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『生き方は人それぞれ 』
ルドルフ・デネボラka3749)&トルステン=L=ユピテルka3946

 扉が閉まるのを確認してトルステンは友人を拘束する腕を解いた。元よりさほど力は入れていなかったが。例え激情に駆られたとしても絶対に手をあげる性格ではないことは今までの付き合いの中でよく分かっている。ただ、気力を使い果たしたかのように友人――ルドルフがトルステンよりもほんの少しだけ小さい、それでも平均よりも大きい部類の体を畳んで、手のひらで顔面を隠してしまい。それを見て、そっと息を吐き出した。
(――ったく。つくづく損な性分だな、ルディ)
 胸中でそう呟きつつルドルフの背中を見下ろす。卑屈だとか面倒臭いだとか、そんな印象を彼に抱いたことはないが物事を深く考え過ぎるきらいは確かにあった。良く言えば慎重、悪く言えば優柔不断な性格。けれどトルステンは別に、それが欠点だとは思わない。高校生活を送っていた時だって彼のその気質が上手く作用し、今となっては平和過ぎて笑ってしまうような些細なトラブルを穏便に解決した場面も何回もあったし。そういういい経験に限って、この手のタイプは忘れてしまっているのだろうが。
 自分のものよりかは広い背中に手を伸ばす。それでも反応する気配はなくて、トルステンは両肩を掴み、触れた指先に結構な力を込めた。そのまま軽く体重もかければルドルフの口から、痛い痛いと悲鳴じみた声があがる。そのトーンが体育の時間に二人で組んで柔軟運動をする、というレベルの軽いものだったことに内心安堵しつつ、今度は加減もせずに背中の真ん中辺りを叩く。
「ベツに、戦いたいって思うのも戦わせたくないって思うのも、少しも可笑しかねぇだろ。考え方の違いっつーヤツだ」
「……うん」
 相槌を打つルドルフの声音はまだこころなしか暗い。姿勢を真っ直ぐに正すとトルステンは彼に背を向けた。ついでにずれた眼鏡の位置を整える。
 発破をかけるならともかく、人を慰めるのは柄じゃないと自認している。忖度をされるのも嫌だ。それが見当違いの自己満足ならば尚のこと嫌いだし、もし的確かつ純粋な善意だったとしてもそれはそれでまたどうにも痒く感じてしまうもので。だからトルステンは心にもないことを言わない。自分の思ったことをそのまま――とはいかないが、口にして何かしら相手に響くものがあったのならそれで充分だ。そもそも、そう思える相手なんて数える程度しかいないけれど。
「おまえらのケンカとか、そんな深刻になるモンじゃねーじゃん。……信頼してるから出来るケンカ、的な」
「うん」
 そこで素直に頷いてしまえるところに、自分との違いを感じる。家庭環境がどうこうとか、自身の性格を親のせいには絶対にしたくない。ただ、彼らや彼らとトルステンの間には喧嘩という行為自体が介在することもほとんどなく。家の中に音楽が溢れていたのはごく小さい頃までだ。だからあのLH044で起こった襲撃の最中でも、家族の安否より目の前の友人達と生きてこの窮地から逃れられるかに思考の大部分を取られていた。
「――俺は正直、戦うとかマジで勘弁してほしいけど。でもこっちで生きてくんなら、結局は何かやんねぇとだろ?」
「そう……だよなぁ」
 後ろから溜め息が漏れ聞こえる。関係が上手くいっていたかは別として、みんな家族がいて養われている普通の高校生だった。それでも向こうにおけるバイトのような形で生活することも一応は可能だろう。仲のいい友人同士といっても手に手を取り合って同じ道を歩き続ける道理はないし、バラバラになることで縁が消えて無くなるわけでもない。
 トルステンは先程口にした通り、積極的に戦おうとは思わなかった。でも頑なにやりたくないと思っているわけでもなく。
「一応、試しにやってみようとは思ってる」
「試しに、かあ」
「素人がぶっつけ本番とかナシじゃん」
「あー、確かに。そんなことしたら絶対に事故るね」
 言ってルドルフがふっと笑い声をあげる。トルステンの脳裏にある出来事が思い浮かんだ。
「文化祭のアレだろ」
「そうそう。あのいろんな意味で酷かったやつ」
 LH044が歪虚の襲撃に遭う少し前に開催された文化祭で、色々と止むに止まれぬ事情があって友人一同で星を題材にした小芝居を披露した――のだが、衣装などの事前準備はルドルフと彼に付き合って買い出しに行ったトルステンの苦労が実を結んで何とかなったものの、肝心の演技がセリフは忘れるわ場面は飛ぶわの大騒ぎで結局こいつらの素の会話じゃねーか、と全力でツッコみたくなる有様だった。それで好評だったのが未だ解せない。
「ああならないようにすんなら……とりあえず暴走特急のお守りはおまえに任せるぜ。他んトコはまあ、見える範囲は、な」
「ステンが見てくれるなら頼もしいよ」
 明言しなくても理解されるのは少し照れくさい。振り返ればちょうどルドルフが立ち上がるところだった。
「もう一回話してみる」
「おー。まあ、頑張れ。心配とかしてねーけどよ」
 言うとルドルフに先程の仕返しとばかりに肩を叩かれる。これなら大丈夫だろと思って遠ざかる背中を黙って見送った。

