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『神の祈り 』
アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001)&オールギン・マルケスaa4969hero002

●今回のあらすじ
 かつて、とある世界で一つの悲恋があった。七大洋を統べる海の神が、死を司る冬の神を思慕するあまり、海を氷に閉ざして至高神に永久に消えぬ罰を与えられたのだ。かくして閉ざされたかに思われた運命であったが、何の因果か別の世界において交じり合う。一人の少女を交えた絆によって。

●神々の住まう場所
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)とオールギン・マルケス(aa4969hero002)は、揃ってギリシアのアテネを訪れていた。二人の誓約相手の少女は、知り合いの修道女に招かれ、孤児院に住まう子供たちの面倒を見に行っている。二人もついていこうと思ったのだが、修道女はたまには己の時間も取れと言って、二人を寄せ付けなかったのである。
「……ここに立つと、何だか懐かしい気分にさせられるわね」
 そんな事もあり、アルヴィナはアテナイのアクロポリスに立っていた。修復作業が辛抱強く続けられたこの土地は、ようやく復旧の時を迎えようとしている。大理石で飾られた神殿や広場は、彼女達が眼にしてきた人類達の営みにもよく似ていた。
「ふむ……我らも人間達によってその存在を信じられ、このように祀られていたものだな」
 オールギンは広場の縁に立って下界を見下ろす。広がっているのはアスファルトの道路や街灯、色とりどりの街並み。すっかり近代化されていた。日々の仕事に打ち込む彼らは、既に幾柱もの神がこの世界を創り統べているなどと信じてはいないだろう。今では科学がその代わりを務めるようになったのだ。
「見渡す限りに広がる純白の大地は美しいが……人類の営みによって作り上げられた眺めもまた面白いものだな」
「そうね……。オールギンなんて、この世界に来てから殆ど南極に釘付けだもの。こんな景色は新鮮に映るわね」
 傍に並び、アルヴィナも街並みを見つめる。彼女を一瞥した彼は、難しい顔をしたまま首を振った。
「南極での暮らしに不満は無い。企鵝達が呑気に暮らしている姿を眺めているのは、これがどうして中々飽きぬ。厳しき環境で生きている故か、中々彼らは賢いようだ」
 そんな事を言うオールギンを見上げ、アルヴィナは思わず破顔した。
「拗ねているわけではないわよ。私自身がそうだから」
「アルヴィナ自身が……」
 女神はこくりと頷く。彼女が地上に降り立つという事は、即ち文明が氷雪の中に閉ざされるという事。人類の営みは吹雪の向こう側に押しやられてしまい、彼女がまともに目にする事は無かった。
「神としての力は失ってしまったけれど、責務からも解き放たれたという事でもあり……ある意味では感謝しても良いのかもしれないわね」
 アルヴィナは階段を一歩降りると、振り向いてオールギンに手を差し伸べる。
「行きましょう? この街は他にも見られる場所が沢山あるみたい」

 かくして、二人は物見遊山をしばしの間楽しむことになった。世界遺産や博物館を巡りながら、おぼろげながらも覚えている、神としての責務を果たしていた頃の己に想いを馳せるのだった。

