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『そしてまた一人囚われる 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 コレクターとの噂がある魔法使いの少女の館には、その噂に違わず数々のコレクションが並んでいる。中でも異彩を放っているのは、人の姿を象った二つのオブジェだ。
 それは理知的で美しい女性と、奔放で愛らしい少女の像。どちらの表情も苦悶に塗り潰されており、細部まで作られた精巧さや魔力を感じる金属の質感までも揃いで、まるで姉妹のようにも見える。
 否、作られたという言葉には誤りがあるだろう。何せ、この像は実際に少女を固めて出来たものなのだから。
「ふふふっ、何度見ても飽きないわね」
 無邪気に笑った魔法使いは、オブジェ……シリューナ・リュクテイアと、その弟子のファルス・ティレイラの温度を失った肌に無遠慮に触れる。
 初めて二人に会った時から、少女はまるで恋でもしているかのように彼女達の事ばかり考えていた。どうにかして彼女達をコレクションに加える事が出来ないだろうか、と。そして、その願望はついに先日現実のものとなったのだ。
 少女はシリューナ達を罠にはめ、魔法金属で覆う事に成功したのである。その金属は、さながら薄い膜の形の檻だ。閉じ込められた当人達に逃れる術はない上に、保護の力がこめられた金属は全ての攻撃を防ぐため外部からの助けも見込めない。
 シリューナとティレイラの全身を包み込む金属を砕く方法を知る者は、世界でただ一人、この少女しかいないのだ。魔法使いの少女は、自らの計画が上手く行った事実を噛みしめるようにその邪悪な笑みを深めた。
 当初の予想以上に美しい仕上がりとなった二人に、少女の興奮は冷める事がない。彼女にとって、シリューナ達と触れ合う時間が何よりもの至福の時間となるのは当然の事であった。
 美しい師匠と愛らしい弟子……。どちらの像だけでも魅力的だが、二人が揃うとと更に味わいが増すというものだ。
 今日もまた、コレクションを飾る部屋の最も目立つところへと飾られた二人の像へと、彼女は愛を囁く。
 常に落ち着いた佇まいで感情を見せぬシリューナが魔法から逃れようともがき苦しむ表情だなんて、見た事がある者は恐らくこの世に数える程もいないだろう。珍しい表情を浮かべるシリューナの姿を、じっくりと堪能出来る事が楽しくてつい少女は笑声をあげてしまった。
「一級品のレアものよね」
 宝物だと独りごちつつもシリューナ達に触れるその手に遠慮はなく、少女は好き放題に彼女達の身体を撫で回すのだった。

 ◆

「そうだ、良い事を思いついたわ!」
 何もしなくとも飽きる事など到底なさそうだったが、更に楽しめそうなアイデアを思いついてしまっては話が別だと少女は思う。早速とばかりに、彼女は楽しさを堪えきれぬ意地の悪い笑みを浮かべながらも何かを口ずさみ始めた。
 それは、一節の呪文だ。彼女の声が魔力になり、ティレイラの身体を爪先から徐々に覆い尽くしていく。さながら彼女が固められた時の光景を逆再生しているかのように、魔力に浸された箇所から金属が姿を消していった。
「え? か、身体が動く……!? 私、助かったの?」
 魔法金属が周囲の空気に溶けやがて元の盾へと戻っていった頃、部屋に響いたのは愛らしい声。魔法使いではなく、ティレイラの声だ。
 先程までぴくりとも動かせなかった身体を恐る恐る動かしている少女は、呪いじみた魔法の守護から解き放たれていた。魔法使いの少女は、何を思ったのかティレイラを像から元の姿に戻したのだ。
「ちょっとあなた! どういうつもり!?」
 困惑していたティレイラは、魔法使いの少女と視線が合うとハッと気付き、その憤りをあらわにする。普段は楽しげに輝く瞳をキッと吊り上げ、柔からな頬をぷくりと膨らませた。
 しかし、ティレイラに怒りをぶつけられても、魔法使いの少女は未だ余裕のある笑みを浮かべていた。その違和感に少したじろいだティレイラの瞳が、ふとあるものを捉え驚愕に見開かれる。
「う、嘘……師匠も、負けちゃったの……?」
 姉のように慕い、尊敬していたシリューナもまた自分と同じようにオブジェにされていた事実に、ティレイラは呆然と呟く。
「素敵でしょう? 私の自慢のコレクションは」
 場違いな程に無邪気に、魔法使いの少女は囁いた。その言葉が、愕然と立ちすくんでいたティレイラを正気へと引き戻す。
「こ、コレクションって、人をなんだと思ってるの!? 早く師匠を元に戻してよっ!」
「えぇ? 戻していいの? こんなに綺麗なのに?」
 綺麗。その二文字にティレイラは思わず頷きかけ、慌てて頭を振った。
「戻しても良いけど、その前にもう少しだけ遊んでもいい? ねぇ、あなたも、せっかくだし一緒に楽しみましょうよ」
 その問いかけは、ティレイラにとってひどく甘美なものに聞こえた。
 オブジェと化した物言わぬシリューナの姿はどこか神秘的な美しさがあり、ティレイラはつい見惚れそうになってしまっていたのだ。
(わ、私の事も元に戻してくれたし、師匠の事もその内戻してくれるよね? なら、今だけ、少し楽しんじゃうのも、ありなのかも……)
「ほら、こんなに手触りも良いんだよ。少し触ってみる?」
 ティレイラが迷い始めたのを察した魔法使いは、更に追い立てるように彼女を誘惑する。その声が心底楽しげなものだから、ますますティレイラはシリューナのオブジェの感触が気になって仕方なくなってしまうのだった。
「……じゃ、じゃあ、少しだけ」
 甘言に惑わされる弟子を叱る事すら叶わぬシリューナに、ティレイラはそっと手を伸ばす。
 その姿形の美しさは、慣れ親しんだ普段の師匠と変わらない。なのに、こうやって動かぬ彼女の姿を見るのはどこか新鮮で……。指先から伝わる体温のないひんやりとした無機物の感触も、ひどく心地が良い。
 魔法使いはティレイラに、「こっちも触ってみてよ」や「ここから見た角度が凄く綺麗なんだよ」などと囁き、たびたび惑わす。言われるままに次々触れている内に、気付けばティレイラは魔法使いに何も言われずともシリューナへと夢中で触れるようになってしまっていた。
 魅了という呪いに勝てる者がいるだろうか。魔法金属からは解放されたティレイラだが、それよりも逃れがたいものへと今度は囚われてしまったのだ。
「綺麗……。師匠の事よく知ってるつもりだったけど、像になった師匠がこんなに素敵だなんて知らなかった……」
 ティレイラは、愛しそうにシリューナの身体へと身を寄せる。その瞳に映るのは、もはや動かぬシリューナ、ただ一人だけ。
「ねぇ、本当にシリューナを元の姿に戻しても良いの?」
 笑う魔法使いに、ティレイラもまた笑顔を返す。当然のように弟子の首が横に振られるのを見て、魔法使いはいっそう笑みを深めるのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3785/シリューナ・リュクテイア/女/212/魔法薬屋】
【3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございます。ライターのしまだです。
魔法金属に未だ自由を奪われたままのシリューナさん、そしてそんなシリューナさんに心を奪われるティレイラさんのお話、このような感じになりましたがいかがでしたでしょうか。
何か不備等ございましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
このたびはご発注本当にありがとうございました。またいつか機会がございましたら、よろしくお願いいたします!
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2018年12月03日

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