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『ニャタン連峰情報戦 』
ソーニャ・デグチャレフaa4829)&サーラ・アートネットaa4973)&美空aa4136)&ラストシルバーバタリオンaa4829hero002)&シルクハット伯爵aa4973hero001

 400キロの重さが押し詰まった体をソファへ埋め、ソーニャ・デグチャレフは口の端を吊り上げた。
 祖国奪回に先駆けた、カルハリニャタン共和国での陽動戦闘と強行偵察。その両面作戦によって知れた事実は、国土と国民とを踏みしだき、留まり続ける愚神の正体が建国の父カルハリであったことだ。
「つまりは取り戻しにきたわけだ。正統な王として、自らの領土を」
「では、頭を垂れて迎えますか? 王の帰還を」
 47の死霊がひとつの魂を成し、鋼の体へと宿ったソーニャの契約英雄、ラストシルバーバタリオンが減摩擦コーティングを施した首関節をかすかに傾げ、問う。
「言葉に王への敬意がないな。して、同志サーラはどうだ?」
 キリマンジャロコーヒーの鋭い酸味を舌先で転がして、ソーニャは後ろに控えるサーラ・アートネットへ声音を投げた。
「愚神に屈する膝は持ち合わせておりません。奴にくれてやるべきは国ならず、我が軍の“壮歌”が語るとおり、鋼であります」
 右に割れた古い丸レンズ、左に新しい角型レンズを備えた不格好な眼鏡の奥、サーラは碧眼を焔と燃やし、言い切った。
 父の遺した志は、今なお深淵の底で愚神に躙られている。
 ぜってぇ取り返す。そんで、ぜってぇそのでっかい口ん中に叩き込んでやんよ――カルハリ。
「問題は資金の捻出にあるわけだが……なにか手は考えているのかな?」
 サーラの決意を押し割り、皮肉を映す声音を差し込んだのは、彼の契約英雄たるシルクハット伯爵、通称“毒島さん”だ。
 サーラの統合軍入りを整えたのはこの伯爵だし、先の闘いにおいては欧州にある本物の金持ちから多額の軍資金を引っぱってもきた。風体と同じく、実に怪しい存在である。
「さすがに再びのクラウドファンディング、というわけにはいくまいな」
 コーヒーの苦みを含んだ息を吐くソーニャ。
 戦う側としては必要な敗北だったとはいえ、資金提供をしてくれた善意の第三者からすればあまりにカタルシスのない結末だ。好事家を含め、もう一度財布を開いてくれる者はそうそういないだろう。
「それでも手はあるのだが……説得材料が必要だね。物語ならぬ、勝利の確約がだ」
 顔の半ばまでをシルクハットで隠した伯爵の表情は、当然ながら窺えない。
 その物理的なポーカーフェイスへ視線を投げ、ソーニャは平らかに訊いた。
「100パーセントの確約でなければ無理かね?」
「70パーセントあれば、私の口先でどうにかしてみせよう」
「60パーセントまで積もう」
 ゆえに、後はどうにかしてもらおう。
 肩をすくめる伯爵からサーラへと視線を移し、ソーニャは杖を支えに立ち上がる。
「小官に40パーセント分の策がある。そこへ20パーセントを上乗せに行くぞ」
「お供いたします――いたしますが、どちらへ?」
 目をしばたたかせたサーラに薄笑みを返し、ソーニャは歩き出した。
「我々が語り聞かされてきたカルハリは建国までのものであり、その後を識らぬ。特に晩年、死へと至るころのカルハリをな。ならばそれを識る者に教えを乞おうではないか」


