▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『チョコレート味の幸福 』
海神 藍aa2518)&aa2518hero001

「今日の食後のお菓子はフォンダンショコラだよ」
 海神 藍(aa2518) は甘い香りを漂わせて、手作りのお菓子をアンティークの装飾が綺麗な皿に載せて、木目が美しいテーブルに、温かい珈琲と共に置いた。
 落ち着いた部屋には古い蓄音機にかけられたレコードからシャンソンが流れている。今日はクラシックではないらしい。古いものに惹かれる藍の趣味で集められた調度品は品が良くて、やや小柄で細身で若いが、何処か大人びた風格がある知的な青紫の双眸をした藍に良く似合う。
 テーブルに置かれたお菓子を見て、禮(aa2518hero001)は目を輝かせた。兄の様な相手が作る甘いお菓子は幼い少女の幸福で楽しみだった。人魚の優秀なる戦士だったと主張する彼女も、勲章代わりの銀の冠が頭上で煌めくのがその名残を示すだけ。
「今日はケーキじゃないですけれど、甘いお菓子は嬉しいです、兄さん。最近、お菓子売り場に冬季限定のチョコレートが並んでいて、食べたいなぁ、って思っていたんです」
 珈琲の芳しい香りを楽しみながら、藍は禮がお菓子を見て喜ぶ、年相応の幼い笑顔を見て、小さく笑った。
「禮、チョコレートの効果は知っているかな?」
 銀のナイフをさくりと入れると、中からとろりと蕩けて皿の上に広がるチョコレートソースに目を奪われる禮に、藍は悪戯を仕掛ける様にさり気なく呟いた。
「昔は、チョコレートは媚薬と言われていたそうだよ。案外、バレンタインにチョコレートを贈るのは理に適っているのかもしれないね」
 げほ、ごほごほ。
 禮が頬張ったお菓子の欠片を吐き出しそうになって噎せて、頑張って飲み込んだ。涙目で藍を見上げるくりくりっとした黒い瞳が非難めいて見上げている。
「に、兄さん、卑猥です! そんな事を犯しを食べている時に言わないで下さい!」
「禮、一応、君は人間に換算すると成人だと言い張っているだろう? 好きな人の一人や二人……いるのなら、と言う私の気遣い、と言うかなんと言うかだね、食べるばかりでバレンタインに手作りチョコレートを渡すとか……しないのかな? まさか、市販の物を買って渡すだなんて……私はそんな手抜きは許さないからね」
「い、いないです! 兄さんこそ、好きな女性はいないんですか?」
「私は、さあ、どうだろう。今は目の前のお菓子と珈琲を楽しむ事と、禮の将来の方が心配かな」
 あっさりと質問を避けてしまう藍に、ぐぬぬ、と言った感じで唸る禮。フォンダンショコラの一切れを口に運び、ほろ苦さと甘さを味わってほんわりと綻んだり、悔しそうに頬を膨らませたり、ころころ表情が変わって少女らしく忙しない。
 顎に手をやり、藍が緩く首を傾げて様子を見遣る。
「もしかして、フォンダンショコラにはバニラアイスを添えた方が良かったのかな? 悩んだんだよ。最近寒いから、アイスはどうなのかな、と」
「兄さん、そうじゃないです!」
 藍が飲んでいる温かい珈琲に少しだけウィスキーを垂らして、又違った香りを楽しむ。食後のウィスキーをこう言う形にするのも中々良い。好んでいる珈琲と酒を同時に楽しめる。
 明らかに少女の姿の禮が出された珈琲が苦かったのか、一緒に置かれていたミルクを大量にカップに入れて、ごくごくと飲むとそれを置いて、むっとした顔をした。
「兄さんはわたしをなんだと思っているですか?」
「そうだね……妹みたいなものだと思っているよ」
 食後の珈琲を味わう藍が、その後に一泊置いて付け加えた。
「こうした、小さな幸せを、分かち合う事が出来る大切な……約束をした、相手だよ」
 他人からしたら、細やかな事。
 だけれど、二人には大事な大切な、約束がある。
「禮も、いつかは誰かと幸せになれると良いと思っているよ」
 その言葉を聞いて、禮がミルクでまろやかになった珈琲を飲んで、砂糖を足して、スプーンでかき混ぜる。ぐるぐると回る珈琲の表面を眺めながら、禮が言葉を選んで口を開いて閉じてを繰り返し黙り込んで、漸く口を開いた。
「わたしも、兄さんが幸せになる事を願っています」
 禮の願いは、初めて藍と出会った時とは少しだけ変わった。少しずつ意味が変わって、更に願いが込められた新しい誓約。
 手に入れる事は難しい。だけれど、守りたい。守らないといけない。
 お互いに、お互いの、お互いだけではない、手が届く小さな幸せを願って。
 尊い幸せを願う約束は届く事があるのか。
 その約束は、届くのを願うのではなく、叶えるもの。
 過去に、諦めた男と、諦めた少女。
 今度こそ、諦めない約束だと、そう願ったし誓った。
「……手作りチョコレートの作り方を教えようか。来年のバレンタインの為に」
 一歩一歩、確実に。
 願いを叶える為の力がある今は、戦う事を、護る事を、続ければ、その願いに近づく筈だと、信じている。
「来年が駄目なら、再来年の為に」
「……はい。頑張ります」
「チョコレートの次は、そうだね。カップケーキとパウンドケーキ。すぐに美味しく作れるようになるよ。その次は、なににしようか?」
「ケーキが作りたいです。ホールのショートケーキ。苺が沢山載った奴が良いです」
「はは、ショートケーキが作れる様になったら、季節のタルトも教えようか? その前にクッキーかな……」
「クッキーはですね。可愛い形が良くって、えっと、魚と、人魚の形にしたいです」
「魚は兎も角、人魚の形のクッキーの型はあるのかな。探してみようか?」
「え? クッキーって型があるんですか?」
 そんな、お菓子と珈琲を手にした平和な会話が落ち着いた音楽と共に流れる一時。
 戦いには、いつかは終わりが来るのだから。
 戦いが終わった後の事の事は分からないけれど、甘いお菓子と一緒に、未来の平穏を想像するのも悪くない。
 幸せと平穏で満ちた未来は遠くて、自分が手に入れるには程遠い。そう思っている二人は、人の為に遠い未来を近くに描く。手に入れるのは自分ではないと何処かで思っている。
 それでも、明日は来るのだから。
「それで、禮。手作りチョコレートを渡したい人はいるのかい?」
「も、もう、兄さん! それは聞かないで下さい……」
 こんな小さなやり取りも、自分よりも人を思う、兄妹みたいな似ていない似た者同士の、お互いの幸せを願う祈りと意志と、約束を確認する時間。
 遠い過去ではなく、未来を模索する為に。
 憎む事も殺す事も過去にして。平穏を楽しめる未来を観る為に必要なのだと。そう感じる時間は、ゆっくりと過ぎて行く。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【aa2518/海神 藍/男性/22歳】
【aa2518hero001/禮/女性/11歳】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 お菓子売り場にチョコレートが増える時期になりました。フルーツたっぷりのケーキと、フォンダンショコラと悩んでしまいましたが、季節的にチョコレート系にしてみました。
 ホットコーヒーに生クリームと砂糖とアイリッシュウィスキ―で、アイリッシュコーヒーと言うホットカクテルになります。お菓子と合わせると甘過ぎるかと思い今回は辞めましたが、寒い日にお勧めです。
おまかせノベル -
江戸崎竜胆 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2018年11月26日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.