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『愛しき、狂おしき日々よ 』
夢路 まよいka1328

「うわあ……こりゃ中々の状況だね」
 夢路 まよいはつい呟く。
 村の人たちが雑魔に連れ去られて行ったという依頼を受けて急行したハンターたち。目撃証言や森の中を通った跡、物音などを追跡して、そして発見した洞窟の先。
 近づく際に既に聞こえていた音に不審を覚えながらも踏み込んだその先に広がる光景は、経験豊富なハンターたちも一度は絶句させるようなものだった。
 笛に太鼓、鈴に琵琶。祭囃子のような音に合わせて、輪になって躍り狂っている──そう、人も雑魔も輪になって。
 雑魔の姿は餓鬼を思わせる腹の膨れた小鬼に、牛頭に馬頭。巨大どんぶりに手足が生えたとしか言いようがない愉快な姿もあった。
 冗談みたいな光景……だが、連れてこられた人は無理矢理踊らされているのだろう。苦しげな呼吸、顔は真っ赤で血管が切れそうにも見えた。このまま休む間もなく続けられたら、本気で命に関わりかねない。
 同行する仲間たちと、頷き合う。まず、敵味方入り乱れるこの状況から、人たちを救わなくてはならない。前衛の者たちが果敢に輪の中に分け入っていく。まよいは援護のために、人々が居ない輪の一角に向けて意識を集中した。
「果てなき夢路に迷え……ドリームメイズ!」
 雑魔たちが一瞬、呆けた表情になる。浮かび上がらせるは神秘的な迷路の幻影。その景色に迷いこんだ対象は、次第に認識から現実と幻想の境目を無くし……眠りに落ちていく。
 動ける敵が減ったのを好機に、仲間たちが未だ踊らされる人々を担ぎ上げ、敵から引き離す。
 だが、狂乱の宴、その音色はまだ続いていた。眠らせた敵も、意図してかせずにか、周り躍り続ける敵に蹴られてすぐ目を覚ます。仲間たちがそれに斬りかかっていく……が、決して修練が浅いわけでもなさそうな彼らが、踊る敵を相手に、やり辛そうに切っ先を狂わせる。
 翻弄するような、敵の不規則な動き。それから。
(この曲、やけにノリがよくてテンポも速いから、自分のリズムが狂わされる……)
 後衛から、まよいは冷静に仲間たちの置かれた状況を分析していた。
 一見してまだ年端もいかない少女といった外見のまよいだが、その実、ハンターとして踏んだ場数はかなり豊富だったりするのだ。
(単純にリズムとかの問題じゃないね。曲自体が力を持ってるんだ。多分、私たちが使うマーキス・ソングみたいな)
 複数の楽器が重ね合わさり奏でられる音楽。全体で一曲に聞こえるから騙されそうだが、複数で奏でている分効果も、抵抗に失敗したら無理矢理踊らされる、その一つではない。
(このまま聞き続けてたら、気付けば私も踊るアホウの仲間入り、だったかな)
 気の抜ける見た目に反して結構油断できない相手だ。そして、意識していても聞こえ続けるこの曲のリズムの速さに、感覚は狂わされる。
 耳を塞ぐのは流石に連携ミスが怖い──なら、どうするか。
 まよいは少し考え、そして決意する。
「……それならいっそ、こっちから踊るアホウになっちゃおっか」

 トン、トトン。
 爪先で軽くリズムを刻む。雑魔が奏でるその曲に合わせるように。
(あくまで自分のテンポを保とうとして狂わさせるなら、初めから向こうのリズムに合わせる!)
 合わせて歌うように。早口で詠唱を開始する。体術なら難しかったかも知れないけど、魔法なら。
 神楽舞を捧げるように、呪文を完成させる。
 魔法の矢が。
 笛を吹く餓鬼を。
 太鼓を叩く牛頭を。
 鈴を降る器物霊を。
 次々に撃ち抜いて、沈黙させていく。
 可能にするのは、歴戦による彼女の、魔法の習熟度の高さ──というよりも。
「こういう空気、嫌いじゃないよ。無理矢理じゃなくて、人に仇なす雑魔じゃなければね」
 少し、だけど本当に、残念そうに彼女は言った。
 ……少し前まで、彼女は閉じられた世界の安寧の中に居た。
 不意にそこから外に出て。彼女は、自由で、危険な世界へと放り出された。
 そこにいるだけで与えられた暖かい食事も、フカフカのベッドも失った。それでも。
 ──選ぶなら。今の不自由な自由を。
 だから。
(全力で、楽しんじゃうよ! この瞬間を、この世界を!)
 きっと、いつか選んだその選択の中で、そう決めていた。
 枷から解き放たれた柔軟な発想。それがもたらす直感に従って、彼女は道を選択する。
 今感じるものに真っ直ぐに、躊躇わない様は、何処か危うさも孕んでいるが……それでも、今このときは。彼女の性質は、この状況に有為に作用し、仲間を勝利に導いていく。
 踊る雑魔たちの輪は少しずつ、着実に数を減らしていっていた。すっかり寂しくなった祭の輪。残る雑魔は何処か憐れに躍り続ける。
「……ごめんね。バイバイ」
 どこか、祭を終わらせるもの悲しさを感じて、まよいは最後の敵を倒す。
 奇妙な敵。奇妙な戦い。それでも、これにて一仕事完了。仲間たちと労い合いながら……こうして彼女は、不安定でワクワクする毎日を今日も過ごしていく。







━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1328/夢路 まよい/女性/15/魔術師(マギステル)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はおまかせノベルを発注いただきありがとうございます。
というわけで凪池式おまかせノベルルールに従い今回ランダムで選ばれた作業用BGMは──?

【百鬼祭り 夏ノ宴】

でした!
お、おう……。見事な引きというか……多分、サントラ中、最もテンション高い曲ではないかと。
いやもう、かなり早いリズムで踊り狂えやチャカポコチャカポコ。祭囃子が楽しくなるそんな音楽です。だが戦闘曲。
なんかもう、ただ雰囲気そのままの状況に叩き込ませていただいたっていうそれだけなんですが、
少女にしてベテラン、純粋にしてどこか危うい夢路さんが、中々興味深い動きをしてくれたな、と。
こちらとしてはそんな感じなのですが、いかがでしたでしょうか。
改めまして、ご発注有難うございました。
おまかせノベル -
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ファナティックブラッド
2018年12月03日

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