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『冬の装い新たに 』
ルナ・レンフィールドka1565)&エステル・クレティエka3783

 冬物を見にいこう――そう誘ったのはルナだった。
 リアルブルーでの作戦が長引いてあっちの世界とこっちの世界を行ったり来たり。
 ゆっくり買い物をする暇がなかったわけではないが、そういう時間は他にもしたいことがあるもので、後に回しているうちにすっかり景色は冬模様になっていた。
「まだ雪がちらつかないのが救いですね」
 やや雲の多い空を見上げてエステルはほうと息を吐く。
 息が白くならないのも本格的な冬の到来がまだであることを告げているかのようで、出遅れた冬支度もこれからで十分間に合うと、どこか気持ちに余裕を持たせてくれた。
「依頼でいろんな地域に行くとさ、服も合わせていろいろ準備しないといけなくって大変だよね」
「そうですね……特に夏は毎年大変です」
 冬ならまだどの地域に足を運んでも『寒い』で統一されている。
 それが−3度か、−30度かの違いはあるが、それでも『寒い』前提で準備はしていける。
 だけど夏はそうはいかない。
 半袖でも暑い場所。長袖でないと肌寒い場所。
 南へ北へと移動するたびに気候はさまざまだ。
 必然的に服もいろいろ揃えなくてはならなくて、出費がかさむ。
「かと言って同じ服を着回すのは女の子として心が……」
 ルナは苦い表情で胸を押さえる。
「エステルちゃんって何シーズンくらい同じ服持たせる?」
「2シーズンくらいでしょうか。気に入ってればもう1シーズン頑張ることもありますけど」
「やっぱりそのくらいだよねぇ」
 明後日の方向を見ながら答えたエステルに、ルナは深く頷き返した。
 もちろんそれを過ぎた服は捨ててしまうわけではなく、状態が良ければ家族や友人に下ろしたり、「生地」として別のものに使ったりと無駄にはしない。
 それでもおしゃれには周期があるもので……やっぱりお金はかかるもの。
「とりあえずコートとマント見て、それから靴見に行こうよ」
「はい、お任せします」
 提案にエステルはにこやかに返事をすると、商店街の石畳を並んで歩いて行った。
 
 冬のアウターは鎧だ。
 いや、攻撃を防ぐという意味ではなく、おしゃれという戦いの中で重要な装備の1つという意味で。
 冬場のコーディネートの印象は8〜9割がたこれで決まると言っても良い。
 防寒の名目で身体のほとんどの部分をすっぽり覆ってしまうわけだから、当然と言えば当然なのだが。
「う〜ん、これはちょっと色がハデかな?」
 明るい青色のコートを掲げながらルナはうんうんと唸る。
 あったかそうなのに重くない、ふんわりとしたデザインはすっごく好みなのだけれど。
「かわいらしくて良いと思いますよ。試してみたらいかがでしょう?」
「それもそうだね」
 コートならその場でちょっと着てみたって構いやしない。
 その気軽さは他のショッピングではなかなか味わえないもの。
 さっそく羽織ったルナは、立てかけられた姿見の前で右に左に身体を捻る。
 それから小さく唸って悶々とした表情を浮かべた。
「やっぱりちょっとハデじゃない?」
「言われてみればそんな気もしないでも……ちょっと子供っぽく見えるせいでしょうか?」
「そう! それ! そっかそっか、若く見えちゃうんだね、うんうん」
 何か納得したように頷いたルナに、エステルは小さく首を傾げる。
「エステルちゃんはそれにするの?」
「あっ、いえ、これは手に取っただけで」
 話を振られて、彼女は慌てて首を横に振る。
 手にしていたのはシックなデザインの宵闇色のコート。
 シルエットはとてもシンプルだが、生地が厚手でモコモコしていて女性らしさも兼ね備えた品だ。
「ルナさん、こっちはどうでしょう?」
「えっ、じゃあエステルちゃんこっち着てみる?」
 手にしたものを取り換えて再び羽織る。
 自分で鏡を見たうえで、お互いに顔を見合わせて頷きあった。
「「すごくいい!」」
 この冬のメインアーマーはこれで決まりだ。
 
