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『とある夜の話 』
日暮仙寿aa4519)&不知火あけびaa4519hero001


『仙寿』
 不知火あけび(aa4519hero001)に呼び掛けられ、日暮仙寿(aa4519)は落ちかけていた瞼を重そうに持ち上げた。
 時刻は午後十一時半。現在二人は卓を囲み、参考書とノートを広げて受験勉強の最中である。仙寿は七月初め十八歳になった受験生。あけびは八月初めに高認試験を受けたのだが、今は大学に行くために仙寿と同じく勉強中。
 そんな中、仙寿はこっくりこっくり揺れながら一人出港しかけていた。あけびは数学の参考書を一先ず置いて息を吐き、きちんと起こしてあげようと肩を掴んで前後に揺らす。
『仙寿』
「ああ……」
『眠いならお布団行けば?』
「うう……」
『仙寿』
「大丈夫だ……大丈夫……」
 まったく大丈夫には聞こえないが、仙寿は眠たげな目をしながらも英単語帳に視線を落とした。今布団に行けば確実に朝まで脱出不可能になる。それが分かっているので仙寿は必死にしがみつく。
 一方、あけびは半ば呆れたように『ふう』とまた息を吐いたが、突然ぴこんと閃いて『そうだ』と言って立ち上がる。
『お茶でも淹れてくるよ。それで目が覚めなければ今日は終わり』
 と提案してみたのだが、仙寿からの返事がない。しゃがんで覗き込んでみるとまた船を漕ぎ始めており。
『……仙寿』
「……寝てない、寝てないぞ……」
 寝てないとは言っているがほとんど寝言のようである。あけびはまた息を吐き、とりあえずお茶を入れようと台所へと歩いていった。
 

 仙寿とあけびが出逢った時、二人の関係は今とはまったく、まるで違うものだった。
 仙寿は表向きは日本名家や旧家の剣術指南役、裏では彼等からの暗殺任務を遂行する一族の次期当主であり、幼い頃から「仕事」をしてきた。刺客として生きてきた。そしてある日あけびと出逢い、リンカーとして覚醒した。
 仙寿は最初あけびとの……英雄との出逢いと誓約とを喜んだ。出自の為に腕を誇れず、後ろめたい思いを抱えて生きてきた仙寿だったが、これで自分も堂々と剣を振るえるのではないか。誰からも認められるのではないか。誇れる自身を手に入れられるのではないか。そんな風に夢想した。
 だが誓約を交わした英雄は仙寿と似た境遇で。それなのに二人の在り方はまったくと言っていい程違って。
『(あの時は、こんな風になるなんて考えもしなかったな)』
 しゅんしゅんというヤカンの音を聞きながらあけびは思い出す。冷たく当たられた事もあった。気にせずに笑顔で流して、けれど流しきれずに時には影で泣いた事も。それでも色々な事があって、何度も一緒に戦って、共に在る事を望んで、そして。
 その時の事を思い出し、思わず顔がにやけてしまう。嬉しいような恥ずかしいような、とても大事な思い出だ。
『ところで、お茶を飲ませていいのかな』
 ふと疑問が頭を過ぎり、あけびは脳内の思い出から茶葉の方へと意識を戻した。眠気を飛ばすのであればお茶、もしくはコーヒーは定石だが、それは同時に「眠ろうと思っても眠れなくなるリスク」を抱えさせる事になる。あけびは英雄なので、いざとなれば眠らなくてもなんとかなってしまうのだが、仙寿は英雄ではないのでそうもいかない。それにきちんと眠らないと、せっかく覚えた知識も脳に定着してくれないとかテレビでやっていたような気が。
『うん、やっぱり今日は布団に入れよう』
 しかしだからと言って何も持たずに戻るというのもアレなので、あけびはお茶の代わりにホットミルクを持って帰る事にした。お茶やコーヒーとは真逆に安眠効果を有するという。これを飲んで今日はぐっすり寝てもらって、それで明日の朝になったら少し早めに起こしてあげれば……。
『(や、でも、明日の朝だと私が早く起きれないかも……)』
 あけびは英雄なので眠らなくても死なないが、だからと言って一切寝ない、という訳でもない。特に寒くなってきた今の季節、オフトゥンの誘惑に抗える者などそんなにいない。
『まあとりあえず、今日はもうおやすみって仙寿様を説得しないとね』


