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『そうだ、大学へ行こう 』
皆月 若葉aa0778)&ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001

 若葉は大学生兼エージェントである。慢性的な能力者不足といえど学生の本分はあくまでも学業であり、H.O.P.E.もそれを妨げることなく、むしろ積極的な支援を行なっている。若葉も二足の草鞋を履きつつ上手く両立していた。大学にいる時は純粋に勉学に励むのもそうだが、友人達との交流も概ね平和で、でも時には騒動に巻き込まれたりもする。といっても告白するというので協力したら何故か自分がその子を好きだという話になって誤解を解くのが大変だったとか、成人してすぐの頃に早速飲み会へ連れて行かれたのに先輩のほうが派手に酔っぱらって、世話をするのに手一杯で全然お酒を呑めなかったとか。そういった笑えるトラブルばかりだ。高校生のときも楽しかったけれど、大学生になった今のほうが良くも悪くも自由を満喫していると思う。
 とはいえ若葉はエージェントでもあり、愚神や従魔、ヴィランと戦うのが仕事ではあるのだが、そちらでも友人が多くいて、彼らと共に過ごすのも楽しく大事なひと時であることには変わりない。
 そして、最後に忘れてはいけないのが家族の存在だ。エージェントの先輩であり大きな目標でもある両親、依頼で縁を結んだ三匹の犬達。それから戦場で共に戦い、共鳴する事でより大きな力を貸してくれる二人の英雄も家族の一員である。一人は兄、もう一人は弟か妹かどちらとも明言しがたいがとにかく可愛い末っ子だ。そして今その末っ子は両親と出掛けていて、現在自宅にいるのは若葉とその兄的存在――第一英雄であるラドシアスの二人だけだった。その彼が今悩みの種となっている。
(うーん……ラドだったらどこに行きたがるんだろ?)
 困っている人がいれば迷わず駆け寄って話しかける、そんな性分の若葉は大学も任務もない日でもちょっとした用事で街へと出掛けようものなら、その行き先で見ず知らずの人と関わることもしばしばだ。何事もなくても、必要な物を買いに行くだけで時間が潰れてしまう時もある。そうしてただ自分の用事に付き合わせるのも悪いので、ラドシアスに行きたい所があるか訊いてみるのだが、彼の答えは家でいい、かもしくは近所にあるゲームセンターや運動公園の名前を挙げる。後者は完全に若葉の趣味を反映した結果だ。言葉こそ素っ気ないが、若葉が他人の手伝いをしだしたら溜め息をつきつつも力を貸してくれるのが彼の人柄である。若葉にはもっと自分のことを優先しろと小言を言いながら、実際にそうしているのは彼のほうではないかと思う。少なくとも自分たちに対してはそうだ。だからラドシアスに好きなことを楽しんでほしいと思い立ってみたものの、肝心の行きたそうな場所にまるで見当がつかない。
(やっぱり帰りたい……んだよね?)
 元いた世界の記憶をどれだけ持っているかは英雄によって異なる。二人は多分憶えているほうだろう。ラドシアスは自ら過去を話す性格ではないし、若葉も本人が言わないことを訊こうとは思わない。けれど一人でいる時に何処か遠くを見ていたり、不意に言葉を詰まらせたりするからきっと、大切なんだろうなと思う。そもそもここに来たこと自体、大抵の英雄にとって理不尽に違いないのだ。もし自分が彼の立場だったなら、異世界がどれだけ居心地のいいものだったとしても後ろ髪を引かれる思いはきっと消えない。だからいつか二人が戻れる日が来たら、笑顔で見送らなければと覚悟もしている。でも今の若葉にはそれが叶えられないのが現実だ。
(……あーもうダメ。そんなの、俺が考えたってしょうがないんだから。俺が今ラドに出来るのは、好きなことを楽しんでもらうってだけだよね)
 かぶりを振って、一人で両頬をぱしぱしと叩いて。自分で答えを見つけられなかったショックを強引に振り払うと、彼のいる居間へと突入した。
「……ラドー?」
 間延びした声で名前を呼べば、窓の前に立っている彼がこちらへと振り返った。すっ、とその目が細められる。若葉は初めて会ったときの彼の戸惑った顔を思い出した。
「どうかしたか?」
「あー、えっと……ラド、どこか行きたい所ない?」
 何故だか妙に歯切れが悪くなってしまう。ラドシアスはほんの少し眉間に皺を寄せて何か言おうとして、しかし、前と同じ答えを口にするかもという若葉の予想に反し、暫く噤んだ後にこう言った。
「……おまえの学校に行ってみたい」
「俺の学校? 大学ってこと?」
 訊くとラドシアスは頷き、中には入らなくていい、と付け足した。しかし学校とは彼からはあまり聞かない単語だ。ついこの前に友達と遊んでこいと、兄を通り越して父親みたいな発言はされたけども。相変わらず表情は変わらないが本気なのは伝わる。若葉は快諾した。
「うん、いいよ。じゃあ早速行く?」
 言って準備をしてこようと彼に背を向ければ、後ろから声がかかる。
「おい、その格好で行くつもりか?」
 見ればラドシアスの呆れた顔がそこにあって若葉は自分の体に視線を落とした。最近お気に入りのすずめを模したパーカーを着ている。好きだけど、でもこれは外出時に着ていく服じゃない。絶対。
「……着替えてきまーす」
 そう敬語で言うとラドシアスの唇の両端がかすかに上がる。若葉はくるりとUターンし、そのまま母がいたら怒られそうなほど勢いよく階段を駆け上った。

