚になる。そっとだけティレイラ菓子の感触を確かめる――力を入れ過ぎたりはっきり撫でてしまっては崩れてしまうかもしれないふわふわ。指先に少しだけ付着したふわふわを、ぺろりと舐めて味見する――夢の中より本物の方が、数段素敵。

 …彼女もこういう『仕返し』をお望みって事かしらね、とシリューナは思う。でも、私たちの警戒を解く為彼女は先にあの菓子を食べると言う真似をした――あの菓子の魔法は彼女には効果が無い、もしくは薄い? 夢に引き摺り込む形なら、夢魔系の魔法だろうか。自称魔族は伊達では無いって事かしら。
 まぁ、どちらでもいい話。

 効かないなら効くように魔法をアレンジすればいいだけの事。無理そうなら何か別の面白そうな封印魔法を探して使えばいいだけの事だし。
 少なくとも、されっぱなしでいるつもりだけは無いのだから。







 …――あれ? と俄かに疑問に思う。
 さっきまで居た筈のお姉さまが居ない。どうしたのかな何か用事でも出来たのかなと思う――が、ティレイラはお茶会を終わりにするとは聞いていない。特に何も言われてもいない。
 と、言う事は。
 まだまだ食べていていいんだよね? と誰にともなく確かめようとする。と、うん、そうだよ、いいんだよ、とばかりに新たなお菓子の皿がいつの間にやらティレイラの前に追加されていた。誘惑の香りが、食べて、とティレイラに囁く。勿論、その囁きに抗えはしない。

 もくもくと飽きる事無くお菓子を頬張り、御満悦。

 まだまだ、たくさん、幾らでも。
 美味しい夢は醒めそうに無い――…





 …――さぁ、いつまで夢の中なのやら。

【了】



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3785/シリューナ・リュクテイア/女/212歳/魔法薬屋】
【3733/ファルス・ティレイラ/女/15歳/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 紫の翼を持つ竜族な御二人にはいつもお世話になっております。
 今回も発注有難う御座いました。
 そして最早毎度の如くになってしまっているのですが(汗)、またもお渡しが遅くなってしまっております。大変お待たせ致しました。

 内容ですが、「まだまだ懲りずに、もう一回。」の続きイメージでお任せと言う事で、こんな形になりました。
 序盤かなりの割合で前までの成り行きの説明になってしまって、肝心(?)の自称魔族の少女とシリューナ様が『遊ぶ』場面の割合が少なくなってしまったかなと言う気もしているのですが…如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2018年11月26日

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