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『世界はエデンを中心に回る 』
プリンセス☆エデンaa4913)&Ezraaa4913hero001

 世の中には、大人の事情というものが存在するらしい。要するに世界蝕によって天変地異やら文明開化やらが起き、世界は大きな発展を遂げるのと一緒に愚神という危険な存在を招き入れることにも繋がって。能力者と英雄が自分達の立場を守り、愚神に立ち向かう為に作り上げた組織であるH.O.P.E.には、まだまだ人手が足りなかった。混乱に乗じてライヴスを犯罪に利用する者――ヴィランが組織として活動をしだしたせいもある。だから能力者、ひいては英雄と誓約を交わした能力者は世間から必要とされるようになった。
 それはさておき、可愛ければ許されるのがこの世の真理である。それが十数年生きてきたエデンの結論だ。勿論他人にわざと迷惑をかけるなんてもってのほかだけれど、何故だかエデンはうっかりミスをしてしまうことがとても多い。でも悪気がないことを伝えて謝ればそれで話は終わりになるし、仕方ないと男の子達が庇ってくれる。可愛いは得だ。両親――特にパパも、小さい頃から可愛い可愛いと口癖のように言っていたし。今となっては思春期ゆえの気恥ずかしさもあるけれど、そう言われると悪い気はしない。
(でも、それだけじゃダメなの!)
 うんうん、とエデンは心の叫びに自分で答えた。成長するにつれてエデンが知ったこと、それは可愛い、が世の中には溢れているということである。メディアを見ればごろごろいる、タイプは違えど可愛い、もしくは美少女や美人などと評される女の子達。自分が彼女らと比べて劣っているとは決して思わないものの、同じ舞台に立ってもきっと埋もれてしまう。エデンにはそれがよく分かっていた。だからみんな、自分自身にキャラクターという名の属性をつけて存在感をアピールするのだ。アイドルの道は長く険しい。
 エデンは人より目立ちたい女の子である。だって注目されると嬉しいし、人に褒められるのはもっと嬉しい。でも自分を偽ってちやほやされてもきっと嬉しくはならない。それに、細かい設定を考えるのも面倒くさいし、うっかり忘れてボロを出したら大ひんしゅくを食らってしまう。それは絶対避けないといけない。
 となれば、エデンが取れる選択肢は限られる。すなわち、特技といった他の女の子には中々出来ないことで特色を出すか、誰かと一緒に組んでユニットとして売り出すかだ。しかし残念ながらエデンは勉強も運動も悪くはないけれど良くもない。
「でも、あたしにはライヴスがあるもん!」
 と、ついに声に出して言うと、近くを通っていた人々がびくっとしてエデンから距離をとったが当の本人は気付かなかった。それなりに人通りが多い場所での一幕である。
 ライヴスがあるというよりも、ライヴスの扱いに長けた存在というほうが正しい。世間的にはそれを能力者といい、エデンにはその適性があった。そのことを知ったとき、こう思ったのだ。歌って踊れる魔女っ娘アイドルという名のエージェントになるしかないと。だから仮登録する際に担当職員に頼んでアイドルっぽい芸名をつけて貰った。
 しかしながら真のエージェントとなるためには英雄との誓約が必要不可欠である。誓約を交わして共鳴すれば、エデンが思い描くような様々な魔法も現実のものとなるからだ。というわけでアイドルへの道は英雄探しから始まるわけだが――。
「落とし物じゃないし、そんな簡単に見つかったりしないよね」
 言いつつ最近の日課になっている英雄探しを続ける。判別自体は簡単だ。体が透けている人間を見つけたら突撃すればいい。誰にだって出来ることだ。と。
「い、いたー!!」
 フラグは立ててもへし折れるもの、ではなかった。何人か集まっている中に背の高い、頭の向こう側が透けた何者かがいる。目ざとくそれを見つけたエデンの叫び声を聞いて、モーセが海を割ったように――というと相当大袈裟だが、野次馬達がエデンとエデンが指差している人物を避けて二人の間に道を作った。相手が来ないのでこちらから歩いて近付いていく。
 中々に端整な顔立ちをした男性である。正装というにはちょっと派手かもしれないけれど大体そんな感じの格好をしていて、そして極めつけが、人間のと同じ位置についた本物っぽいケモミミと下半分に黒縁のついたメガネだ。
 上から下まで無遠慮に男性を眺め回しながらエデンは首を傾げた。何か琴線に触れるのに、その理由が出てきそうで出てこない。こういうタイプのことを何というのだったか。貴族――は違うような気がする。確かに上品な雰囲気はあるが、髪も目も茶色だし、服も色合いは地味な感じだ。顔もかっこいいが派手ではない。例えるなら主演ではなく助演で光る役者的な。
「あ、あの……私、どこか可笑しいですか?」
 その声も何気にいい。困惑しきっている様子なのは横に置いておいて。と。エデンは彼の言葉遣いを聞いた瞬間の閃きを何も考えずに口にした。
「執事だこれー!」