 会計を済ませてお店を出る。
 一番大きな買い物が終わって心も晴れ晴れ――のはずなのだが、ルナの表情はどこか沈んでいた。
「そ、そんなに気にすることないですよ……」
 エステルが元気づけるようになだめるが、ルナの気持ちは晴れない模様。
「2人で並んでて『ご姉妹ですか?』はまだ良いんだよ。嬉しいよ。でも私が『妹』って……」
「あはは……」
 まあ、見た目から行ってしまえば……その……正直、エステルの方が大人びて見えるのは自明の理。
 姉妹と勘違いしたのなら、必然的に姉役と妹役は定まるというもの。
「あっ……でも、今買ったコートを着たらきっとルナさんの方が大人びて見えますよ。私のはほら、ルナさんが選んでくださった若々しいものですし――」
 自分の抱える紙袋からさっそくコートを取り出そうとして、エステルはヒクリと笑みが引きつった。
 店員から自分用に渡された袋の中には、ルナが買ったはずの宵闇色のコート。
 当然、袋から青いコートを取り出すこととなったルナは光を失った瞳で澄んだ空を眺めていた。
「うん……分かってたんだ。きっとこうなるだろうなぁって……ほら、お約束ってあるじゃない……?」
「ル、ルナさん、気を確かに……!」
 もはやフォローできる点などなく、エステルはただ必死に励ましの言葉をかけ続けることしかできなかった。
 
 とはいえ、落ち込みを引きずらないのは女の子の強いところだ。
 次のお店に入るころにはケロッとして、また目を輝かせながら自分に合う靴を探し始める。
「そういえばルナさん、そろそろ聖輝節の時期ですが――」
 ちょっとした話題のつもりで口にしたエステルの言葉に、ルナはギクリと肩を揺らす。
 その様子を訝しんだ彼女は、つついと靴を物色するふりをしてルナの方へ距離を詰める。
「……ご予定は?」
「ごめんなさい……まだないです」
 白状したルナに、エステルはどこかわざとらしくため息をつく。
「他の日ならいざしらず、聖輝節当日は1年に1度だけ。予定が入ってしまったらおしまいなんですよ……」
「はい……はい。毎年似たようなこと言われてる気がするね」
「気のせいです。というか自覚があるなら頑張りましょうっ!」
「あああ、ごめんごめんっ!」
 迫るエステルにルナは平謝りで縮こまった。
 だけど、何事にもタイミングというものがある。
 今はそれを待っているだけ……待っているだけ。
「待ってるだけなんです……」
 ルナは自分に言い聞かせるように口にする。
 エステルはそれを聞いて小さくため息をついてから、笑みで返した。
「焦る必要はないですから、ね」
「うん、ありがとう」
 ルナもまた笑顔で返す――が、ふと感じた違和感にどこかぎこちない。
 なんだろう……本当ならこれ、立場が逆な気がする。
 こういうところがきっと姉妹逆に思われるんだろうなと……そんなことを考えていたら、聖輝節の心配なんてどこかに飛んでしまっていた。
「って、飛んだらだめっ」
「?」
 突然叫んだルナをエステルは不思議そうに見る。
 ルナはちゃんと予定を胸に刻み込んで、それに見合う靴選びに意識を戻した。
 
 両手にぎっしり買い物袋を持って、一層肌寒さを感じるようになった街を歩く。
「ほんと、気づいたらこんなに寒くなってたんですね」
 来た時と同じように空を見上げて息を吐くエステル。
 あの時と違うのは、まだ陽は出ているけれど息も白く輝いていたこと。
「沢山買い物できてよかったぁ。これで今年の冬も大丈夫だね」
「はい。次は春物を買いに来ましょう」
 それは流れで出て来たほんの些細な提案。
 だけどそれがどうにも嬉しくって、ルナはエステルの腕に自分の腕を絡めた。
「あ、危ないですよっ」
「いいのいいの。それより――」
 顔を覗き込むようにして、ルナは今度こそ満面の笑みで口にした。
「春前にも、また来ようねっ」
「はいっ」
 
 ――了。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1565/ルナ・レンフィールド/女性/16歳/魔術師】
【ka3783/エステル・クレティエ/女性/17歳/魔術師】
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2018年11月30日

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