 ◆◇◆

 寝込んでいた数日間の影響で、すっかり体が鈍ってしまった気がする。だから自分も一緒に出掛けたかったのだが、満場一致でNGを喰らう状況で己の主張を押し通そうとまでは思えず、ルドルフは未だベッドの住人を続けていた。
「動くなって」
「いや、これくらいは仕方ないだろ?」
 トルステンの呆れた声にそう返しつつも、何度か無意味に動こうとした前科があるので彼が警戒するのも無理はないとも思う。体を横向きにして軽く身じろぎをすると、頭から落ちたタオルをベッドの近くにクッションを敷いて座っているトルステンが拾い上げ、桶に入った氷水にくぐらせる。ステンも何だかんだ世話焼きだよなあ、とまだ少しふやけた頭で思った。
 事前に危険だと判明していた依頼に参加して、重傷者を出すこともなく目的を達成出来たのは充分な戦果といえるだろう。しかしながら軽傷で済ませることも出来ずに療養を余儀なくされた。といっても、覚醒者はマテリアルの総量が多いこともあり一般人と比べて自然治癒力が高く、それに加えいわゆる回復魔法の恩恵も得られるので、安静にさえしていれば大抵の傷は綺麗に治るものだ。ただ、危険な依頼に緊張していたからか知らない間に疲労が溜まっていたのか、そろそろ完治するだろうというタイミングで風邪を引いてしまい。友人達についでだからじっくり休めと諭されてしまえば、ルドルフには従う選択肢しか残されていなかった。
「――幼馴染ってヤツも似てくるもんなんかねぇ」
「え? ……あー……」
 そう言われると否定出来ない自分がいる。別人のように変わったというわけではないのだ。ただ、命に関わる状況で何が最善かをじっくりと検討する余裕などあるはずもなく、即断即決出来る場面は確実に増えたと思う。それと、自分の目の届かないところで友人達が何をしているか分からないとじっとしていられなかったり。戦う時は個人的な感情を持ち込まないように心がけているので日常の中でだけだが。そういうところに自分でも幼馴染の要素を感じなくもない。
 ルドルフが仰向けの姿勢に戻るとトルステンの手が伸びてきて、額にタオルをのせてきた。のせ方自体は雑っぽく見えるが、さり気なくちょうどいい位置に調整してくれるし、水気が多過ぎてびちゃびちゃだったり逆に絞り過ぎということもない。そういう気配りが行き届くのも彼のいいところだ。態度のせいで初対面の人には遠ざけられがちなところがあるが攻撃的というわけでもないし、それも含めてのトルステンという人間だとルドルフは思う。
「ほんと、いい友達を持ってよかったよ」
「……まだ熱あんのか?」
「今は微熱だって」
 さっき確認したじゃないかと付け足せば、トルステンは眉間に皺を刻んで渋面を作る。そして、はぁ、と大仰に溜め息をついてみせた。唇を引き結んで何も言わないと意思表示をする。
「――これからもさ、誰も大怪我することなく元気に……っていうのは難しいと思う。考えすぎて判断ミスをすることもあるかも」
 目を閉じて深く呼吸をし、でも、と言葉を続けた。
「試しにやってみてよかったって思ってるし、俺はこれからもきっと後悔しないよ」
 足並みを揃えることだけが仲の良さの証明じゃないと、あの日トルステンの言葉を聞いてちゃんと分かった気がする。だからいつかちゃんと言っておかないとと思っていた。
「ありがとう、ステン。これからもよろしく」
 顔は天井に向けたまま、視線だけを動かしてそう言う。トルステンは顔を背けると口元を手で隠してまた難しい顔をした。他に誰もいなくて静かなので、小さく唸り声のような何かが聞こえる。声の主は一人だけだ。
「――よくすらすらとそういう恥ずかしいセリフが出てくるよな……」
 小さく言って、しばらく黙り込んで。
「あー、俺らもまだまだこれからだからな。俺でも出来そうなことなら適当にぶん投げりゃあいいんだよ。持ちつ持たれつってヤツ。……そーいうモンだろ」
 甘やかすことも見放すこともしない、トルステンの距離の取り方は居心地がいい。単純に頼りになるのもそうだが、同時に対等な立場であり続けられるようにと願い、気が引き締まる。ライバル、と表現すると何かが違うけれど。自分が助けられた分だけ、彼のことを助けたいと思う。友達とは多分きっとそういうものだ。他の友人達にだって、傍目からはルドルフが一方的に世話を焼いているように見えるかもしれないけれど、頼られることや自分とは違う彼女らの考え方や戦い方に支えられて、優しさに救われている。だから戦いたいと思えたのだ。
「そういうもんだよね」
「ほら、病人はとっとと寝とけ」
「ああ、そうするよ」
 心がふわふわとしているのは熱のせいか。布団を肩まで被って目を閉じると声が聞こえた。
「――おやすみ」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3749/ルドルフ・デネボラ/男性/18/機導師(アルケミスト)】
【ka3946/トルステン=L=ユピテル/男性/18/聖導士(クルセイダー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
つぶやきでのやり取りを見ていると、二人とも対応は
他の人とそこまで変わらないかなとは思ったんですが、
同い年で同性の友達ゆえの気安さがあるといいなとも思い。
男性同士の友情ってもっとあっさりとしているかもですが
話の内容的に重めなので、アリかなと思い切ってみました。
本質が似ているイメージなので喧嘩はしなさそうですよね。
今回は本当にありがとうございました!
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2018年11月28日

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