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『ウトウ 』
ナイチンゲールaa4840)&善知鳥aa4840hero002

●今回のあらすじ
 ウトウ。北日本沿岸からカリフォルニア州までの北太平洋沿岸に広く分布するこの鳥には、とある逸話がある。親がうとうと鳴けば、雛はやすかたと応えるというこの鳥だが、ある猟師がそれを利用して雛鳥を捉えたことがあった。
 彼は後々、血の涙を流して飛び回ったウトウに呪われ、地獄で苦しみ続けたのだという。

●飛来
 一体のアンドロイドと、一人の少女が斬り合いを繰り広げている。人類に死という名の救いを与えんとする愚神、タナトス(az0104)と人類の生を守らんとするリンカー、ナイチンゲール(aa4840)。二人の意志の相剋が目まぐるしく繰り広げられる中で、一つの意志が茫洋とドロップゾーンの中に引き寄せられていた。
「皆を、貴方を、世界を受け容れる為に……」
 深紅の刃と純白の刃が交錯し、互いの腕を切り裂く。飛び散った血が、二人の顔を紅く染めた。構わず、二人は刃を構えて突っ込んだ。
「背負う為に、成し遂げる為に」
 少女は肩を掴み、機械は胸倉を掴む。互いに胸元へ刃を突きつけ、呟き合った。
「解せないな。何故そうまでして私を討つ為の理由を求める」
「貴方も同じでしょ。セーメイオン」
 切っ先が胸元を切り裂く。そのまま胸を刃で貫きながら、二人は抱き合うように身を寄せた。グィネヴィアは機械――セーメイオンに囁く。
「私と貴方は表裏。本物の絆をあげる。それが、貴方への裁き」
 彼女がそう呟いた時、幻想蝶が一際強い輝きを放つ。その光に吸い寄せられるように、漂っていた意志は次第に一つの形を取り始めた。

 それは女たちの生ける無念であった。夫や恋人、そして我が子を戦によって奪われた女たちの意志の具象であった。慈悲に満ち溢れた母性と、諍いを赦さぬ苛烈を併せ持った一つの意志。ナイチンゲールの、奇蹟の【徴】たらんとする心が、その意志を彼女の元へと喚び寄せたのである。

 戦いが終わり、ドロップゾーンが消失していく。しかし、その“意志”は消えることなくその場に留まっていた。
(……ここは)
 見開く眼も無ければ、言葉を聞く耳も無い。しかし、彼女は感じていた。周囲に居る能力者や英雄たちの息遣いを。そして彼女は知った。一人の少女の意志によって、彼女がこの世界に繋ぎ止められたことを。
(彼女が……わたくしを)
 壮絶な戦いを終え、ナイチンゲールは半ば放心したように立ち尽くしていた。その御蔭で、傍に彼女が現れた事さえ気づいていないらしい。
 呼びかける事は出来た。彼女に己の存在を自覚させれば、直ちにこの“意志”はこの世に具現化した事だろう。
(でも今は、時期尚早かしらね……)
 “意志”は一人で納得する。今はまだ、託された思いを呑み込むだけで少女は精一杯のようだった。未だ格率が不安定な彼女に接触すれば、進むべき道をまた見失いそうになってしまうかもしれない。
(今は見守る事に致しましょうか。……彼女に必要とされるその時まで)

 かくして、“意志”は暫しの間、ナイチンゲールの事を見守り続けることにした。一つの遺志を託された彼女が、世界の中で歩みを進める姿を。
 死を与えんとしたそれの反対を突き進むように、ナイチンゲールはあらゆるものに生の慈悲を与えようとした。人心を惑わせ、夢幻の中で支配しようとしたある愚神にさえ、その意志を信じてその手を差し伸べた。
 仲間との絆を信じながら、ナイチンゲールが前へと進もうとする姿を、一羽のウトウは半年掛けて、じっと見つめていたのである。


 そして、その時はやってきた。

●顕現
 ナイチンゲールは、古代都市スワナリアの門の前で思案していた。その中に住まう海竜をテロ組織マガツヒから守るべく準備された作戦。彼女もまた、友人の援護の為に参戦したのである。
(困ったな……)
 しかし、共鳴すべきパートナーが傍に居ない。不運な事故なのか、それとも何者かによる意思が働いたのか、彼女だけその到着が遅れてしまったのである。勿論待つことは出来たが、既にマガツヒの構成員もエージェント達も都市内へと侵入し、戦況は刻一刻と移り変わっている。それを思えば、ここでまごまごしているわけにもいかない。
(でも……今の自分が行っても足手まといになるだけかなぁ……)
 仲間達の中には、第二英雄と呼ばれる、新たなる絆を結んだ者が居る。幅広い状況に対応する為でもあり、このような事態でも無防備にならないようにする為でもある。しかし、ナイチンゲールにとっては、中々その縁に恵まれる事が無かった。タナトスの忘れ形見とも言えるガイノイドがこの世界にひょっこりと顔を出したが、彼女が誓約相手に選んだのは知人の方であった。そんなわけで、彼女はこの日までパートナーとペアでやってきたのであるが。
(……こんな時にもう一人いてくれたら)
 こうなってしまうと、そう思わずにはいられなかった。

