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『届け、彼方まで 』
狐中・小鳥ka5484

「わあ……」
 たどり着いた景色に、狐中・小鳥は思わず声を上げた。
 広がる野原。鮮やかに花が咲き乱れ、遠い地平には美しい形の山並みが霞んで見える。その、山を眺めるのが最大の見所なのだというこの景色は、壮麗、と呼ぶのが一番相応しいだろうか。たどり着くにはそれなりの労力も必要だったが、そんなことも吹き飛ぶような光景である。
「……東方にも、まだまだボクの知らない場所が沢山あるなあ……」
 しみじみと言って、小鳥はまずこの景色を堪能すべく腰を下ろす。水筒を取り出して、中身をカップに注いで。
 暖かな湯気を上げるそれを、山を見上げるようにして、ゆっくりと啜る。ほんのり、甘みと優しい香り。
 目に写る光景と共にそれをじっくりと味わうと、焼き付けるように目を閉じて。立ち上がる。目を閉じたまま、目の前にあった景色をイメージして。
「あ。あー……」
 軽く発声。暖められた喉が開くと、遮るものの無い野原に声が広がっていくのを感じる。
(うん。いい感じなんだよ。これなら……)
 ここまでやって来たのは、新たな歌のイメージを掴む為だった。美しい景色。その中で思い切り声を伸ばしていく。
 歌を重ねていく。まずはこれまで積み上げてきた自分自身を確かめるように、何度も歌ってきた、元気な曲を。それから、この鮮やかな景色の中膨らませたイメージから、少し大人な雰囲気の曲も試してみる。
 晴れやかな空の元。誰にも、何にも邪魔されず、一人で歌うのは気持ちが良かった。声が、何処までも遠くに響いていく。少し柄じゃないかな? なんて曲にも挑戦出来る。
(色んなことがあった、けど……)
 そうするうちに、様々な想いが過っていった。ハンターとして関わってきた色々な事件。戦い。
 辛いこともあった。悲しいこともあった。悔しい想いをすることもあって……でも、手応えを感じる出来事もあった。
(ボクは、歌が好き)
 人前で歌える機会もあった。
 最前列のお客さんとは触れあえるんじゃないかという位の、小さなステージに。
 リアルブルーの、あんな遠くまでお客さんが居るんだ、という、凄く大きな会場も体験した。
 どっちも凄く緊張して、凄く楽しくて、凄く嬉しかった。だから。
(この歌を、届けたい。この歌で、力になりたい)
 そのために、もっと、もっと。
 だから、こうして、何処かいい場所はないかと尋ねて歩いて、そしてここにたどり着いた。
 新しい景色で。新しい自分と向き合って。新しい歌を探す。
 順調に声が出るようになるのを感じると、両腰に差した剣をすらりと抜いた。くるりくるり、舞うように歌い、踊る。
(神様が居るみたいな、綺麗な山……──)
 見つめるその先にある山に、ふとそう思った。遠くに霞む姿なのにはっきりと浮かぶそれは、かなりの標高なのだろう。
 厳かな気持ちになり、しなやかに伸ばす腕が、剣先が、祈るようなそれに変わる。
 片手に持つ剣は蒼い宝石が輝き。
 片手に持つ剣は赤い炎を引く。
 双つの軌跡を交え。円を成し。駆け抜けて、飛び跳ねる。
 動きは激しさを増しながら、息は弾むのに、声はまだ、まだ、出せると、沸き上がってくる。
(まだまだ、行けるよ……!)
 いつもよりずっと声が出る。だけど、もっと出さなきゃ、そんな想いが止まらない。
 だって、まだまだ必要だから。
 ──あの山に届くまでは。

「……はー、すっごく歌っちゃったんだよ……」
 時も忘れるほどにそうやって過ごして。
 一息つこう、と大地にごろん、と横になったらとたんに汗がぶわりと湧き出て。どっと手足が重たくなる。
 気付かないほどに手足を動かし続けて。そしてとても大きく声が出ていた。喉は痛くない。ずっとお腹の底から、気持ちよく声が出せていた気がする。
 額を流れる汗を、風がさらりと乾かしていく。草の感触は柔らかで、疲れた身体を優しく受け止めてくれた。
(気持ち、いい……)
 気分を変えて思い切り歌えたら。そんな気持ちで訪れた、その手応えは期待していた以上にあった。充実感が、身体を包んでいる。
(だけどやっぱり、皆の前で歌う方が、もっと気持ちいい、かな……)
 そうして。小鳥は改めて、その事実を噛み締める。
 歌って踊ることが大好きで、その事で皆に元気をあげられたらって思ってた。
(……けど。ボクの方も、歌から、応援してくれる皆から、元気を貰ってたんだよね……)
 ああ。
 また、皆の前で歌えるようになるといいな。
 元気付ける、なんて気にしなくてもいい、ただ皆の前で、楽しく歌えて、楽しく聞いてもらえたら、もっといいな。
 そのために。
「アイドルとしてもハンターとしても、もっともーーっと、頑張るんだよーーー!」
 遠く、雄大にそびえるあの山に向かって、思い切り叫ぶ。
 ……届いただろうか。
 山はただ静かにそこにあるばかり。
 でも、良いのだ。胸に固めた決意を抱いて、彼女は野原を後にする。






━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5484/狐中・小鳥/女性/12/舞刀士(ソードダンサー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はおまかせノベルを発注いただきありがとうございます。
というわけで凪池式おまかせノベルルールに従い今回ランダムで選ばれた作業用BGMは──?

【富士見ヶ原 春】

でした!
ダンジョン曲ながら、雄大で美しい自然を思わせる静かにしてどこか厳かな曲です。
狐中さんといえばやはり自分の中で元気アイドルっ子のイメージで、それでこの曲と来て、
広大な自然の中で伸び伸びと歌う彼女のイメージが組み上がりました。
元気いっぱいの狐中さんですが、だからこそ偶に優しいしっとりした曲を歌うのも
ファンは驚きと共に喜びそうかな? なんて想像も試しにしてみたり。
改めまして、ご発注有難うございました。
おまかせノベル -
凪池 シリル クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年12月03日

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