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『不思議の国の……? 』
夢洲 蜜柑aa0921)&ブリタニアaa5176hero001)&ウェンディ・フローレンスaa4019

 その日は、特に用事もないと言うことで、蜜柑とウェンディは近くのショッピングモールに遊びに来ていた。一通り洋服をチェックしたあと、カフェに入って一息つく。
 と、蜜柑の目の前に現れたのは、紛れもなく小さなウサギ。
 はじめはとくに気にもかけなかったから、どこから来たのかもわからない。
 ただ、蜜柑が手にしていたスマートフォンをひょいっと持ち、慌ただしく走り去っていったのである。
「え? あれ、スマホがない……っ」
 はじめは蜜柑も何が起きたのか一瞬わからなかった。が、手の中にあったはずのスマートフォンがないことに気がつくと辺りをきょろきょろと見回し、その犯人たるウサギを慌てて追いかけた。
 何しろこのご時世、手元にスマートフォンがないとなにかと不便なのだ。いつどんな連絡が入るかわかったものではない。
 ちょうどいっしょに話し込んでいたウェンディも、いっしょに追いかけてくれるのだろう、蜜柑と併走するように走っている。
 ワイルドブラッドである彼女はひょいひょいと軽やかに走って行く。
 むろん蜜柑も運動神経が悪いというわけではないので、それに劣ることはないし、どんどん狭い道に入っていくウサギを追いかけるのにはそれなりに適した小柄な体躯をしているのだけれど、それにしてもこの近所にこんな場所はあっただろうかと不思議に思うくらい周囲はうっそうと木々が生い茂っている。夜道をひとりで歩いたりしたら絶対危ない、そう言いきれるほどに薄暗い森。
 そしてもう一つ奇妙なのは、そのウサギがチョッキをまとい、二本足で歩いている、いや走っていることだった。
 まるで子どもの頃に読んだおとぎ話のように――。
 とはいえ今は英雄や愚神と言った存在も当たり前に存在しているこのご時世だ。しかしながら、何らかの敵意を持って自分たちに接してきたらどうしよう、なんていう不安のようなものは、全くというほど感じない。不思議なことに。
 
 ――と。
「……ねえ蜜柑ちゃん、その格好はどうしたんですの?」
 ウェンディに問われ、ぱっと自分の服装を見下ろす。そこにいたのは水色と白のエプロンドレス姿をした蜜柑だった。そう言うウェンディの方も、そっくりな服を身にまとっている。
「ねえおねーさま、この姿でウサギを追いかけているなんて、本当におとぎ話の世界に紛れ込んだみたいね!」
 蜜柑はそう言ってふふっと笑う。不思議と安心感のようなものを、この世界から感じ取るのだ。
 たとえて言えば、そう、いつも側にいる英雄の気配を感じ取っているような、そんな安心感。
 この気配は――
(幻想蝶……?)
 声にこそ出さなかったが、蜜柑はそう感じ取る。
(こんな時、彼がいれば……)
 この場にいない第二英雄を思い出しながら、蜜柑は歩く。ファンタジックな雰囲気を持つエルフの姿をした蜜柑の第二英雄は、きっとこういうときは蜜柑を積極的に守ってくれるのだろうな、なんて思いながら。
 すると、どこからかふわりと心地のよい香りが漂ってきた。
 淹れたての紅茶の香り。
 蜜柑とウェンディは、しばしばともに茶を飲んでいる。ウェンディの大学にときおり蜜柑が赴き、『お姉様』と慕っている女性と三人、ささやかなお茶会を開いているのだ。今回はその『お姉様』こそいないが、不思議な安心感に包まれているので、不安を感じると言うことはこれっぽちもなかった。
「ねえ、あそこ。人がいるみたいですわ」
 ウェンディが小さな声でそう言い、そっとそちらに目を移す。蜜柑も言われて目をやると、穏やかなお嬢様らしき人がウサギの頭をなでながら、茶を飲んでいた。ふたりは思わず茂みに隠れてしまう。
 つややかな赤茶の毛は背中を覆うほどで、身長も遠目でわかる程度にすらりとした、優雅な雰囲気の人。やんごとない雰囲気というか、不思議な魅力を持っているようで、目をなかなか離すことが出来ない。
(彼女は、かなり高位の存在……に見えますわね)
 ウェンディはその雰囲気にやや気圧され気味だ。
「あの人、まるでお姫さまね。すてき……!」
 蜜柑のほうは興味津々といった風に、頬を紅潮させている。
 と、二人の存在に気づいたのだろう。
「……あら。誰か来たようですね」
 彼女はそう言いながら、そっと蜜柑とウェンディに目をやり、微笑んで見せた。蜜柑とウェンディは一瞬どきりと胸を高鳴らせるが、この女性は悪い人ではないと直感的に感じ、そっと近づいて精一杯の挨拶をした。
「初めまして、かわいらしいお嬢さんがた」
 女性はそういうとそっと二人の手を取った。隙のない立ち居振る舞いのきれいなその女性は、二人の闖入者に驚いてはいるようだが、それも一瞬のことだ。
「私の名前はブリタニア。あなた方はどうしてこの幻想蝶の中へ?」
「……幻想蝶?!」
 驚くのは二人の方だ。これでは本当におとぎ話ではないか。
 言われて周囲を見渡せば、ピクシーと呼ばれる小妖精が彼女たちの周りで興味深そうに飛び回り、空を舞うのは大きなドラゴン。そしてイギリス風建築やバラ園、更に遙か遠くには立派な城がかすんで見えた。
 なるほど、ここは確かにイギリス風のファンタジックな異世界であり、現実ではありえない光景――つまりブリタニアと名乗る女性の言うとおり、幻想蝶の中と言うことで間違いはなかろう。
「あ、あたしは夢洲 蜜柑っていうの、よろしくね、ブリタニア」
「わたくしはウェンディ・フローレンスですわ」
 二人も慌てて自己紹介を済ませると、照れくさそうに微笑む。
「ちょうどお茶をしていたんですけれど、よかったらご一緒にいかがですか?」
 そんなブリタニアの提案は何とも甘美で優美で。
 二人は二つ返事で了解した。
 