 おろおろしているナイチンゲール。影から様子を窺っていたその“意志”は、彼女が戦う為の力を今求めている事を悟った。
(この空間全体にもライヴスが満ちている……今が当に頃合いでしょうか)
 ライヴスを寄せ集めると、“意志”は白い蝶の群れを象り、ナイチンゲールへ飛んでいく。彼女は目を丸くし、僅かに身を引いた。遺跡に基づく何かかと思っているらしい。
 “意志”はナイチンゲールの正面まで飛び寄ると、その真の姿を現した。艶やかな黒髪、血のように紅い瞳、雪のように白い肌。黒尽くめの服に身を包んだ、清楚な女性の姿を。突然の事態に、ナイチンゲールは目を白黒させる。
「誰っ!」
 どこか怯えたような顔をしているナイチンゲール。女は思わず笑ってしまった。
『貴方次第でしょう』
「……え?」
 彼女の言葉に、ナイチンゲールは毒気を抜かれたような顔をする。彼女はさらに一歩歩み寄った。
『戦へ往くも留まるも。この海を守るも紅く染めるも。わたくしを定義づけるも。凡ては聖心のままに。此方にわたくしを招いたのは、あなたなのですから』
「私が……?」
 ナイチンゲールはぽかんとする。だが、“彼女”の瞳を見ているうちに、徐々に実感していった。“彼女”と自らの絆は、彼とぶつかった時すでに結ばれていたのだという事を。
 力への意志が、強く抱かれた。“彼女”はナイチンゲールに手を差し伸べる。
『さ、わたくしに示しなさい。善き選択を――あなたという【徴】を』
 ナイチンゲールは深呼吸する。時は一刻を争う。是非を問うている暇は無い。彼女は“彼女”の手を取った。
「この“戦いに終焉を”!」
 解れた糸のように曖昧だった絆が、新たな誓約によって確かな形を得る。“彼女”が微笑むと、二人の姿は融け合った・

 ナイチンゲールの髪が赤黒く染まり、その頬からはそばかすが消える。クリミアに降り立った天使の如く、黒と白に彩られた装いを纏って彼女は門の前に立った。何はともあれ、これで彼女は戦える。
「……よし」
 行こうと声を掛けようとしたが、まだ名前を聞いていない事に気付く。
「あの、名前は……」
『それはこの戦いが終わったら。……それまでは』

『unknownとお呼びくださいな』

●ピースメーカー
 マガツヒ構成員との激しい戦いの末、どうにかナイチンゲールは事態を収めることに成功した。怪我の軽い手当を終え、二人は静かに共鳴を解いた。修道女の姿をした“彼女”は、ナイチンゲールの目の前に立つ。
「……今日の戦いは終わりました」
『そうですね』
 “彼女”は一言応えるだけ、にこにこと笑みを浮かべている。得体が知れない。喜んでいるようにも、楽しんでいるようにも、或いは己の怒りを押し隠しているようにも見える。彼女が何を感じているのか、ナイチンゲールは掴みかねた。
(……それよりも)
 マガツヒとの戦いの中で、ナイチンゲールは感じていた。彼女が抱いている、第一英雄には無かった感情を。
(あれはきっと……戦に対する怨み)
 世界に混沌を齎そうとする者達に、彼女は激しい怒りを抱いていた。その怒りの正体を知る為にも、ナイチンゲールはまず知らねばならないことがあった。
「……教えて下さい。貴女の名を」
 ナイチンゲールは“彼女”に強く問いかけた。誤魔化されるわけにはいかない。そんなナイチンゲールの強い眼差しを見て、彼女は頷く。
『いいでしょう。……私の名は』

『善知鳥』

「ウトウ?」
 善知鳥(aa4840hero002)は頷いた。あくまで微笑みを浮かべたまま、彼女は己を語る。
『ええ。雛を奪った人間をけして許さぬ鳥。それがわたくし。愛した者達を奪う戦いをけして許さぬ女達。それがわたくしなのです』
 そっと、善知鳥はナイチンゲールへ手を差し伸べた。
『貴方の意志がわたくしをここへ呼び寄せたのは、きっと運命。全ての戦いを終わらせるための意志が貴方にあるなら、必ずや貴方にお力添えいたしましょう』
 力はそれを振るうものに責任を負わせる。彼女の眼は、それを何より雄弁に語っていた。ナイチンゲールは頷くと、そっと善知鳥の手を取る。
「……うん。よろしく」



 彼女こそが善知鳥。戦をけして許さぬ彼女は、一人の少女と共に、自らもまた戦いへ身を投じていくことになるのである。



 CASE:善知鳥 おわり



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ナイチンゲール(aa4840)
善知鳥(aa4840hero002)
タナトス(az0104)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。再び発注いただきありがとうございました。
今回は主にナイチンゲールさんと善知鳥さんの出会いのルーツを想像しながらノベルを書かせていただきました。満足いただける仕上がりになっていればよいのですが……

ではまた、御縁がありましたら。



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2018年11月29日

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