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『これもまたひとつの戦場 』
リリアン・レッドフォードaa1631hero001)&クレア・マクミランaa1631


 クレア・マクミラン(aa1631)とリリアン・レッドフォード(aa1631hero001)。衛生兵の能力者と軍医の英雄のコンビであり、数々の戦場に立ち、多くの負傷者を治療してきた。現在はH.O.P.E.と決別し、フリーランサーとして各地を転戦しているが、何処に身を置こうとも「万民に平等な救いの手を」という誓約と、命を救わんとする二人の在り方が変化する事はない。
 この話はそんな二人の、とある戦場での話である。ただし戦場とは言っても、怒号と弾丸が絶えず飛び交い、血と硝煙の香り漂う戦場の話、ではない。
 間食と酒についての仁義なき戦場の話である。
 

『…………ッッッ!』
 リリアンはその日、体重計に出た数字を見て顔を覆って天を仰いだ。超デリケートな問題なので詳細は明かさないが、天を仰ぐ事態であることは述べたって別にいいだろう。
 原因は秋である。誰が言ったか食欲の秋。栗、芋、りんご、柿、ぶどうなど、美味しいものがわんさかと店頭に並ぶ秋である。もっとも生のフルーツであれば、量さえ守ればかえって健康効果も期待出来るだろうが、それをスイーツに使った場合は話がまるっと変わってくる。モンブラン、スイートポテト、アップルパイにエトセトラ。もちろん洋菓子だけでなく和菓子もある。おでんや肉まん、ピザまんなどしょっぱい系も現れる。季節などまるで関係ないお菓子は常にナウオンセール。ちょっと寄り道のつもりでコンビニに入ったらそこはもう蟻地獄。ビニール袋を手に提げずにドアを潜ることは許されない。
 まあそんなこんなで、リリアンのお腹はちょっとぷよっとしたことになっていた。
 こういう事態になったことは一度や二度や三度ではない。一番印象に残っているのはアレだ。スリーサイズを暴露する従魔を倒すという依頼だ。なんで従魔がスリーサイズを暴露するのだとツッコミ所は満載だが、そういうことが実際にあったのだから仕方ない。現実は受け入れるしかない。
 そこでリリアンは「英雄91、64、92!」とスリーサイズを暴露され、クレアに「見事に太ったな」と言われた。的確なトドメの一撃だった。その後クレアに痩せるためのメニューを組んでもらったが、ぶっちゃけ続くものではなかった。そんなものが続けられるならそもそも太ったりなんてしない。クレアはそのあたりは超ストイック、根っからの軍人気質なので苦ではないかもしれないが、リリアンは同じ軍属でも軍医である。医療知識は他を圧倒するほど豊富に備えているのだが、戦闘技術はクレアに完全任せきり。いえすあいあむ頭脳労働。
 それに別にリリアンは病的な程デ(自主規制)ではない。そりゃあお腹はちょっとぷよっとしたことになってるが、デ(自主規制)ではない。ぽっちゃりぽっちゃり。いやこの程度でぽっちゃりとか言ったら真のぽっちゃりさんに失礼だ。大丈夫私は痩せてる痩せてる。
「ドクター、また太ったのか」
 リリアンが必死に築き上げた城壁は、クレアのデリカシーのない一撃によって砕かれた。『ど、どうして』と呟くリリアンに、クレアの容赦のない追い打ちがバズーカのごとく放たれる。
「顔が丸い」
『ッ!!!』
「だから間食はやめろとあれ程」
『だって……だって! コンビニってすごいのよクレアちゃん。今の時期は入ってすぐに肉まんとあんまんが!』
「入らなければいいだろう」
 ごもっともである。ごもっとも過ぎてぐうの音も出ない。これがギャグ漫画だったら唇の噛み締めすぎでリリアンの口から血が出てる。
「大体ドクターは健康管理がなっていない。間食をやめて運動する、たったそれだけのことではないか。生活習慣を整えることは健康を維持するための基本行動。ドクターがその程度のことを知らないはずがないと思うが」
 これまたごもっとも過ぎてぐうの音も出ない。こうなった場合通常であればクレアのワンサイドゲームが始まり終わる。クレアがリリアンの不摂生を並べ立て、リリアンは『はい、はい、すいませんでした』と言うだけのbotと化す。そしてクレアがダイエットメニューを組んでくれて、ちょっとお腹が引っ込んだあたりでリリアンが再び間食に走る。
 だが今回は違う。
『クレアちゃんだって……お酒と煙草やめられないじゃない!』
 珍しくリリアンが反論した。この二人、衛生兵と軍医ということもあり、両者共にかなり健康に気を遣っているのだが、重点を置くものが大きく異なっている。端的に言うとどっちもわりと不養生である。クレアは酒と煙草がやめられない。リリアンは間食をやめられず運動しない。とは言え「医者の不養生」ということわざもあるし、人間なんて……英雄も含め、皆案外そんなものかもしれないが。
『クレアちゃんがお酒と煙草をやめられないように、私だって甘いものをやめられないのよ!』
「そんな主張をした所で、ドクターの腹についた贅肉は変わらんぞ」
 無情なる一撃がリリアンの胸を貫いた。そう、クレアの飲酒・喫煙癖に話を擦り変えようとした所で、ちょっとぷよっとしたことになっているリリアンのお腹は変わらない。崩れ落ちたリリアンの傍にしゃがみ込み、クレアが心持ち優し気な声で告げる。