 ◆◇◆

 どたどたと体重の割には重々しい音が階段を上がっていく。
 また何か変に背負い込んでいるな、と、いつもの笑顔の中にかすかな翳りを感じ取ったラドシアスは思った。単純に戦力的な意味でピンチの時なら素直にラドシアス達や仲間に助力を請うのに、悩みや疑念といった精神的な問題はよくその内側に隠してしまう。それがまた人に弱味を見せたくないとか見栄を張りたいというような理由なら、ラドシアスも苦言を呈することが出来るのだが、若葉の場合は心配をさせたくなくて黙っているのだから、どうにも性質が悪い。彼みたいにお人好しではないが、ラドシアスもその気持ち自体は分からなくもなかった。
 それがこの世界における自分の始まりだった、ということもあるのだが、若葉と出会ったときのことはそれなりに時間が経った今でも鮮明に憶えている。それまで何も憶えておらず、消えてしまうのならそれでもいいと生きることにも死ぬことにも一定の関心すら持てなかったのに、若葉と視線がぶつかった瞬間に過去の断片を取り戻した。そして既視感と本能に抗わずに助けて。そうしたら消えてしまわないようにと、今度はラドシアスが助けられた。
 本音を言えば、記憶の中の少年と若葉が関係しているのか、最初のうちこそ気になっていたものの、今となっては最早、どうでもいいとさえ思っている。だって少年について憶えているのは若葉に似ていることと、大切な存在だったということだけだ。彼とどんな繋がりがあってどういうところに好意を持っていたのかも憶えていない。けれど、若葉との思い出は細かい部分は忘れてしまっているくらい多い。どんな人間なのかもよく分かっている。例え実際には関係があったとしても少年は少年、若葉は若葉以外の何者でもない。
 そんなことを考えながら窓の戸締まりを確認しているうちに若葉が階下へ降りてくる。学生としての彼がいつもしている格好そのままだ。まだ若干照れくさそうなのが先程のうっかりを思い起こさせるが、ラドシアスの表情筋は今度こそちゃんと仕事を放棄した。
「じゃあ行こっか」
 頷いて答えると犬達に留守を頼み、きっちり玄関扉を施錠して二人、家を出た。が、すぐに若葉はストップをかけて慣れた手つきでスマートフォンをちょいちょいと操作し、両親に連絡を取る。そして唐突にふきだし、こちらへ画面を向けてきた。そこにはもきゅもきゅとハムスターのように大福を頬張っている第二英雄の姿が映っている。
「ほんっと美味しそうに食べるよね」
「この調子じゃ晩飯が入らないだろうな」
 ラドシアスがそう言うと若葉は楽しそうに笑い声をあげた。でも食べさせたのはあの二人だから、と言って悪戯っぽく年相応の笑い方をする。
 その流れで家族の話をしながら道を進んでいく。とはいっても基本的には若葉が喋り、ラドシアスはそれに相槌を入れたり補足したりという流れがほとんどだ。若葉の歩みは淀みなく、最寄駅から電車に乗ってしばらくしたら降り、そこからはまた歩く。一人の時はマウンテンバイクも使うらしい。そうしてやっと、校門まで辿り着いた。そして。
「ほんとに入らなくていいの?」
 校門がすぐ目の前の場所まで足を踏み出し、振り返って若葉が言う。ヴィランに襲撃されないよう警備は厳重なものとなっているが、申請すれば許可は降りるだろう。特殊権限が発揮されるのは依頼を受けている最中だけだが、H.O.P.E.所属の能力者と英雄であればと例外扱いする施設は多い。しかしラドシアスは小さく首を振った。
「おまえがいつもどんな道を歩いているのか分かったから、これでいい」
 そう答えると若葉は目を丸くして。ふ、と笑みを零した。俯いて肩を震わせ、それが大きくなるとついに彼は大笑いをしだした。ぱたぱたと手を振ってみせる。
「あーごめん。ラドのことを笑ってるわけじゃないよ。なんだ、そんなことでよかったのかって……ちょっと拍子抜けしてる感じ」
「……どういう意味か説明してくれ」
 さすがにその言葉だけでは意味を察することが出来ず説明を促す。若葉は頷いて、揃って門の傍から少し離れた場所まで移動しながら彼の話を聞いた。要約すると自分に好きなことをさせたかったらしい。ラドシアスはわざと大きな溜め息をついた。
「な、何?」
「俺のやりたいことが分かったか?」
 若葉を始めとする自分の周りの人達が何てことない日常を楽しむ。それがラドシアスにとっての“日常”だ。若葉はにっと笑って頷き言う。
「じゃあまたゲーセンに付き合ってくれる?」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0778/皆月 若葉/男性/20/人間】
【aa0778hero001/ラドシアス/男性/24/ジャックポット】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
基礎設定やギャラリーを見ているとラドシアスさんは
自主的に遊んだりとかしないイメージがあり、でもそれは
日常や若葉くん達がすることを楽しんでるからかなあとか、
若葉くんは自分は他人優先だけど、身近な人が同じように
していたらそのことをすごく気にしちゃいそうだなあとか、
そんなことを考えながら書かせていただきました。
パーカーの所は趣味で入れた奴です。可愛過ぎたんだ……。
今回は本当にありがとうございました!
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2018年11月26日

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