 果たしてソーニャの行き先は、カルハリニャタンの国土の端の端――愚神カルハリの支配及ばぬ山中にある山小屋だった。
「上官殿?」
「なんだ?」
「自分で言うのもなんですが、出だしはそこそこいい感じにシリアスだったものと記憶しているのであります」
「うむ、緊張感のあるやりとりではあったな」
「それがなぜ、このようなことに?」
「はい、それではにゃーたんさんとさーらんさんの準備オッケーということで、撮影のほう始めさせていただくでありますよ」
 プロ仕様のでっかいカメラを担いだ美空が、ちんまい体からいっぱいに手を伸ばしてごー、よん、さん、にー、指を折ってカウントからのキュー。
「それよりも、心の準備ができていないのでありますが……なんの準備でありますか!?」
 詰め寄るサーラへ、ソーニャは重々しく告げる。
「現状0パーセントの上乗せ分を30パーセントまで引き上げるための準備である」
「これがでありますか!?」
 ショッキングピンクの“慰問用制服600-N05”をまとうソーニャと、レモンイエローの“慰問用制服600-S03”をまとう自分を指して、サーラが絶叫した。
 ちなみにこちら、ノースリーブでヘソ出し、スカート丈はパンチラインならぬパンツラインぎりぎりというなかなかのシロモノだ。
 まあ、ぶっちゃけた話あざとくてかわいい。ここが世界の北でなく、険しい山中でもなく、冬でさえなければ。
「アイドルはいつお笑顔でありますよ。笑ってであります」
 そんなことを言う美空は半袖セーラー服姿。当然サーラにツッコまれたりしたわけだが。「美空はデザインド人間でありますのでー」、よくわからない返事をするばかりだった。
「説明なげぇわ! っと、上官殿! 説明を!」
「いやまあその、事前に伝えて怯懦させるよりもひとつ、現場で驚愕している間に話を進めてしまおうと」
「無礼を承知でお訊きいたします!」
 ソーニャの逸れていく目を追ってサーラは回り込み。
「上官殿を誰より敬愛し、時に愛のほうをはみ出させたりなんだりする自分を……無慈悲に騙されましたね?」
「戦術的判断である! 下士官に余計な情報を与えては支障が出るだろうあれこれと!」
 ちょっとわーわー騒いだ後、ブレイクして向かい合う。
「多くをお語りくださいとは申しませんが、せめてこの装備でなければならない理由だけはお教えください」
 ソーニャは遠い目を空へと泳がせ、低く返した。
「そういう趣味なのだ」
「はい?」
「カルハリを識る古老の趣味なのだ!」
「……はい?」


「これはこれは結構なものをいただきましたじゃ」
 ほくほくとうなずいた古老は、まさに古老然としたの超老人だった。
「古老のお眼鏡にかないますかどうか」
 ラストシルバーバタリオンが、古老へ渡した包みを指して言う。
「いやいや、黄金の国・日本が誇るHENTAIはすばらしいですじゃよ。ワシのなけなしの寿命も数分延びましたぞ」
 こんなところで独り暮らしのくせに、VR環境完備である。いったい誰がそろえたのか? まさか通販が届くのか? そもそもこのVRをなにに使っているものか? 謎だ。
「さて。こんな老いぼれに何用ですじゃ? AVのレビュー原稿の今月分は、もうメールでお送りしとるはずですじゃが」
 どうやら謎もなにもないようだった。
「ただのエロじじいでありますよ?」
「あらゆる事件と伝承をその頭脳へ収めた祖国一の語り部である。70過ぎたころからボケ……知識欲が暴走して、こうなってしまったのであるがな」
 それでエロ方面にどっぷりハマるって、ダメな中学生か。いや、受信だけでなく発信するまでになっているのだから、それはそれで一芸かもしれないが――
「ひゃっ」
「これが黄金の国が生み出した新たなる文化、男の娘ですじゃな」
 すくみ上がったサーラの尻をさわさわ、古老はうなずいて――
「ぐうぅ」
「眼帯、幼女、軍人。こちらの御仁は属性特盛りですじゃのぅ」
 今度はソーニャの尻をさわさわ、古老がうそぶいた。
「上官殿、まるで遠慮もためらいもなく触られてるのでありますがぁ!?」
「心を食いしばれ! 小官らにはもう、このエロじじいしかおらんのである!」
 ギギギ、それはそれは固い笑顔を振り向け、ソーニャが古老へ問う。
「古老。小官ら、カルハリの話をお聞かせいただきたいのであるが」
「ふおおあああああ!!」
 唐突に古老がわざとらしく痙攣し、げっほごっほ、猿芝居な空咳を見せて。
「ワシ、心臓弱っとりましてのぅ。すぐ止まりそうに……このままじゃあ衰弱死まっしぐらですじゃあ」
「今さっき元気に叫んでたじゃねーか」
 素の言葉でツッコむサーラだが、古老の耳毛バリアは越えられない。
 そして撮影係の美空が、メモ帳と称するスケッチブックになにやら記録していたラストシルバーバタリオンへセスチャーで指示。心得た人型戦車はスケッチブックに文字を書きつけ、こちらへ向けた。
【いいところまで巻きでいくのであります】
「そんなものは口で言えい! というか、こやつはいったいなんのためにいるのだ!?」
 対して美空は無表情でピースサインを決め。
「美空はイメージビデオ的なものの撮影係でありますよ。この映像は編集の後、ファンクラブで売りさばかれるのであります」
「聞いておらんぞ! いや、そんな邪な企みは聞かせるなぁ!」
 と、ツッコんだソーニャを押し退け、古老が口を挟んだ。
「ほう、おいくらですかのう」
「やっぱ元気じゃねーかエロじじい!」
 怒鳴るサーラへ、古老は人差し指を立ててちちち。
「やるのはいつですじゃ? 今ですじゃ!」
「どっかの先生かドロップアウトした若者かよ!」
「老い先短いゆえ、刹那の性を満喫するんですじゃよ」
「生の字ちがってんぞじじいいいいいいい!!」