●一縷の望み
 帰る前に少女へお土産でも用意しようと、二人は一軒の店を訪れた。あれでもないこれでもないと、二人は品物を見繕う。オールギンはある髪飾りを手に取ったが、彼はふと溜め息を吐いてその髪飾りを棚に戻す。
「……昔のあの娘は、どのような性格だったのだ」
「え?」
 オールギンの呟きに、アルヴィナは首を傾げる。彼は眉根に皺を寄せたまま腕組みした。
「常々、かの娘の瞳を覗き見る度に思う。優しい心を持っているのに、その身にはあまりある哀しみがそれを塗り潰してしまっている。それが何故かは聞いたが……それまでのあの娘の眼を、我は知らぬ」
 彼の重苦しい口調を、アルヴィナは神妙な顔で聞き遂げた。小さなイヤリングを手に取ると、アルヴィナは訥々と応える。
「私があの子と出会った時も、同じような眼をしていたわ」
 雪娘の襲撃を受けた少女は、アルヴィナと出会った時に言葉さえ失っていた。そんな少女の命を繋ぎ止めていたのは、愚神に対する敵愾心。
「一緒に戦うようになって、愚神への復讐心は常に存在していたわ。普段は温厚なのに、愚神と出会った時はその表情を一変させる……まるで昔の私のようにね」
 語っているうちに、アルヴィナは一人の愚神の姿を脳裏に蘇らせる。おぼろげな身体を包帯に包み込んでいた愚神を。
「でも、一人の愚神に出会って、その転機が訪れたのよ」
「ムラサキカガミ……日本のある都市伝説を名乗る愚神であったか」
 アルヴィナは頷く。
「彼は間違いなく愚神だった。心を痛めて苦しんでいる人間に忍び寄り、愚神を憑りつかせて暴走させてきたわ。そうして吸収したライヴスを愚神ごと刈り取る……こうして語ってみたら、本当に邪悪な愚神ね」
「共食いすらして勢力を拡大するのだからな」
 端的な物言いに、アルヴィナは思わずクスリと笑う。彼と相対した二人も、最初は当に同じような感想を抱いていた。
「でも、その心根は真っ直ぐだった。苦しんでいる人の傍に寄り添いたいという思いも、その苦しみから解き放ってあげたいという思いも本物だったのよ。……事実、彼が関わった人の中には、それまでよりも身の回りが好転したという人もいるの」
「怪我の功名とでも言うべきか……今あの娘がいるであろう孤児院も、元はその愚神と化す前の人間が営んでいたものだったか」
「ええ。彼の信念だけは本物だった。苦しむ人を助けたい。その想いを受け継ぎたいと考えるエージェントも何人かいたわね」
 彼との戦いが終わった後、少女はアルヴィナに遊園地へ行こうと言った。世の中にある喜びへと、少女が再び眼を向けようとした瞬間だった。
「あの子も……彼の言葉に一度は救われた。復讐だけじゃない。あの子なりに希望に目を向けるようになれたのは、間違いなく彼の言葉があったから……」
 アルヴィナの声は次第にすぼまっていく。オールギンは祈るように目を閉ざす。
「しかし、あの一件で全てが崩れてしまった、というわけか」
「最初から心を許すべきではなかったのかも知れないわね。あの獅子は雪娘がゲームをしていると言ったわ。言われてみれば、全てが腑に落ちる。……これまでの所業も鑑みれば、あの愚神に反省を促すだけ無駄だったのかもしれないわね」
 気付いてみれば、どれもこれもあまりに見え透いた嘘。信じたいという心が眼を曇らせ、彼女の嘘を疑う事が無かったのである。
「あの子は賢いけれど、したたかさで言ったら、同い年の少女と何にも変わるところがないわ。あんまり真っ直ぐ過ぎて、折れる事を知らないの」
 アルヴィナは嘆息する。今では頑迷と言える程に、少女は復讐を全うせんとしている。強く意識を保たなければ、自分がむしろ飲み込まれてしまいそうなほどに。オールギンも拳を固めて呟く。
「復讐を願う事を誤りとする事は誰にも出来ぬ。しかし、そのままでは、あの娘自身をも押し潰してしまいかねない」
「……今のあの子は、それさえも善しとしつつあるわ」
 俯きがちにアルヴィナは応えた。銀色の髪が僅かに揺れる。
「だが我々がそれを善しとしているべきか……」
「私達は神よ。人の進むべき道に干渉するべきではないわ。……必要最小限に導いて、後は見守るに留めるのみと、至高神も仰せになっている」
「それは我も承知している。痛いほどにな」
 その戒めに背いたがために、彼は一度全てを失ったのだ。しかしそれ故に、彼には見える涯もある。
「ただ、一度は破戒した神として……アルヴィナ。貴公に一つ尋ねておく」
 アルヴィナは首を傾げた。オールギンは彼女へ向き直ると、静かに尋ねる。
「そなた自身の望みは何だ。あの娘と……どのような繋がりを望む。今この世界で、我々は神ではない。一つの人格を持った存在に過ぎぬ。少しは、己の望みについて考えるのも良いだろう」
 そこまで言って、彼は薄らと微笑んだ。
「罰は当たるまい」
「……ええ。考えてみるわ」


 冬の神であるアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ。海の神であるオールギン・マルケス。一人の少女の心の行く末は、彼ら神々に委ねられているのだろう。

 CASE:二柱の神 おわり





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)
オールギン・マルケス(aa4969hero002)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。
二人のやり取りを、紫鏡の話も絡めて描かせて頂く事といたしました。
お気に召すものであればよいのですが。

この度はご発注いただきありがとうございました。
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2018年11月30日

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