 ◆◇◆

「執事っぽいよね? むしろ元々執事だよね?!」
 気付けば全く知らない場所にいて、それだけではなく自分自身のことも何一つ憶えていなくておまけに体は透けている。困惑を極めながらも誰か話せる人はいないかと歩き回り、そしてようやく見つけた人々に声をかけてみたら、姿は認識されているものの意思疎通が出来なかった。身振り手振りで何か伝えようとしているのは分かったのだが。そこに現れたのがこの少女だ。彼女の言葉ははっきりと理解出来る――のに言っている意味がさっぱり分からない。というか、言葉の意味は分かるが質問を綺麗に無視されている。
「い、いえ、私は別に……」
「執事じゃないなら何をやってる人なの?」
 淡い青色の瞳が純粋にこちらを見てくる。
「その……何も憶えていません」
 ぐいぐい寄ってくる少女に気圧されて身を引きながらも正直に言う。すると、彼女は得心したようにぽんと手を叩いた。
「えっと、じゃあ先に状況を説明するね!」
「お願いします」
 頭を下げると少女はキラキラと目を輝かせた。そうしてご機嫌の彼女によって自分が異世界の住人であり、暫くすると消滅してしまうことや能力者と誓約を交わせばそれを免れ、実体を持てるようになること等を説明された。かなりざっくりとしたものなので途中で口を挟んで補足を求めなければならなかったが。
「つまり私はこれから、能力者を探さなければならないのですね」
 結論はそうなる。果たして消滅する前に見つけられるだろうかと懸念していると少女が自らを指し示した。そしてまた近付いてくる。謎の圧力を感じた。
「あたしがその能力者だよ。だってほら、あなたに触れるしっ!」
 言ってからぱしぱしと腕を叩かれたが、それにつっこむ勇気はなかった。先程の彼女の話からすると、実体のない英雄にさわれるのは相性がいい証拠らしい。ここで誓約を交わせばそれが履行され続ける限り、当面の消滅の危機は回避出来る。しかし、それでいいのかと本能が訴えてくる。
「この人だったらユニットで売り出すのもいいかも?! ケモミミイケメンだし! イケオジだし!」
 後ろを向いているので独り言のつもりのようだが、実際には丸聞こえである。よく分からない言葉もあるがとりあえずオジという言葉は否定したかった。自分が何歳なのかも憶えていないけれど多分そこまで歳は取っていない。しかしそれを言ってしまえばますますこの少女は食いついてきそうな気がする。この短時間でそこまで理解が及ぶ辺り、確かに相性はいいのかもしれなかった。
「――というわけだから、あたしと一緒にアイドルエージェントを目指そ? あなたは執事役ね!」
 最早否定の言葉を差し挟む余地もない。とはいえ少女も有無を言わさず、とはしないつもりのようだった。黙ってこちらの反応を待っている。誓約を交わすには双方の合意が必要と話していたが、彼女の押しの強さならそのまま押し切ることは充分に可能のはずだ。なのにそうせず答えを待っているし、説明の仕方は雑だがちゃんとこちらが判断出来るだけの材料を出してくれた。そこに、というか、これまでの彼女の言動に嘘はないと思う。
「……分かりました。私でいいのであればやってみます」
「ほんと?!」
 正直この少女と上手くやっていけるかどうかは分からない。でも彼女を見ていると物事は意外となるようになる、とも思う。だからかすかに残る拒否したい気持ちは黙って飲み込んだ。
「じゃあ、早速誓約……の前に、自分の名前って憶えてる?」
 黙って首を振る。すると少女は考え込む動作をしながら口を開いた。その唇から意味の取れない音が出てくる。一音ずつ変えて響きを確かめている様子から、自分の名前を考えているのだと気付いた。そうして幾らかの時間が経ち。
「――エズラ……うん、あなたの名前はエズラ! 嫌だったら芸名ってことにしてね」
 ちなみにサインを求められたらこう書いて、と手のひらに簡単なつづりを四文字分なぞる。
「後でもう一度教えてくださると助かります。それで、私は貴女様を何と呼べば?」
「あたしはプリンセス☆エデン! あなたは執事役だから……エデン様とかお嬢様って呼んでくれるとそれっぽくていいかな」
「分かりました、お嬢様」
「うん、いい感じだよ!」
 言って腕を突き出し、親指を立ててみせる少女――エデン。エズラはその手を下から支えるようにそっと取る。片膝をつくほうがいいのかとも思ったが、エデンが乗せるように手の形を変えて笑ったので、少なくとも彼女的にはこれが正解なのだろう。ちょっと離れた所から野次馬がざわついているのが聞こえる。
「最後は誓約の内容だね。うーんと……」
 と、エデンは触れていないほうの手の人差し指を頬に当てて悩み、しかし然程間を置かずに言う。ウインクをつけて。
「一日三回の食事を保証するよ! これからよろしくね」
 世界はエデンを中心に回る――かもしれない。多分。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa4913/プリンセス☆エデン/女性/16/人間】
【aa4913hero001/Ezra/男性/27/ソフィスビショップ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
書くのが苦手だと言いつつもほんのりとコメディ風味……
二人のプロフィールを見たら、乗りたくて仕方なくなりました。
何か色々とはっちゃけていて、物凄く申し訳ないです。
でも、エデンちゃんは書いていてとても楽しくて元気が出ます。
エデンという名前の部分も芸名なのかなと悩んだので
一応、どちらとも取れるふわっとした感じにしました。
今回は本当にありがとうございました!
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2018年11月26日

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