「カルハリの、なにについて、知りたい、ですじゃ?」
 読点ひとつ分につきソーニャが自分のスカートをちらりとたくし上げ、次はサーラが自分のスカートをちらりとめくってみせる。
『おふたりでリズミカルにチラ見せしてくださったら、ワシの壊れかけのハートも鼓動を思い出すにちがいありませんじゃよ』
「うう、自分たち、超バカっぽいであります……」
 サーラの目から無念の涙がほろり。
 なにせこのスカート、チラと上げるだけでそこそこ以上にモロ見えだ。一応は立派な男子が、祖国のためと歯を食いしばってやるようなことじゃない。
「無理矢理感がたまらんですのう! そういうのは日本以外だとダメなこと多いですじゃよ。まったく、へらへら笑いながら見せられて盛り上がれるかってんですじゃ! すばらしきはHENTAIですじゃよ!」
 ちなみに、HENTAIは国際的に認識されたキーワードである。他にもこんなものまで!? という単語が普通に通じたりするので、興味があったら検索してみてねー。
「触られるよりはよかろう。とにかく18禁に届かせず、全年齢の域へ留まり続けるのである」
 戦っている相手が古老ならぬ倫理であるところがまたなんとも言えない感じだが、ソーニャはむっつり、チラチラし続ける。もちろん古老は『そういうのは』である。そして。
「カルハリとはどのような男であった?」
「若かりしころは名君、老いて後は暴君ですじゃな」
 古老曰く、建国後にその高い人格と能力をもって民を治めたカルハリが、50を過ぎたころ唐突に変わったのだという。
「その力は人を超え、数多の勇者が近づくことすらできずに屠られ、喰らわれたといいますじゃ。国を一度は逃れた第四王子が異国の神より黄金の軍勢を借り受け、お戻りにならねばどうなっておったことやら」
「黄金の軍勢? その神とはまさか、黄金か?」
「然り。黄金の女神と記されておりますじゃ」
 サーラがソーニャに物言いたげな目を向けた。
 聞かずとも知れるよ、同志サーラ。現代ばかりならず、カルハリニャタンの過去にはあの愚神が関わっているのだ。
「そうなると、カルハリの変容にもまた愚神が関わっていたということか」
「はい。あの石の愚神ではない、むしろ彼奴と敵対する別の愚神が、でありましょう。この国が近年までその形を保ち、亡命政府が石の愚神の支援を得ている現状からの推察でありますが」
 サーラが特別情報幕僚としての意見を添え、ソーニャの思索を支える。
「うむ。原因が彼の愚神ならば、国を守る意味も意義もありはせぬからな。そして超常の力を振るって人を喰らうとなれば、カルハリが邪英化したことはまずまちがいない。……道筋は見えたな」
 うなずき合うふたりを、「げぇっふぉがぁっふぁ!」、盛大な空咳が引き裂いた。
「ほっとかれたせいでええええ心臓がああああ止まりますじゃああああ! これはもう、アレをしてもらうしかないですじゃあああああ」
 古老ってばもう、それはそれは元気に転げ回るんだった。

