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『灯籠アパートの310号室のアルラウネ 』
ka7179


 あなたは知っていますか?
 この世界は、光にも闇にも属さない“狭間”なのだそうです。

 天国でも地獄でもない世界……耳で聞いただけでは、少し怖いですよね。でも、大丈夫。
 ――え? ふふ、だって……毎日がとても楽しいんです。きっと、優しい縁に救われているからなのでしょうね。



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「ありがとうございました」

 私は店先でお客様の背中に頭を下げた後、ハートのチャームが付いた腕時計にちらりと視線を落として、足早に店内へ戻りました。
 今日はクリスマスイブ。ふふ、彼女さんに花束の贈り物をされる彼氏さんがたくさんいらっしゃるわね。やっぱり、営業時間を延ばしてよかったわ。

 街は南瓜やお化けの色合いから、何時の間にか星やリース、オーナメントで彩られた大きなもみの木などで表情を変えていました。

 私は生まれの所為で……いいえ、お陰、かしら。植物を育てるのが得意なんです。才能とは言えないけれど、この力を少しでも活かせれば……と思い、この『花瑠璃』――花屋さんを始めました。ふふ、大切なお友達の後押しもあったからなんですけど。
 四季折々の花を扱っていることが自慢、かしら……? 勿論、どの花も見頃を迎えていますよ。

 ――あら。

「いらっしゃいませ。ご自宅用ですか? それとも――」

 ふふ、贈り物ですね。

 お客様をお見送りする為に店先へ出ると、雪が降っていました。何時から降っていたのかしら……まるで、千切れた綿雲が空から落ちているかのような、柔らかい雪。

「ふふ、くすぐったい」

 頬や手に触れる感触に目を細めながら店内へ戻ると、壁掛けの時計が目に入りました。

「あ……こんな時間になっていたのね。パーティー、もう始まっているかしら」

 今夜は私が暮らしているアパートの大家さんのお部屋で、パーティーがあるんです。猫娘さんや吸血姫さん、他にもたくさんの方が集まっているんだろうな。ふふ、きっと賑やかな時間になるわね。私も招待状を頂いたので、お店を閉めたら急ぎましょう。

 然うして、私はまたお仕事に戻りました。



 通りは薄らと雪が積もり始めています。
 お客様の足も途絶え始めましたね。皆さん、素敵なイブが過ごせていればいいな。

 私が閉店の準備を進めていると――

「よかった、間に合ったかな?」

 ……ふふ。そう言いつつ、のんびりとした足取りで来店してきたのは、街の自警団に所属する七歩蛇さんでした。

「こんばんは。ああ、雪で濡れてしまいましたね。今、タオルを……」
「いや、いいよ。それより、花束をお願い出来るかい?」
「あ、はい。ご希望の花はありますか?」
「ん? んー」

 七歩蛇さんの翡翠色の瞳には色豊かな花々が映っていましたが、その視線は花の海を泳いでいました。

「贈り物ですか?」
「まあ、そうかな」
「でしたら、お相手様のお好きな花がいいかしら。ご存知ですか?」
「さあ、知らないんだ」
「そうですか……」
「だから、適当に君が選んでくれるかい?」
「え? でも……」
「君が好きな花でいいから。ラッピングペーパーの色も任せるよ」

 七歩蛇さんはそう言うと、視線をウィンドウ越しに向けてしまいました。

 私の好きな花……。
 本当にいいのかしら。無難に季節の花を選ぶことも出来る……けれど。でも、彼の希望が“私の好きな花”なら、私はそれに応えないと、よね。

 私は心が惹かれるまま花を手に取り、ノエルグリーンとアイボリーのラッピングペーパーを重ねて、丁寧に包みました。あ……そうだわ。

「リボンは何色にしますか?」

 私は目線を手許に落としていました。だから、この時の彼の表情は見ていないんです。唯――

「……アジュールブルー」

 何処か愛想の無い彼の囁きに私が顔を上げると、彼は既に店先へ出ていました。





 花束を受け取った彼は、「ありがとう」と、何時もの微笑みを私に返し、イブの夜へ帰って行きました。
 そう言えば、七歩蛇さんもパーティーに来るのかしら?

 私はお店の後片付けを済ませると、早足で大家さんの部屋に向かいました。

 七歩蛇さんの姿はありませんでした。
 大家さんの話によると、自警団に持ち込まれた案件を全て、お一人で請け合ったようなのです。










 夜も更けた頃、私は自室へ続く廊下を歩いていました。
 猫娘さんに釣られて、つい食べ過ぎてしまったかしら。ふふ、天邪鬼さんもお酒強かったな。……本当に、素敵な夜だったわね。また、大事な時間を重ねられたらいいな。……今度は、“皆さん”で。

「あら……?」

 私の部屋の前に、何かが置かれていました。

 優しい香りに、豊かな色。
 アジュールブルーのリボンで束ねられたそれは――



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka7179 / 灯 / 女性 / 外見年齢:23歳 / 花瑠璃のアルラウネ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの愁水です。
もしかしたら何処かにあるかもしれない世界の奇譚、お届け致します。

舞台は灯籠アパートのまま、世間は12月ということでハロウィンのシーズンから季節を移し、クリスマスシーズンの背景で書かせて頂きました。
灯様は普段から花に関するイメージが強かった為、即植物系のモンスターに決定。NPCの登場は少々迷ったのですが、彼に。
ラストは敢えて唐突に終わる形にしました。明かしていないことは幾つかありますが、解釈はお任せ致します。

少しでもお気に召して頂ければ幸いです。
此度はご依頼とご縁、誠にありがとうございました!
おまかせノベル -
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ファナティックブラッド
2018年12月03日

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