「でも、ここは本当におとぎ話の中の世界みたいですわね」
 おとぎ話に出てきそうな女騎士と契約しているウェンディも、なんだか嬉しそうだ。きっと彼女も喜ぶに違いない、なんて思いながらテーブルに並んだティカップを眺める。湯気を立てた琥珀色の飲み物は、確かにおいしかった。『神がかっている』と言ってもいいだろう。
 もっとも、彼女たちにとって一番は、いつものお茶会でいただくものの方なのだが。
「そうね、外から来た人はそう感じるでしょう。あなたたちの服装も、とても似合っていますよ。そういえば、どうしてこちらに来たのでしょうか? なにか理由があってのことと思いますが」
「! そう、実は……」
 ブリタニアの問いに、食べかけのスコーンもそこそこに慌てて説明をする蜜柑。
 ウサギにスマートフォンを奪われたこと、それを追いかけているうちに迷い込んでしまったらしいこと……
 ブリタニアは白魚のような指を口元に軽く当て、そして近くにたたずんでいたチョッキ姿のウサギを呼び出す。ウサギのチョッキのポケットには、確かに蜜柑のスマートフォンが入っていた。
「そう、これ!」
 蜜柑は嬉しそうにそう叫び、そして受け取るとスマートフォンを大切そうに胸に押し当てた。
「ふふ、よかった。これは蜜柑の大事なもののようですね。普段、ウサギは意味のないいたずらはしないものなのですが……」
 そう言いながら、幻想蝶の女主人はタン、と手をたたく。
 ウェンディも礼を言い、お茶会の席は更に和やかになった。
 
 それからしばらくして、二人はこのお茶会から去ることにした。
 名残は尽きないが、なにぶんここは幻想蝶の中。このままとどまっているわけにも行かない。
「外の世界からのお客人なんて、本当に珍しくてつい引き留めてしまいましたけど、きっとまたどこかで逢えると思いますよ」
 ブリタニアは優しく微笑む。
「そうね、袖ふれあうも多生の縁、だっけ? そんなことわざもあるもの、きっと逢えるよね」
 蜜柑も確信があるわけではないが、そう自信ありげに言う。ウェンディもまたその言葉に頷き、いただいた茶の礼を丁寧に返す。これはお土産に、とブリタニアはきれいな角砂糖をウェンディにわたしてくれた。
 それからブリタニアは小さな円を花々で描き、そこに二人を立たせた。
 それはまるでおとぎ話のフェアリーサークル。
「ここは幻想蝶の中だから、こう言う芸当も出来るのよ」
 ブリタニアがいいながらぽつぽつと何事かを唱える。ぽうっと花が光を放ち、やがて少女たちは目を開けていられなくなる。
 そして――
 
 ようやく目を開けたら、いつものショッピングモールの、いつものカフェだった。
「え?」
 蜜柑は思わずへんな声を上げた。服もいつもと変わらないものになっている。
「おねーさま、さっきのは夢だったのかな?」
 するとウェンディは、
「……夢ではないみたいですわよ」
 そう言ってみせる。彼女の手の中には、ブリタニアと名乗った女性が渡してくれたバラのような角砂糖が確かにあって。
「ふふ、なんだかすごく不思議な体験でしたわね」
 少女たちはそう言って微笑み合い、いつかの再会を願うのであった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0921/夢洲 蜜柑/女性/14歳/女子中学生】
【aa5176hero001/ブリタニア/女性/25歳/バトルメディック】
【aa4019/ウェンディ・フローレンス/女性/20歳/女子大学生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お届けが遅くなりました。
少女たちの夢のような体験、描かせてもらって幸いです。
もっとロマンティックな話の方がよかったのかもしれませんが、こんな感じでもよろしかったでしょうか?
楽しんでもらえたなら幸いです。
では今回はご発注ありがとうございました。
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2018年11月30日

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