『腹ぺこ悪魔はハロウィンで正直者の夢を見るか？ 』

来生・億人（5850）

　気が付くと、森に囲まれた湖のすぐそばを走っていた。それも、両手で抱えるほどの大きさの、綺麗にラッピングされた包みを大事そうに持って。
（……何で俺、こんなとこ走ってるんやろか？）
　走っていた銀髪で小麦色の肌をした青年――実の所、人間ではなく悪魔であるのだが――来生億人はふとそんな疑問を覚え、抱えている包みに目をやった。包装紙で包んで、上部をこれまた綺麗なリボンできゅっと結んである。結び目の下辺りには、顔のあるカボチャのシールがぺたんと貼られていた。
　顔のあるカボチャとは、ジャック・オー・ランタンのこと。ジャック・オー・ランタンといえば、連想されるのはハロウィンであろう。
（あ、せやせや。ハロウィンを楽しみにしながら寝て――）
　そこでようやく、色々と把握する億人。ハロウィンではお菓子がもらえるという話を聞き付け、億人はそれを楽しみにハロウィン前日眠りについていた。もっともお菓子がもらえるのは基本子供だけだとか、そんな諸々の話もあったはずなのだが、そこは本人が聞いていないのか聞き流したのか定かではない。
　ほぼ確実なのは、今のこの状況が夢であるということだ。押し入れの中で寝ていて、目覚めたらどこぞのおとぎ話にでも出てきそうな所を走っているだなんて、何者かの手によって仕組まれたりしていないのであれば、夢以外の何であろうというのか。
　とすれば夢を見る経緯からして、今抱えている包みにはきっとお菓子がたっぷり詰まっているのだろう。
「けど、夢でもお菓子もらえるんやったら嬉し――わわっ！？」
　そうつぶやいた瞬間である、地面のちょっとした出っ張りに億人がつまずいてしまったのは。そのまますてんと転んでしまう億人。その弾みで、抱えていた包みが億人の手から離れて飛んでいき――。
　ボチャン！
　そんな音とともに水しぶきを上げ、無情にもぶくぶくと沈んでいく包み。
「あーーーーーーーーーーーーー！？」
　倒れたまま、思わず手を伸ばし叫ぶ億人。だがそれで包みが浮かんでくるはずもなく。
「お……俺のおかっ……お菓子ぃぃぃぃ……」
　涙目になり、億人は包みの沈んでいった場所を見つめる。その瞬間だった、何かが湖の中からざばっと姿を現したのは！

「あなたが落としたのは、この銀の包みですか？　それとも、こちらの金の包みですか？」
　湖の中から姿を現した相手が、両手それぞれに包みを持ちながら優しげな声で億人に尋ねてきた。その相手とはそう、湖の女神――ではなく、何故かジャック・オー・ランタンであった。さすがは夢である、訳が分からない展開だ。
　しかしながら相手の姿はさておき、この逸話自体は有名な話なので、億人も知っている。正直に答えれば、落とした物も含めて全部もらえるのだから、そうするのが一番なのだ。
「ちゃいます！　俺が落としたんは、普通の包みです！」
　億人は元気よくそう答えた。
「そうですか、あなたは正直者ですね。正直者は……」
　思った通りの答えが相手から返ってくる。となれば、この後は全部もらえることになるはずだったが……そうはならなかった。何故ならば、相手はこう言ったからだ。
「……排除しなければ！」
　次の瞬間、無数のジャック・オー・ランタンの頭が湖の中から飛び出してきて、一斉に億人目がけて襲いかかってきた！
「何でやーーーーーーーーーーーーーー！？」
　予想だにせぬ展開に絶叫する億人。そして、頭の一つが億人の頭部目がけて一直線に飛んできて――視界が暗転した。

「いっ……つぅぅぅぅぅぅぅぅ……！！」
　頭部を押さえ、痛みに呻く億人。暗転した視界が徐々に戻ってくるが……しかしそれでも暗い。
「……ん？」
　億人はゆっくりと周囲を確認した。そこは見覚えのある場所、来生家の押し入れであった。どうやら夢から覚めたようで、先程の頭部の痛みは目覚める瞬間にどこかにぶつけてしまったことによるものなのだろう。
「変な夢やったなあ……」
　はあ、と大きく溜息を吐く億人。最終的にお菓子ももらえず、ジャック・オー・ランタンに襲われる夢なんてろくでもない。
　ところで。ハロウィンとは元々秋の収穫を祝い、悪霊などを追い出す行事だという。つまりこの時期には悪霊などが集まってきているという訳だ。ならば先程億人の見た夢は、そんな悪霊たちがいたずらで見せたものだったのかもしれない。もっともそれならそれで、下級とはいえ悪魔がそんな夢を見させられるのはどうなんだという話になるのだが……さてはて。
「……お菓子惜しかったなあ」
　水でも飲もうと、億人は押し入れのふすまを開けて外に出ようとした。するとどうだろう、そこには普通のと、銀色のと、金色のと、夢でも見た三つの包みが鎮座していたではないか――。


【おしまい】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号／PC名／性別／年齢／職業】
【5850／来生・億人／男／996／下級第三位（最低ランク）の腹ぺこ悪魔】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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　ライターの高原恵です。発注どうもありがとうございました！

おまかせノベル

高原恵

東京怪談

2018年11月30日