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『丑三つ時の肝試し 』
藤咲 仁菜aa3237)&リオン クロフォードaa3237hero001

●今回のあらすじ
 数々の大規模な作戦において前線に立ってきた、勇猛果敢な少女。大半のエージェントはその凛とした佇まいしか見ていないから勘違いしているが、意外や意外、素顔の彼女は意外にビビり。例えば先日も、こんな事があった。

●海上支部の七不思議?
『……って言うのが最近噂になってるらしいぞ』
 軽い日常任務をこなし、藤咲 仁菜(aa3237)とリオン クロフォード(aa3237hero001)は東京海上支部の食堂に席を並べていた。
「七不思議……? それってアレだよね? ピラミッドとか、そういうやつ……」
 仁菜は知り合いから教えてもらった曖昧な知識を慌てて並べる。“七不思議”と言えば、ティーン半ばの仁菜にとってはまた別なものだったのだが。
『そうだなぁ。ワープゲートがどんな仕組みで動いてるのかとか、全然わかんないもんな……じゃないだろ。ほら、見てみろよ』
 ノリツッコミを入れつつ、リオンは携帯を取って仁菜に突き出す。食堂に眠る裏メニューとか、敏腕オペレーターの婚期逃し疑惑とか、一つ一つは他愛の無い噂であったが、その中に混じって一つだけ、仁菜を青ざめさせる文面があった。
「幽霊……夜な夜な支部を徘徊する幽霊!?」
 仁菜は素っ頓狂な声を上げた。周囲のエージェント達がちらりと彼女を振り返る。リオンは片耳を塞ぎながら頷いた。
『そう、何か最近出るとか何とか噂されてるんだよ』
「それをいきなり私に言ってどうするつもりなの!」
 うっかり周囲の目を集めてしまって赤面しながら、仁菜はにやにやしているリオンに迫る。怖がりの仁菜はすっかり耳の毛並みを膨らませていた。
『いやぁ、前にキャンプ行ったけど、結局肝試しとかしないで終わったなぁ、とか思ってさ』
「もう……」
 かくして仁菜に不意打ちの悪戯を仕掛けたリオンだったが、ここからは少し真面目な顔になる。声を潜め、リオンは仁菜に囁く。
『あと、そこにも書かれてるけど、もしこれが従魔だったら……マズいだろ?』
「むう」
 確かに書き込みには従魔だったら退治しておいたほうがいいだのなんだのと書き込まれている。リオンは仁菜の眼を覗き込んだ。
『こんな状態なんだけどさ、何でかわからないけどH.O.P.E.は調査依頼を出してないんだ』
「へ、へえ」
 仁菜とリオンはずっと一緒にいるから、何だかんだで言いたい事は分かってしまう。仁菜は平静を装いつつも、垂れた耳がやっぱりぴくぴくと動いていた。
「要するになぁに? 私達で調査してみようって事?」
『当たり! 愚神商人がいきなり押し掛けてきたり何か支部も怪しい事になって来てるじゃん? 心配事は少しでも取り除いた方が良いだろ? だから行こうぜ』
 リオンの言葉はいつでも自信たっぷりだ。そんな彼の言葉に、引っ込み思案な仁菜はいつも力強く引っ張られてきた。今日もそうである。
「確かに、そうだよね。よし……頑張る」
 仁菜は両腕でガッツポーズを作って自らを鼓舞した。いつでも彼女は真剣である。



