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『Sacra famiglia 』
麻生 遊夜aa0452)&ユフォアリーヤaa0452hero001

 凝った肩を揉みほぐしながら、デスクに向かっていた遊夜は椅子で大きく伸びをした。
「11月も終わりか…。一年世話になったこのカレンダーともお別れだな」
 あれこれ書き込んである卓上カレンダーの、次を捲ったら12月。残すところ最後の一枚だ。
 ちょうど熱いコーヒーを持ってきてくれたユフォアリーヤに、ありがとうのキスをする。
「んーうまい。ほっとするよ」
 そうコーヒーの感想を告げると、尻尾を振って嬉しげに頬擦りをしてくる。ふっくらとあたたかな獣耳を撫でながら彼女の肩を抱きよせた。
「一年あっという間だったよなあ。もちろん、今年一番の出来事は双子が生まれたことだが。リーヤはどう?」
「うん。うーん……」
 香り良いコーヒーの苦味を味わって、ほっと息をつきながら、いろいろあった今年一年を思い返していると、カレンダーを見つめていたユフォアリーヤがはっとした顔になって遊夜のほうを振りかえった。
「ユーヤ、大変! 大変だぞ…!」
 感慨にふけりつつのんびり寛いでいたところをいきなり耳元で叫ばれて、コーヒーを噴き出しかけた。
「な、なんだ、どうした」
「大変なこと忘れてた! クリスマスの準備、しなきゃ…!」
 孤児院で過ごす28人の子どもたちにとって、季節ごとの催しは何よりの楽しみだ。毎年であれば抜かりなく支度を終えている頃合いなのだが、今年は何かと立て込んでいたからか、ハロウィンが終わった途端に気が抜けてついうっかりとしていた。
「そういやそうだった!」
 思わずカレンダーを二度見して、クリスマス当日までに残された日数を数える。
「あとひと月ないってことは…」
 やらねばならないことは多い。
「まず、院内の飾り付けだろう」
 秘書さながらにユフォアリーヤが遊夜の言葉を手帳に書き留めはじめる。
「院の玄関に、クリスマスリース」
「クリスマスツリーも飾るよな? ボク…中庭に大きなツリーが立ってるの…見たい」
「ああ、じゃあ今年は中庭に大きな樅ノ木を運び入れるか」
「うん。それと。んー…夜になったらキラキラ光るのがいい…」
「わかった。随分長いのを用意することになりそうだが、LEDの電飾も用意しよう。そうだ、アドベントカレンダーじゃないが、子どもたちに毎日ひとつずつツリーに飾りをつけていってもらうのはどうだろう。ツリーの高い部分は俺たちで飾り付けをしてさ。低い枝のあたりだけ」
 子どもたちがめいめいに握り締めた飾りを背伸びしながらツリーの枝葉につける。そんな情景を想像したのか、ユフォアリーヤは大きな瞳をくるりとさせたあと、満面の笑みで大きく頷いた。
「うん、それがいい…!」
「ん、よし、ツリーに関しちゃこれできまりだな」
 それから、と考える。
「院の窓に貼るジェルステッカーもいるだろう」
 サンタやトナカイやベルの形をした、ジェル状のシールだ。部屋や廊下の窓、鏡にも貼る。
「廊下を飾り付けるリボンと、雪の結晶とか星とかを作る画用紙と折り紙…あとは、サンタの長靴をボクが編むよ」
「リーヤ、がんばるなぁ…」
「あとは、当日の分。ボクが作る料理のぶんと、キャンドルと」
「最後は、子どもたちへのプレゼントだな」
 28人の子どもたちプラス双子たちのひとりひとりに、クリスマスの贈り物を選びたい。日々の仕事に追われつつとはいえ、じっくりと時間をかけて選びたいところだ。
「年に一度の大事なお祝いだからな! 予算は気にしなくていいぞ!」
 普段であれば予算と収支のやりくりにもっとも頭を使うところだが、クリスマスだけは。
 クリスマスは、子どもたちにとっては季節の行事の中でも最も大切で意味深い行事だと遊夜は思っている。キリストやサンタを信じる信じないに関わらず、だ。28人の子どもたち、それから今年生まれた双子たちに、この日の大気に充ちる心楽しさ軽やかさ、澄みきった清らかさから、子ども心にも「目には見えない何かから祝福されて今自分たちは生きているのだ」ということをめいっぱい感じてもらいたい。だから。
「…ボクが作るごちそうも奮発するぞ。…まず、シチュー。でもホワイトシチューが好きじゃない子もいるから、ビーフシチューも作って…。ハンバーグと」
「俺、鶏のから揚げみたいのも食いたい」
「…わかった。フライドチキンと。それからベイクドポテト、ついでにスイートポテトも作ろう。グラタン、ピラフ、オムライス、サンドイッチ。ピザも焼こうか」
「ケーキは?」
「ケーキは…生クリームと苺のデコレーションの大きなホール…でも生クリームが苦手な子もいるから、チョコレートケーキとフルーツタルトも作って…。甘いのが好きじゃない子用にはクラッカーにチーズを乗せたのと」
「子どもたちが喜ぶよ。しかし朝から厨房がフル稼働になるな」
「…何を言っているんだ。朝からじゃ間に合わない。前日から徹夜にきまってるじゃないか」
「そうかそうか、すまなかった。よし、リーヤに任せたよ。俺はひとっ走り買い物に行ってくる」