「ドクターの気持ちは分かる。私も甘いものは好きだからな。だがドクターは食べ過ぎだ。一日に菓子パン二個とか、ジュースを飲みながらポテトチップス一袋とか、夕食後のアイスやプリンとか、それをやめろと言っているんだ。それから毎日運動すること。それさえきちんとやってくれるなら、私だって太っただの贅肉だのそんなことを言いはしない」
 慰めようとしているようだがただの言葉の暴力だった。さすがスリーサイズを暴露されピリピリ気味のママさんの前で「スリーサイズも何も、そんなもの日頃の生活のせいだろう」と言い放っただけはある。
 だがクレアの言うことは正論である。いくら『息をするようにスクワットをする人間に私の気持ちは分からないわ!』と言った所で、リリアンのお腹の贅肉が家出してくれる訳でもない。間食をやめて運動する。それが贅肉と手を切る真っ当な方法である。
 リリアンは打ちひしがれながらもなんとか立ち上がろうとした。通常の流れであれば翌日クレアがダイエットメニューを組んでくれて、ちょっとお腹が引っ込んだあたりでリリアンが再び間食に走る(さっき言った)。
 しかし今日のリリアンはひと味だけでなくふた味違った。ふとリリアンの脳裏を、疑問が流れ星のように尾ひれをつけてよぎっていった。
 なんでクレアちゃんはあんなに飲んでいるのに太らないの?
 もっともアルコールで太るか否かはかなり意見が分かれている。アルコールは1g当たり7キロカロリーあるが、アルコールのエネルギーは(中略)で体内に蓄積されないと言う説があり、太るのは酒に含まれている糖質や一緒に食べるおつまみ(中略)。しかし一方で飲酒を長期間続けていると体脂肪分布の蓄積、特に内臓脂肪蓄積に影響(中略)、またストレスがかかった状態でアルコール摂取と同時にタバコを吸うと、視床下部、下垂体、副腎皮質が活性化されて内臓脂肪が(中略)。
 そしてクレアの飲酒量は相当のものである。とりあえずクレアのウイスキー代ともう一人の英雄のウォッカ代を、リリアンが家計事業仕分けの対象にしているぐらいには。
 とは言えクレアは毎日毎日運動(筋トレとか戦闘訓練とか諸々)をしているのだから、太らなくてもスタイル抜群でも納得という気もするが、でもそれにしてもスタイル良すぎじゃない? あんなにお酒飲んでるのに体型崩れなさすぎじゃない? 私はこんなに簡単にちょっとお腹がぷよっとするのに、クレアちゃんのお腹だけ贅肉への防御高すぎじゃない?
 まさか。リリアンの脳に恐ろしい考えが流星群のごとく飛来した。クレアの摂取したアルコール分カロリーが、リリアンの腹に横流しされているんでは。英雄はこの世界に存在する者、つまりは能力者を依代に自らの魂を一体化させ、世界との強固な繋がりを結ぶことによってこの世界に存在している。能力者と英雄は魂レベルで繋がっている。その強固な繋がりを通して、クレアの摂取したカロリーがリリアンの腹に流れ込む事も十二分にあり得るのでは?(リリアンは 混乱 している)(クレアの 発言による ダメージは とても 大きかったようだ)
 なんという事だろう。諸悪の根源は酒だったのだ。やはり酒は事業仕分けせねばならぬ運命だった。リリアンはゆらりと立ち上がり、仁義なき宣告を下す。
『酒を事業仕分けするわ……』
「…………」
 なんでだ。
 重傷重体者を目の前にしても狼狽える事のない歴戦の衛生兵もさすがに突っ込まざるを得なかった。事業仕分けするべきは酒ではなくリリアンの腹の贅肉だろう。
 だがそのツッコミが口から出る事はなかった。次の瞬間リリアンは部屋の外へと飛び出していた。その先にはクレア秘蔵のスコッチウィスキーの瓶達が。
「ド、ドクターやめろその先は!」
『あああああああ』
「わ、悪かったドクター! もう贅肉とか言わないから!」
『わああああああああん!!!(泣)』


「ドクター」
 一時間後、完全KO状態のリリアンが精根尽き果て項垂れていた。同じぐらい疲労困憊のクレアが、通常の十倍ぐらい優しい声音で語り掛ける。
「明日からまたメニューを組んでやるから、私と一緒に頑張ろう」
『……』
「ドクター」
『……はい……はい……頑張ります……』

 完。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【クレア・マクミラン(aa1631)/外見性別:女性/外見年齢:28/能力者】
【リリアン・レッドフォード(aa1631hero001) /外見性別:女性/外見年齢:29/バトルメディック】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。クレアさんとリリアンさんのお話ですのでここはやはり血と硝煙香る戦場の話、ともかなり悩んだのですが、「両者ともにかなり健康に気を遣うが、重点を置くものが大きく異なっており、その時の論点によってどちらかのワンサイドゲームと化す」との一文を発見しましたのでそっち系の戦場にしました。ノリは以前参加して頂いたスリーサイズ依頼のアレです。あの時はご参加下さり誠にありがとうございました。(深々)
 イメージや設定など齟齬がありました場合は、お手数ですがリテイクのご連絡お願い致します。
 この度はおまかせのご注文、誠にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願い致します。
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2018年12月03日

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