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『赤き光、黒き風 』
海原・みなも1252

 海原・みなもは寒さすら感じられなかった。
 ただただ、落ちていく。
 風に捕まれ空に投げ出された。そこから、地面に向かって一直線に落ちていくだけ。
 怖い、はずである。
 しかし、みなもは他人事のように感じていた。
 なぜなら、都会の高層ビルの屋上にある山小屋にいるのだから。
 足元はきちんと地面についている、はずである。
 風が強いのは高層ビルだからあたりまである。
(一般的には高層ビルは屋上やベランダとか外に出ることはなかなかないのです)
 それでも出ることができることは知っている。そういうところでは安全対策がしっかりされているのだ。
 それに、高層ビルという特徴のため、もしも何かあった場合、避難経路が空になるためヘリポートはある。
(小屋の前にそれはありました。そもそも、あたしは、小屋の中にいるのです)
 みなもはこれは幻だと言い聞かせる。

 くるりくるりと回り繰り返し映し出される景色。
 青い空、黒い空、薄い空気、冷たい空気。
 五感を持ってくるり、くるり。

 風が耳の奥をたたき、冷気が全身に絡みつく。
(山小屋ならば、雪山ですよね?)
 雪の嵐、避難した先の山小屋という想定がセオリーだ、物語ならばと考える。
(雪女がいるかもしれませんね)
 みなもは小さく笑うと、喉に冷たい風が入る。
 相当落下しているはずであるが、地面が届かない。
(何かあると状況はスローモーションになるのですよね)
 現実味がない現状に、みなもは夢だとも考える。だから、落ち続けて地面に届かないのだ。
(そういえば、死ぬ直前は走馬灯のように人生が見えると聞きますよね)
 それが本当か否かなどわからない。
(走馬灯!?)
 みなもの意識が一瞬覚醒した。

 くるり、くるりと回る幻の影絵。
 赤い光に映し出される雪景色。

「大体、そんな依頼受けるかっていうんだ!」
 草間・武彦は、受話器をたたきつけるように置いた。
 カネがない彼が仕事を選んだということは、怪奇現象の匂いがしたのだろう。

(結局、受けたのでしたっけ?)
 みなもは風の音を聞きながら考える。
 走馬灯のように何かが見える。
 ビル群の間に見えるのは――何だろうか?
 くるり、くるりと回る記憶。記憶は引っかかり、みなもは漂う。

 あの時、ビルの合間に強い風が吹いた。ビル風であるが、なぜか気になった。
 思い出し、ゾクリと背筋が凍る。
(寒さが感じられなかったのになぜなのでしょうか?)
 震えは恐怖であった。

「大体、二重写しに何かが見えるってなんだよ! 走馬灯のように見える? そりゃ、お迎えが来たと考えるだろう? 大体、そんな山小屋、どこから見つけてくるんだ! おおむね、思い込みだろう? 例えば、幽霊が住んでいるという家を買って持ってきたら、幽霊もついてくるとかさ」
 ありえないと武彦は断言する。

 依頼の内容は何だったのか、みなもは思い出せない。
 思い出そうとすればするほど、全身が冷えていく。

「……今回だけだからな! はい、何も見えませんでしたって言っても、こういう手合いは信じないだろうなぁ」
 武彦はぶつくさ言いながら、現場に向かった。みなもはついてきた。
 途中で、強風が吹いた。ビル風だろう。
「ゴミ置き場か」
 武彦は呟いた。
 その時の表情は、何もなかった。
 淡々としていると言えばいいが、考えたくない何かを想像したという感じだろうかとみなもは思う。
(風があっただけですよね……なぜ、ゴミ置き場なのでしょうか? 匂いがしたのでしょうか?)
 みなもはぼんやりと思う。できれば考えるなと何かがささやく。