「上官殿、この風船はいったい?」
「ハンデということらしいが……これはどうなのだ」
 お立ち台の上で互いに尻を突き出し、その間に風船を挟んだサーラとソーニャがぶつぶつ言葉を交わす。
 挟んだ風船を割らないように尻相撲。体重でソーニャに大きく劣るサーラのため、古老が考案したゲームである。
「いやいや、あからさまにじじい本人のお楽しみのために考案したやつでありますよね?」
「まったくもって同意であるが、それを言ったらおしまいであるぞ、同志サーラ」
 それだけならまあいいのだが、なぜかふたりの前方には大きなタライが置かれていて、55度の湯が張られていたり。
「55度はプロ仕様の熱湯でありますよ!?」
「同志はいったいどこからそんな情報を仕入れてくるのだ!」
 ともあれ、ぷぴー。ラストシルバーバタリオンが、砲口に詰め込んだ笛を吹いた。
「では失礼するであります!」
「うむ。しかしこれはなかなか、難しい」
 狭いお立ち台の上でもぞもぞもにゅむにゅ、尻を蠢かす男の娘と見た目幼女。
「桃勝て黄色勝て! 水兵さんはもっとこう、舐めるように頼みますじゃよお!」
 かぶりつきで見物に勤しむ古老とは逆側から、美空がアオリのアングルでふたりのパンツを撮影する。
「見せパンとはいえ、素材は綿100パーセントであります。横縞にしたのはアタリでありましたね」
「わかっとる! 水兵さんは浪漫ってのをわかっとりますじゃのう!」
 風船でよれた横縞パンツの陰影と風情に、カメラマンと古老はご満悦である。
「なんかこう、ロマンとか語られているのでありますがああああさぶいぼが!」
「肌を食いしばれ! 男の意地を見せるのだあ!」
 やけに必死なソーニャの声に、ぴんとくるサーラ。ジト目を振り向け陰々と、
「上官殿、それはあれでありますか? “熱湯昔話”を自分にせよと?」
 尻相撲に負けた者は熱湯タライへ落ち、その内で耐えた時間分、古老からカルハリの話を聞くことができる。なにが勝ちで負けなのかはさっぱりわからないが、とにかくそういうルールなんである。
「しょ、小官ではその、溺れてしまうやもしれんのである」
「いえいえ、貧弱にして貧相な自分ではとてもとても。共和国軍人の魂、上官殿に率先して見せていただくよりないものかと愚考いたしますが」
 いやいや同志がいえいえ上官殿が!
 その足元へ古老が「追加ですじゃ」、お徳用ローションをぶちまけて……あっさりバランスを崩したふたりは、絡まり合ったまま同じタライへ落下した。
「あぢゃぢゃぢゃぢゃ!! これ煮えて――55度どこ(ろ)じゃねぇ!!」
「お湯が冷めたら興も醒めますじゃ。差し湯しますじゃよー」
「やめ! ストーブで湯気噴いてる湯を差すのは――ローションがすべってぶべぼばぢい!!」
「4秒経過でーす」
「中尉! せめてカウントはサービスせよ!!」
「それはできんでありまーす。共和国軍人の誇りかなんかに賭けて?」
「おい戦車おいいっ! せめて言い切れよおおおお!!」
「いやー、我々これでも中尉なので? 伍長の命令には従えませんなぁ」

「……ちゅうこって、第四王子は女神の剣でカルハリの邪なる右眼から脳までを刺し貫いて倒したそうですじゃよ」
「話が短すぎる! せめて小官らが耐えた分は情報で埋めよ!」
 サーラとふたり、外から削ってきた凍雪で火傷を冷やすソーニャが激怒り。
「いやぁ、なんか右眼が邪眼だったくらいしか話ありませんのじゃ。あと、歯から邪なるものが生まれてくるもんで叩き折ったとかですかの?」
 唐突に生じた情報を受け、サーラが脚に雪をまぶす作業を中断、ソーニャを見た。
「あの“大口”の歯……」
 先の作戦終了後、国土を塞ぐ巨体持つ愚神へ与えられたコードネームが“大口”である。しかし、その体は実体ならず、口内に植えられた“歯”によって固定された32枚――今は30枚だが――のドロップゾーンの重なりであることが判明していた。
「彼奴が覚醒しつつある今、先と同じことを許してくれるとも思えぬ。ただ弾なりミサイルなりを撃ち込んだところで、重力にねじ曲げられて落とされよう」
 撃ち砕けぬならいっそ、多くを吐き出させて愚神へと変じさせるか? いや、ナンセンスだ。あの歯の一本一本がトリブヌス級愚神であるならば、30体を相手取るのにいったいどれほどの戦力が必要となる?
「カルハリには決死隊が突っ込んだらしいですじゃがのう」
 古老の言葉に、ソーニャは息をつく。
 実はすでに考え至ってはいた。ただ飛ぶばかりではなく、状況に応じて機動と軌道を変えて、ためらわず、逃げも打たずに歯を吹き飛ばす策――いや、存在を。
「ま、ここで即決する必要もあるまい。そのことについては本部で検討する。同志サーラ、先の交戦データを洗いなおし、彼奴の右眼についての見解を提出せよ」
「了解であります!」
「あああああああああワシの心臓があああああああ! まだとっておきのネタが残っとりますのじゃが、このままじゃと誰にも知らせられぬまま棺桶にいいいいいいいい」
 やっとシリアスに戻ったかと思いきや、めんどくさいのがめんどくさいことを言いだし、じたばた手足を振り回して転げ回った。

