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『それはただ闇へと消え去り 』
ヴァージル・チェンバレンka1989

 ――ウェルギリウス、とその男は名乗った。そろそろ中年に差し掛かろうかという年齢の髭面をした男で、服の色に合わせている為に目立たないが、抜け目なく急所は防護している。一目見ただけで、油断のならない相手だと本能的に悟った。
 だというのに、この連中の見る目の無いことよ。奴はするすると組織の中に入り込み、その浅緑色の瞳で以て連中の実力を推し量ろうとしている。いや、値踏みをしているといったほうが正しいか。そして既に一定の結論は得ているようだった。内面では見下されているというのに気付きもせず、いい仲間が入ったと喜んでいる馬鹿共が。
「いや、中々上手くはいかんな」
 溜め息をついて男は手に持っていたトランプをテーブルの上へと散らばらせる。役無しか、ひでぇ手札だなと卓を囲んだ奴らが口々に言って笑っても、男の顔から笑みが消える事はなかった。笑いながらも残念そうなポーズをとって再戦を要求する。男の態度は新入りとは思えない不遜なものだったが、喜怒哀楽の喜と楽だけを見せるそのやり口に騙されて、どいつもこいつも額面通りに受け取りやしない。その上、普通なら揉め事を回避する為に噤んでいるような事でも言おうものなら、それを自分達を信頼している証だと思い込む始末。それがこいつの常套手段なんだと、微塵も疑わないのか。呆れのあまり指摘する気にもならなかった。
「あんたはやらないのか? 人数が増えても出来るだろう?」
 そう水を向けられたので短くいい、とだけ答えた。男は強引に誘ってくるでもなく、こちらへの興味を失ったようにまたトランプをかき集めてカードを切る。目を付けられている事は直ぐに分かった。他の連中は皆懐柔されてしまっただけに、注意が向くのは仕方がない。こいつがここに居続ける限り、ずっと身動きが取れないかもな。思うと気が滅入って盛り上がる隣のテーブルを一瞥し、席を立った。
 特別この街にこだわりがあるわけではない。いい加減に衛兵の監視の目も厳しくなる頃合いだ。名前を変えて他の街に行き、同じ行為を繰り返す。自分でもどうしてこんな生活を送っているのか、最早理由すらも定かではなく。それでも足を洗うという選択肢は存在しなかった。今更真っ当な道を歩める筈など無い。覚醒者であれば話はまた違っていたのかもしれないが。
 感情がわだかまる。危険だと判っていても衝動がわき起こる。扉を開ければ、生温い風が吹きつけた。

 ◆◇◆

 異様な静寂が辺りを包む。嗅ぎ慣れた悪臭が立ち込めていた。血――いや、死と表現するのが相応しい。非合法な手段で入手した刀身の無い剣をぶら下げて裏通りを進めば、突き当たりにそれ――ほんの十数分前まで人だっただろう肉塊が転がっているのがよく見えた。とりあえずは一人。今は見えない場所にまだあるのかもしれないが。
「おーい、いるんだろう?」
 まるで知人に遊びの誘いをかけるような気軽さでもって声をかける。特別に緊張するような状況でもない。奇襲を受けたとしても、上手く立ち回れる自信がある。もっとも、殺気が隠し切れていないので位置は丸わかりだが。相手もそれを理解しているのだろう、かすかに濡れた靴音を立てて、男が一人近付いてくる。
「ウェルギリウス……」
 声も表情もこちらとは真逆に少しも温度が無い。女からはよく軽薄と評される平常心で以て相手を見返す。剣の柄も握らないまま。
「俺の邪魔をしないのならそれでいい。人殺しでも何でも好きにしろ。だが――俺を殺りたいんだろう?」
 言い終わるや否やのタイミングで男がこちらに迫ってくる。そこでようやく柄に手をかけながら名は何というんだったかと、ふと、そんなことを考えた。男の右手に握られたそれなりの業物の刃を躱して、これ以上なく手に馴染む邪剣に己のマテリアルを込める。
 暗がりに赤い光が吹き上がり、本物の炎のように火の粉が飛ぶ。脇腹を貫かれた男は呆気なく地に伏せた。まだ呼吸はしている。だが、それが数十分後も保たれているかどうか。
 生憎と男の生死に興味は無かった。刀身が息を吹きかけるように消え失せ、それと同時に血の痕跡も隠滅。死なないかもしれないが、遺言を聞いてやる義理もない。
「――やれやれ。また次の街に……か」
 例え相手が罪もない人間を幾人も殺害した犯人であっても、私的な危害を加えて無罪放免になる法律など、何処にも存在しない。それ自体には別にどうという感想もないが、いい加減やりたいことをやりたいようにやるだけで逃亡しなければならない日々には飽き飽きしていた。
「ついに、正義の器とやらに入る時が来たようだ」
 歪虚が相手ならば惨い殺し方をしようがそれも正義だ。いや、そのテの趣味を持っているわけではないが。せっかく素質を得ているのだ、なってしまえば今より確実に生きやすくなる。
 少し思案し。考えた次の名を唇に滑らせる。
「ヴァージル・チェンバレン」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1989/ヴァージル・チェンバレン/男性/45/闘狩人(エンフォーサー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ハンターのことを『正義』の容れ物と表現するのなら、
相当危ない行為もやってそうとこういう話にしました。
イラストもとても渋くて格好いい感じなので、
それらしい雰囲気を目指してみたつもりです。
タイトルが格好悪いのはいつものことなのでご容赦を。
後、偽名はヴァージルのラテン語読み?を使ってます。
今回は本当にありがとうございました!
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2018年12月03日

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