 二重写しの世界。
 山小屋から見える世界。
 くるりと回る走馬灯、誰かの見た?
 白い世界、真っ黒な空に地面の中。

 山小屋の来歴はおおざっぱで、素材の来歴が奇妙だった。
 輸入の山小屋で、どこかで建てられ放置されていたという。
 材料は北極圏で取られたというのだ、木も窓ガラスの原料も。
(ガラスの原料がそこで取れるのかよくわかりませんが、取れたからこの山小屋が作られたのですよね?)
 ガラスは現代の高性能なものではなく、昔ながらの、厚みがあり、透明度に欠けるものだった。
「ガラスが透明ではないですし、汚れも付着すれば色々見えるかもしれませんよね?」
 みなもは武彦に言った。
 武彦は「それが一番いいな」と曖昧な答えを漏らした。そして、山小屋の中を見渡す。なぜか、窓に近寄らない。
 みなもは近寄ろうとしたが、武彦が「こっち見るぞ」と腕を引っ張っていく。

 くるり、くるりと回る景色。
 つながる、つながっていく、記憶に、時間に。

 屋上は風が強い。そのため、依頼人は山小屋の前に木を植えたという。
 屋上であっても、大量の土を入れることや、今でこそ苗木であるが、いずれ大きくなった木もビルが支えてくれることにみなもは驚いた。
「その重量だってすごいが、図書館を考えてみろよ、本棚の重量、本何万冊という重量がかかるんだぜ?」
 そう考えると高層ビル本体の重量も相当なことだとみなもは考えた。
「防風林があるとどう変わるのか気になります」
「そうだな」
 高層ビルの屋上から見る景色は、不思議だった。
 柵が高くしっかりしているため、地上は見えにくい。見えるのは、近くの高層ビルと、隙間から見える遠くの景色。ずっと広がる建物や山に空、それだけであった。
 人が見えない。
 タワーに登れば人や車など下を移動する物は見える。
 だから、ここから見える景色は不思議だった。

(えっと、ええと? あたしは、なぜ、なぜ? 思い出さないと、思い出しては駄目。どうすればいいのでしょうか。あたしは、あたしは?)
 思考が飛び散る。宇宙が近くなっている。そうなるとどうなるのだろうかという考えが浮かび始めた。
 落ちていたのか、上がっていたのか、わからない。

 武彦は決して窓に近づかない。
 外からは見ていた。見ていたが、一瞬で終わった。表情は苦虫をかみつぶしたかのような物だった。
「何があるんですか?」
 みなもは外から窓を見ようとしたが、武彦が制服の袖を引っ張る。
「はいはい、探偵ごっこは終わりな、帰るぞ」
「なっ!」
 みなもは怒ろうとしたが、武彦が心あらずという感じで空を見つめているため、怒りが逸れた。
「あの、何かあったのですか、草間さん?」
 武彦は「ああ」と気の抜けた声を出した。
「でも、きちんと調査をしなければ、収入ゼロですよね?」
 みなもの正論に対しては反応があった。
「大体、危険だと思うものを買うやつが駄目だろう!」
「この小屋、そんなに曰くのつくものなのですか?」
「んんー、ああ」
 怪奇現象お断りの武彦が肯定するということは、ごまかしきれない何かがあるのかとみなもは考えた。
 報告書を書くため中に入る。
「建物の外見も、中も素敵ですよね?」
 暖炉まであり、隠れ家的にくつろげる場所だ。
「ちょうど西日なんですね」
 みなもはまぶしいため目を細めて、窓を見ていた。
「ずれてはいるが……って、見るんじゃないぞ!」
 テーブルに紙を広げ何か書き始めていた武彦は、慌てて止める。

 みなもの目の前に影が二つあった。
「……な、にですか……?」
 まるで空に浮かぶ暁の星のように。
 心臓が早鐘を打ち、目をそらすことができず硬直する。
 強風が走り、みなもの足をすくい上げた。
(走馬灯なはずですが……でも、あれは?)
 みなもは冷静に状況を把握した瞬間、悲鳴を上げた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1252/海原・みなも/女/13/女学生
A0001/草間・武彦/男/30/草間興信所所長、探偵

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 発注ありがとうございます。
 気持ちが悪い書き方をしました。こちらは全貌を理解して書いていますので、通じるようになっているとよいのですが……。
 いかがでしたでしょうか?
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年11月30日

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