「せっかくですじゃし、日本軍の缶メシをお願いしますじゃ」
 すでに日本軍などというものはないんである。
 今の自衛隊のレーション、レトルトパウチだ。
 ソーニャとサーラはそれぞれ胸中でツッコみつつ、湯煎したモスグリーンの缶詰を開けていく。中身は炊き込みご飯とおかずの詰め合わせ。
「同志サーラ、ばっちこいである!」
「了解であります!」
 仰向けに寝転んだソーニャの体の上へ、缶メシどばー。慰問用制服が醤油やらなにやらで汚れまくる。
「なんともこう、イケナイ感じがたまらんですじゃあ!」
 完成した“にゃーたん盛り”にかぶりつこうとした古老を「ブレイクでありますよー」、ラストシルバーバタリオンが掴み止める。いわゆる“剥がし”の役どころだ。
 一方の美空は古老の背中におぶさり、カメラを回していた。にゃーたん盛りの有り様を食べる人目線で撮ろうというわけだ。
「あのカメラごとひとり担げるとか、マジで死にかけかよ……むしろ私に食わせろメシじゃなくて上官ど」
 それ以上言ったら舌を噛むぞ? ソーニャの切羽詰まった視線で口を塞がれたサーラに、古老がニヤリ。あ〜んと口を開けてみせた。
「くっ!」
 無念を腹の奥に据えたまま、サーラが箸でつまみあげた缶メシを古老の口へ。
「くっくっくっ。ちと遠くて食べづらいですのう。ワシのお膝に乗ってくだされ。なにせ老いぼれですじゃ。ぽろぽろしてしもうたら事ですじゃよ」
「うぐぐ!」
 古老は膝の上のサーラにあ〜んされ、にゃーたん盛りを味わう。
「まさににゃーたん味! にゃーたん盛り最高ですじゃあ!」
 古老が気持ち悪い声で気持ち悪いことをのたまった。
「……品質に問題がないか、自分も確認を」
「噛むぞ! 舌を噛んで果てるぞ! ――古老は小官の命あるうち、とっておきのネタを!」
「ん〜、早く言いたいですじゃのう。とっておきのネタを、早く言いたいですじゃあ」
 のらりくらりと言い募る古老がふと顔を上げ。
「服越しでは味がようわからんですじゃ。ここはひとつ、生肌の上に」
「確かに。ああ、準備している間にうっかり自分も味わってしまうやもしれませんが、それもまた不可抗力ということで」
「同志サーラは正気に戻れえええええ!!」
 果たして。
「カルハリは最期を迎える際、左足の小指を壁にぶつけたらしいですじゃよ?」
「やべぇ。超どうでもいい」
 口の端っこにご飯粒つけたサーラが殺意を燃やすが、たくしあげられたお腹を冷やしたソーニャは猛烈な腹痛に襲われていて、ツッコめなかったのだった。


「またいつでも来なされ。衣装も通販で用意しておきますでの」
「二度と来るか! っていうか、通販来んのか!?」
 古老に見送られ、サーラはぐったりしたソーニャを担いだラストシルバーバタリオン、カメラと謎のお土産を抱えた美空と共に山を下りる。
「使えるやもしれんな……最期の小指は」
 ソーニャのか細いつぶやきは、雪まじりの風にさらわれ、誰の耳に届くこともなくかき消えた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ソーニャ・デグチャレフ(aa4829) / 女性 / 13歳 / にゃーピンク】
【サーラ・アートネット(aa4973) / 女性 / 16歳 / さーイエロー】
【ラストシルバーバタリオン(aa4829hero002) / ? / 27歳 / 人非戦車】
【美空(aa4136) / 女性 / 10歳 / 水兵さんはカメラ屋さん】
【シルクハット伯爵(aa4973hero001) / ? / 22歳 / チラリズム★ダンディ】
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2018年12月03日

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