 ユフォアリーヤが紙に書きだした買い物リストをずらり並べて計算機を叩いていると、大荷物にふうふう言いながら遊夜が帰ってきた。
「院の裏に樅ノ木を用意しといたよ。子どもたちが寝たら準備を始めようか」
 深夜、子どもたちが寝静まった頃。
 起きだした遊夜とユフォアリーヤは、荷物を片手にそっと部屋を出た。
 足音を立てないように歩いて、トイレに起きた子と廊下ではちあわせないことを祈りながら、抜き足、差し足、忍び足。飾り付け作業をする談話室に滑り込んで、急いで扉を閉めた。
「ふぅ……」
「…なんとか、みんなを起こさずに済んだ、かな」
「朝までこの調子だといいんだが。さて始めようか。まずは部屋の飾りつけだな」
 それからが戦場だった。
 梱包から出して、部屋ごとの配分を決めて、並べて、鋏とテープとマーカーとを交互にふるい、切ったり貼ったり塗ったりそっと飾り付けにいったりと目まぐるしく、リミットは朝という時計との戦いが数時間。そろそろ腰にキたという頃に最後の関門、中庭での樅ノ木の飾りつけが待っていた。寒風の中、腰を叩いて呻きながら遊夜が梯子の上から見下ろす。
「ふー、キッツイな。リーヤ、これでどうだろう? リボンと雪のバランス、変かな」
「んー…。もう少し、右…かな」
「よっと。こんな感じでいい?」
「ん、それでいい。…なあ、ユーヤ。思いついたんだ…『きよしこの夜』、歌わないか」
「ん? みんなで歌う?」
「うん。ボクとユーヤと、子どもたちと。みんなで。クリスマスの日に、このツリーの前で」
「名案だが、…なんだか恥ずかしいな。俺、練習しなきゃ」

 夜の間に飾り付けを何とか済ませられた、翌朝。
 孤児院では早朝から、院の様変わりぶりに気付いた子どもたちで大騒ぎになった。
 一番早起きな子が、まず部屋の扉に貼りつけてあったサンタのジェルシールを見つけた。
 部屋のドアを次々に叩いては叫んでふれまわり、寝惚けまなこをしたほかの子どもたちも目を擦りながら起きだしてきた。
 そして、窓から見える一晩で現れた大きなツリーに気づいた子たちが目を丸くして叫んだ。
「クリスマスツリーだー!!」
「でっかーい!」
「おかーさんすごいよー!」
 大きな子どもたちがわぁわぁいいながら駆け寄ってきた。
 ほとんど眠っていない遊夜とユフォアリーヤに次から次と体当たりしてくる。
「いつの間にこんなのつくったのー!? おとうさんとつくったのー!?」
 年長のおしゃまな女の子が、小さな子たちを後ろから抱きかかえるようにして、遊夜とユフォアリーヤを交互に見比べて言う。遊夜は笑った。
「サンタさんがひと足先に様子を見に来てくれたんだよ。『みんないい子にしてるかい?』ってな」
「…ひゃっ! 押しちゃだめだぞ。ほら、前の子の靴下踏んでる」
 クリスマスはやがて来ることを考えるだけでも楽しいのだ。
 孤児院は一日中ずっと大騒ぎだった。子どもたちは早速ジェルシールを突っつくやらモールやリースを引っ張るやら、まったく落ち着く気配がない。
 そんな光景を眺めながら遊夜は笑う。
「夜を徹して準備した甲斐があったなぁ」
「クリスマスが来る前にボロボロになっちゃうぞ」
「そうしたら、また作りなおせばいいさ」

 夕方、暮れるのが早い日が落ちた頃。遊夜が呼ばわった。
「さあ、子どもたち、みんな中庭に出るんだ。サンタさんがくれたクリスマスツリーに、灯りをともそう」
 孤児院の中庭には、玄関から走り出してきた28人の子どもたちが順々に列をつくり、その傍らにユフォアリーヤは双子を抱いて立った。
「おとーさんの声にあわせて、カウントダウン、だぞ」
 はーい、と子どもたちが万歳する。
 樅ノ木の前に院長が立つ。
「さあいくぞー!」
 子どもたちとユフォアリーヤ、みんなが声を合わせてカウントダウンをはじめる。
「じゅう! きゅう! はち! …」
 月光を背にして中庭に大きな影を落としている樅ノ木が黒々とした枝を広げ、その向こうには、窓という窓にあたたかな灯りを宿して建っている木造の二階建てがある。
「さん! にぃ! いち! ゼロー!!」
「点灯だー!」」
 飾り付けられた電飾の電球が、一斉に明滅しはじめた。
「おおーすげー!」
 院の一階天井はゆうにこえる背丈のツリーの全体が輝いている。
 雪のかわりの白綿にくるまれた電球が、淡いピンクやブルーに幻想的に光る。金銀のリボンや星飾りに反射した光がチラチラと瞬いている。
「クリスマスがくるんだー!」
 きゃあきゃあ騒いでいる子どもたちの中で、遊夜はユフォアリーヤを背中から抱き締めた。
「…クリスマスが…、…来るんだな…」
「うん、来るんだ。俺たちみんなに、な」
 クリスマスがやって来るまで、眼に映るこのクリスマスツリーの灯りを楽しもう。みんなで楽しもう。そして、みんなで歌いたい。みんなで歌う『きよしこの夜』を今年生まれた双子たちにも聴かせたい。一緒に祝いたい。
 今年新しくふたりの家族が増えたこの『家』で、あたたかく幸せな聖夜を、みんなで迎えることができますように。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0452    /麻生 遊夜 /男性/34/おとーさん】
【aa0452hero001/ユフォアリーヤ/女性/18/おかーさん】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、工藤彼方と申します。
このたびの発注、たいへんありがとうございました。
28人+双子の赤ちゃんとなると、
おふたりで切り盛りするとなると支度も大変そうだとしみじみ思った次第ですが、
そのかわり、ふつうの家ではできないさぞかし賑やかなクリスマスになるのでしょう。
そんな光景を思い描きながら書かせて頂きました。
あらためてまして、ありがとうございました。

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2018年11月30日

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