▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『明日も同じ道を進むだけ 』
ミコト=S=レグルスka3953

 ――どうして分かってくれないんだろう。人に迷惑をかけることなんてしない。ただ、自分の思うままにやりたいだけ。それだけのことがどうしてこんなに難しいんだろう。
 そんな思いが胸の中に満ちていく。とても虚しくて哀しくて、いっそ全てを投げ出してしまおうよなんて囁きが脳裏をかすめた。自分ひとりが命を賭して戦い足掻いたところで、世界をいい方向に変えられるはずもなくて。結果的には他人に感謝されることは多いけれど、それを目的にずっと頑張ってきたわけじゃない。
 友人も誰もいない、広くて寒い部屋の隅でうずくまる。膝の上に腕を乗せて、その腕に強く額を押し付ける。喉の奥から深く重い溜め息をついても、心の中の澱が一緒に吐き出されることはなくて。倒れ込むようにして床に横たわる。
 ただ、このまま立ち止まりたくないと思った。自分の思うように生きられなくても、力の足りなさに悔しくて悔しくて眠れないような夜が訪れても。それで全てを投げ出してしまうならばもう生きる意味なんてない。死んでいるも同然だ。
 ゆっくりと目を閉じて呼吸をする。小さな息遣いが自分の内側と外側を行き来して、瞼の奥の、じわりとした熱の温度を感じる。まだ息が出来るのなら、痛みに怯えている時間なんてない。人生なんてこんなものと見切りをつけられるほどの経験もしていない。――だから。
 もう一度歩き出そう、と声にのせる。それはささやかだけど確かな意思表示だった。
 体を起こし、自分の足で立ち上がる。そして扉の前まで来ると意を決して開け放ち、仲間の元へと踏み出した。ちゃんと分かり合う為にはもっと沢山の言葉が必要だ。

 ふ、と溶けていた意識が自分という形になる。暗い部屋の中をランプがうっすらと照らしていて、ミコトはようやくここが自室なのを思い出した。布団をどけて上体を起こし、小さく声が漏れるくらい豪快に伸びをする。そうすれば頭がすっきりして、そのままベッドから抜け出した。
 物心がつく頃には既に見るようになっていた不思議な夢。それは月の満ち欠けのように一定の周期を刻んでいるわけではないけれど、ある時期は多く、別の時期は短くと若干の変化を加えながらも付かず離れずの距離でミコトの無意識へ現れる。
 異世界への転移という非現実的な出来事を体験した今もその夢は続いていて、大きな目標としてミコトの傍にあり続ける反面で、境遇が似通ったものになったからだろう、時々は夢と現実の境目が曖昧になってしまう。といっても夢の中や目覚めてから意識がはっきりするまでのほんの僅かな間だけなので、現実と混同してしまう事態にはなっていない。それに、確かに自他共に認める似た存在だけれど、もしも自分が同じ状況に置かれたら、と想像した時に取る行動は夢の人物と完全に一致するほうが珍しかった。ミコトはLH044の高校生で、現在はハンターとして頑張っているミコト=S=レグルス以外の何者でもないのだ。
「――こっちの星も綺麗だなぁ……」
 自分で用意したホットミルクを手に屋上に上がれば、深夜の空に星々が煌めいている。魔法というリアルブルーにはない能力が存在する反面、動力にマテリアルを使うという点以外は同じ機械技術――幼馴染も使う機導術の一種だ――のほうは国家間の格差も大きいが全体的に大きく遅れていて。そのうえ、街灯や水道などのインフラや対歪虚用の武具に偏っているため天文学もまだまだ発展途上だ。勿論探せば研究を行なっている施設もあるけれど、向こうでは安い部類のものなら高校生でも手が届く価格だった天体望遠鏡も、価格も入手手段も難度がかなり高い。ミコトも今はそちらよりも武具や道具優先だ。前に譲ってもらった炎の魔力を宿す大剣をとても気に入っている。
「むー、あれは獅子座? それとも小熊座かな?」
 空を指差して言って、首を傾げる。こちらにも星座という文化は存在しているものの、万国共通の物はないらしい。なら自分で勝手に作ってみようと思いついて、暇を見つけては夜空を見上げて考えているのだが、しっくりとくるものが全然なかった。簡略化された記号のようなものなので見る側のセンスがかなり問われる。そもそもどこまでを一括りにするのかが凄く悩ましい。ただ、向こうのものとは違うけれど、赤く光輝く星を自身の契約精霊と重ねて、少しだけ贔屓している。その星を中心に獅子座を見立てるならあれが尻尾だろうか。そんなことを考え始めると急に楽しくなってきて、自然と笑みが零れる。でも。
「――やっぱりみんなと一緒がいいよねっ」
 星空を見るのも笑うのも。友達と一緒のほうが何十倍も楽しい。今度休みが合った時にでも誰かを誘ってみようか。そしていつかは、みんなで空を見て星やそれ以外の話もして笑うような、そんな時間を持ちたい。そうしたらずっと繋がっていられる気がする。
 星を掴むように、空へと手を伸ばした。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【ka3953/ミコト=S=レグルス/女性/16/霊闘士(ベルセルク)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
せっかくなので最初に書かせていただいた話と関連を、
と思ったのですが、モブの人の主張が強くなるのはアレなので
クリムゾンウェストでも夢や星空を見ている話、という感じに。
武器だったり獅子の尾だったりの小ネタも入れられて満足です。
欲を言えばイラストが印象的なので覚醒も書きたかったですね。
大剣を振り回す女の子、カッコ可愛くてとても好きです。
今回は本当にありがとうございました!
おまかせノベル -
りや クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年12月03日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.