 仙寿は眼を擦りながら単語帳を眺めていた。
 受験勉強はある意味時間との戦いである。古文、現代文、英語、数学、生物、化学、地理、日本史……やってもやっても終わらないしやってもやってもキリがない。もっとも泥沼化するのは学力的な面だけではなく、当人の心理面が問題になる場合もあるのだが、仙寿の場合は後者……心理面が要因と言っても過言ではないだろう。
『(だって、俺だけ落ちたらやだし……)』
 仙寿もあけびも現在大学を目指して受験勉強中だが、あけびは「出来れば仙寿と同じ所に行く為に」、と目標を掲げて頑張っていた。仙寿は元々その大学を目指していて、別に「あけびと同じ所に行く為に」頑張っている訳ではないのだが(そりゃあ、一緒に行けたら嬉しい、とは思わなくはないのだが)、それよりも「あけびだけ受かって自分だけ落ちる」、という事態を恐れていた。
 だってそんな事になったらあまりにカッコ悪過ぎる。受かる自信がない、とまでは言わないが、受験には魔物が潜んでいるという話もある。刺客として、H.O.P.E.のエージェントとして、そして「日暮仙寿」として様々な戦いを経験してきた仙寿だが、大学受験に挑むのは今回が初である。何が起こるか分からないし備えるに越した事はない。
 それにあけびには「寝なくてもいい」というアドバンテージが存在する。だから多少無理をしてでも、詰め込める内に詰め込めるだけめいっぱいに詰め込みたい。
 しかしどんなにやる気があっても勝てないのが睡魔である。単語帳を辛うじて開きながらも、仙寿がこっくりこっくり再度出港しかけていると、二人分の飲み物を持ってあけびが部屋に戻ってきた。
『ホットミルクにしてみたの。これ飲んだら歯磨きして、今日はもうぐっすり寝よう?』
 ホットミルクと耳にして仙寿は「いらない」と首を振った。本人としては通常通りの反応のつもりだったが、眠そうな声。ゆるゆると振られた首。とろとろに落ちてる瞼。眠いけど夜更かしがしたい子供のような動作だった。普段は生意気で不愛想で、最近はやたら強気に出るようになった仙寿だが、だからこそ一層幼く見えてあけびは思わず笑ってしまう。
『もう仙寿様、今日は無理しないで』
「……名前……」
『ん?』
「名前……二人きりの時は……」
 いつもはドS感滲む要求も、今はまったく覇気がない。恋人と言うより年下の弟を見ているような気分になる。
『はいはい仙寿。一回寝て頭スッキリさせよう。ほら立って』
 あけびは仙寿に肩を貸し、寝床まで連れて行こうとしたが、その時仙寿の頭が中途半端に覚醒した。一回寝て頭をスッキリさせる。確かに眠気に無駄な抵抗を続けるよりはそっちの方がいいかもしれない。
「あけび」
『? どうしたの?』
「ちょっとそこ。座れ」
 相変わらず寝言みたいな声で仙寿は絨毯を指差した。仙寿が何を考えているのかまったくもって分からなかったが、あけびはとりあえず指示に従いその場所に座ってみる。
『こう?』
「正座」
『してるよ』
「そのまま動くな」
『仙寿、一体何をし……』
 その答えはすぐに分かった。決して軽くない重みがあけびの腿を占拠していた。

 すなわち、仙寿の頭が、あけびの両太腿の上に我が物顔で乗っていた。

『…………』
「二時間経ったら……起こせ……」
『ま……ままま、ままままって仙寿様!』
 あけびが正気に返った時には、スーという仙寿の寝息がすぐ下から聞こえてきた。視線を落とせば自分を「好きだ」と言った男が、自分の太腿を枕にして
『(ひ、ひゃ、ひゃああああああああっ!?)』
 あまりにもあまり過ぎて悲鳴が声にならなかった。思考の半分以上を眠気に支配されていた仙寿が、どのような考えでこのような行動に出たのかは定かではないが、確かな事は仙寿があけびの太腿を枕に寝ているという事である。膝枕なうという事である。
『(お、おおお起こす? でも起こすのも可哀想だし……でも起こさなかったら仙寿様が起きるまで……ずっとこのまま?)』
 二時間経ったら起こせと言われた。という事は二時間経ったら問答無用で起こしていいという事だ。だがそれは同時に、それまでは絶対に起こしてはいけないという事である。いや別に「絶対に」という程強制力はないのだから、問答無用で叩き起こしても多分問題はないだろうが、でもやっぱり膝枕だし仙寿様寝てるし起こしたら可哀想だしでも二時間もこのままって
『ど、どどど、どうしよう……』
 子供みたいだとか可愛いだとか思ったのが悪かったのか。頬を真っ赤にして途方に暮れるあけびには一切構わずに、仙寿は気持ち良さそうにすうすう寝息を立てている。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【日暮仙寿(aa4519)/外見性別:男性/外見年齢:18/能力者】
【不知火あけび(aa4519hero001)/外見性別:女性/外見年齢:20/シャドウルーカー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。以前「仙寿さんは今月初め十八歳になった受験生」「あけびさんは八月初めの高認試験に向け勉強中」と伺いましたので、すると今は大学受験勉強の真っ最中では、と思いこのようなお話にしてみました。あと膝枕を推したかった。
 かなりアドリブ多めとなっておりますので、イメージや設定など齟齬がありました場合は、お手数ですがリテイクのご連絡お願い致します。
 この度はおまかせのご注文、誠にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願い致します。
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2018年11月29日

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