「とか言って、私に肝試しさせたいだけじゃないよね……?」
『……さあ?』



●いざ行かん丑三つ時
「……く、暗いよ……」
 そんなわけで、仁菜とリオンは真っ暗な廊下を懐中電灯片手に歩いていた。研究棟には明かりが灯っているし、警備員も時折周囲を見回っているのだが、今いる暗闇がこの世から切り離されてしまった気がしてむしろ怖い。
『大丈夫だって。どうせ本当に幽霊がいるわけじゃないんだからさ。従魔だったらそれこそ叩きのめしちゃえばいいわけだろ?』
「どうせなら暁のみんなにも来て貰えば良かったぁー……」
 トリブヌス級にも啖呵を切れる女の子が、ただの暗闇でビビりまくっている。“肝試し”の響きとは、げに恐ろしきものらしい。リオンはそんな仁菜の手を引きながら、ずんずんと暗闇へ踏み込んでいく。
『さーて、噂の現場はこの辺かなー?』
 階段を上がり、廊下を先まで照らす。耳を澄ましてみると、どこかで何かが軋むような音が聞こえた。古い蝶番が開いた時のような音である。大きな耳で敏感に聞き取った仁菜は、すぐに跳び上がってリオンの背中に引っ付いた。
「ね、ねえねえ! リオンリオン!」
『ちょっと物音がしただけじゃないか。大げさだなぁ……』
 リオンが笑い飛ばしていると、ライトの陰を何かがひょいと横切る。仁菜は声を震わせた。
「居た! 何か今居た!」
『あれが幽霊の正体か。行こうぜニーナ!』
「ちょっと、待って……!」
 強引に仁菜の手を引いてリオンは廊下の先まで走る。突き当たりでライトを左右に振ると、右の彼方で何かがふわりと動いた。
『見つけた!』
「ねえもう止めようよ……」
 仁菜は消え入りそうな声でいう。彼女達を取り囲むように、不気味な風の音が聞こえる。単純に通風孔が近くにあるだけだが、これがやっぱり仁菜には怖い。
『しょうがないなぁ。じゃあほら。共鳴しようぜ』
 リオンの腕にしがみついて重しのようになっている仁菜に、リオンはそっともう片方の手を伸ばす。仁菜はこくりと頷くと、その手を取って共鳴した。
『よし……じゃあ行くぞ!』
 リオンは剣を抜くと、再び懐中電灯を掲げて廊下を走り出す。更に鋭敏になった聴覚を生かして、甲高い音を聞き分けながらその正体を探す。
『何だか変な音が聞こえるな……』
「従魔なのかな。従魔なんだよね?」
 むしろそうであってほしいとすら仁菜は思った。従魔ならこてんぱんに叩きのめして終わりだが、もし幽霊なら手の打ちようがない。
『多分そうなんだろ。それか鼠か何か……』
 リオンは廊下を駆け抜け、その角を折れる。
『……ん?』
 その時だった。リオンの目の前に向かって、ドローンに手足を取り付けたような小さなロボットが突っ込んできた。暗闇から現れた闖入者に、思わず仁菜は悲鳴を上げる。
「きゃーっ! ロボットぉ!」
 叫んで、思わず仁菜はきょとんとする。目の前に浮かんでいるのは、幽霊でも何でもない、小さなロボットだった。
「……ロボット?」
『ロボットだな。むしろ何か愛嬌ある感じかも……?』
 リオンはふわふわ浮かぶロボットへと一歩一歩歩み寄っていく。二台のカメラを目のようにきょろきょろさせていたが、不意にカメラの周囲を赤く光らせ、リオンに向かって何かを射出した。
『え?』
 小さな円筒が彼の目の前で跳ねた瞬間、激しい煙幕が噴き出す。視界を塞がれ、思わずリオンは眼の前を手で払おうとする。
「攻撃してきたよ!」
『くそっ! なんかよく分かんないけど……』
 よく分からないが、このロボットは従魔に取りつかれてしまったのかもしれない。そう結論付けて、リオンは煙の中へと一歩踏み込む。
『このやろっ!』
 濃い煙の中で無茶苦茶に剣を振り回していると、鈍い音が突然響き渡った。機械の塊が天井に跳ね返り、そのまま地面に叩きつけられてバラバラになってしまう。飛び散ったパーツは、地面でパチパチと火花を散らす。
「あーっ!」
 薄れる煙の中に立ち尽くしていると、不意に背後から素っ頓狂な叫びが上がる。振り返ると、そこには白衣に身を包む眼鏡の少女が立っていた。彼女はリオンを突き飛ばすと、慌ただしく床に転がるロボットを拾い上げた。
「何てことしてんすかうちの子に!」
 少女――仁科恭佳(az0091)は二人に抗議してくる。とはいえ彼女は数々の前科持ち。二人も一度彼女のせいで酷い目に遭っていた。共鳴を解くと、仁菜は眉を吊り上げて恭佳を問い詰める。
「もう! またイタズラですか!? あのお仕置きじゃ懲りなかったって事ですか?」
「ちがいますー! これはちゃんとした仕事ですー!」
「じゃあどうして私達に向かってスモークグレネードなんか飛ばしてきたんですか?」
 恭佳は残骸を拾い上げると、二人に向かって突き出す。
「ガードドローンだからですよ、これが!」
『ガードドローン……?』

●喩えか弱い少女でも
「支部内に対する侵入者対策、ですか……」
 仁科恭佳の個人研究室。ロボットの修理に取り組む彼女の背中を見つめながら、仁菜は呟く。彼女はドライバーを回しながら頷いた。
「世界蝕が進行している現状、この支部の中も安全かというとそうではなくなってくるでしょうからね。司令部を急襲されて大混乱、なんてなったら堪ったもんじゃないので」
『それで誰もいない夜を利用して性能試験を行っていた……のか。それが深夜の幽霊の正体かあ』
 恭佳がスイッチを入れると、再びロボットは宙に浮かび上がる。恭佳は仮眠用ベッドのシーツを拾い上げると、いきなりロボットに引っ被せた。即席お化けの完成である。
「そんな面白い噂になってたんなら、もう少し頑張っても良かったんすけどね」
 ロボットはふらふらと仁菜へ迫る。咄嗟に仁菜はリオンの背に引っ込み、心細そうに呟いた。
「良くないです……。ただでさえ今大変なのに」
「はいはい。私だって空気くらい読めますよ」
 恭佳は口を尖らせると、シーツを捲ってベッドへ放る。
「それにしても、藤咲さんがそんなに怖がりだったなんて知りませんでしたよ。すっげー勇敢な人ってイメージでしたし」
「そんな事ないですよー。怪談とか絶対無理です。普段だって……」
 本当はとても怖い。何度戦いを重ねても、強大な敵と対峙するのは全身の毛がそばだつような怖さがある。仁菜はリオンの腕をきゅっと掴んだ。
「でも、大切な人が傷つくのはもっと嫌だから。死んじゃうなんて絶対嫌だから。……そう思ったら、どんなに怖くても頑張れちゃうんです」
 仁菜はちらりとリオンを見遣る。自らの半身のような存在を。彼が傍に居ると、どうしようもなく勇気が湧くのだ。
「リオンも一緒だから。私は折れずに戦えるんです」




 彼らこそがH.O.P.E.の不落城、藤咲仁菜とリオン・クロフォード。二人は依存しあっているのかもしれない。それでも、その絆は簡単には突き崩せない程強固なのである。

 CASE:藤咲 仁菜 おわり

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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藤咲 仁菜(aa3237)
リオン クロフォード(aa3237hero001)
仁科 恭佳(ゲストNPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。再び発注いただきありがとうございました。
どんなストーリーに仕立てようかと色々考えましたが……たまには仁菜さんに肝試しでもしてもらいたいと思ってこんな筋書きになりました。二人のイメージに合う感じに描けていたらよいのですが。

ではまた、御縁がありましたら。
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2018年11月27日

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