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『■優しき、牙よ 』
鞍馬 真ka5819




 ――ナニかが、来た。
 嗅ぎ慣れぬ空気を持つ、ナニかが――。


 伏せた獣は僅かに顔を上げ、耳をそばだてる。
 すると、傍らにいた幼い子供もオロオロと周囲を見回した。
 物置小屋の外では雨が降っているのか、屋根を叩く雨音がうるさい。
 それに混じって、複数人の話し声が聞こえてくる。
「じっとしててよ。見てくるから」
 言い含めるように子供は獣へささやき、小屋の戸を開いた。

「すまんなぁ。急に降り出してきたもんで」
「困った時はお互い様だ。そっちの人も身体が冷えないうちに、さぁ」
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて」
 雨ざらしの荷馬車から降りた鞍馬 真(ka5819)は、手招きする牧夫へ遠慮がちに会釈した。
 一方、荷馬車の御者は牧夫と共に馬を厩舎へ繋ぎに行く。
 家の中では、夫人が暖炉の前に木製の椅子を並べているところだった。
「急な雨で、災難だったねぇ。こっちで服を乾かすといいよ」
 濡れた暗色の外套をコート掛けに吊るし、勧められるまま真は椅子に腰かける。
 続いて乾いたタオルを渡され、頭を拭いている間に湯気の立つスープのカップを渡され、そうこうしているうちに牧夫と御者も暖炉の前に加わった。
「すまんなぁ、ハンターさん。雨の前に、町へ着けると思ったんだが」
「いえ。こちらこそ、便乗させてもらった身だしね」
 同じようにタオルで頭を拭きながら謝る御者に、真は柔らかな笑みを返す。
「あ、男の人だったの? あんまりに綺麗だから、私はてっきり娘さんかと」
「こら、失礼だろ」
 驚く夫人を、牧夫がたしなめた。
「私なら平気だよ。よく間違われるから……それより雨宿りさせてくれて、ありがとう」
 礼を言われ、人のよさげな牧場の夫婦は安堵したらしい。
 その後方、奥へ続くドアの陰から様子を窺う幼い子供に彼は気付いた。
 不思議そうに小首を傾げると、睨んでいた男の子は途端に固まる。
「あらまぁ。人見知りする子でもないんだけどねぇ……こっちにきて、旅の人に挨拶しなさい」
 母親が呼んでも子供は答えず、無言でぷぃと奥へ消えた。
 その、睨んでいた理由が気になって。
「息子さんに話し相手をしてもらっても、いいかな?」
「え? ああ、しばらく雨も止まないだろうしな。あの子なら裏の物置小屋だ。何を見つけたのか、ここ数日お気に入りでね」
 教えてくれた牧夫に真は頭を下げ、外套を取って裏口から外に出た。




 そこそこ大きな物置小屋の、簡素な戸をノックする。
 返事を待たずに戸を開ければ、物陰から子供が転がり出てきた。
「出てけよ。何もないから!」
「何か……君にとっての秘密があるんだね」
 ぐっと子供は言葉に詰まり、口を結んで頭を振る。
 幼くも精一杯の『抵抗』の後ろで、四つ足の影がゆらりと起き上がった。
 そちらへ青い瞳が動くのを見て、明らかに子供は狼狽する。
「何もないから! 出てきちゃダメだよ!」
 矛盾にも気付かない子供の制止を無視して姿を見せたのは、青みがかった毛並みを持つ狼に似た幻獣。
「君の友達は、イェジドだったんだね」
 幻獣の前で両手を広げる子供へ、真は微笑んだ。

「兄ちゃん、こいつを退治に来たハンターじゃないの?」
「違うよ。私は偶然、雨宿りに寄ったんだ。それに普通の狼じゃないって、知ってるからね」
 真の言葉を子供は信じたのか、そこからは説明の洪水だった。
 何日か前に近くで見つけた時は、沢山の傷を負っていた事。
 物置小屋にかくまい、自分のおやつやご飯を分けてあげた事。
 どうやら、子供はイェジドを「単なる大きな犬」だと思っているらしい。
 幻獣はといえば、伏せたままで彼を観察し、匂いを嗅ぎ、『敵』ではないと判断したようだ。
 何かを訴えるように、琥珀色の瞳でじっと真を見つめていた。
「君に傷を負わせた相手は……歪虚、かな。それと戦う為に、戻るんだね」
 肯定するように幻獣は身を起こし、鼻先で子供を真へ押しやる。
「……え?」
「でも、君だけで勝てる相手かな?」
 敵意を含んだ、低い唸り声。
 真は幻獣の首の辺りを撫で、柄のみの剣を手に立ち上がった。
「彼の加勢に行ってくるよ。雨が止む前には戻るから、ここで待っているんだよ」
 事情が分からぬ幼い子供へ、笑顔と共に言い含め。
 イェジドはハンターを背に乗せ、牧草地へ飛び出した。




 随分と時間が経ったものの、約束通りハンターは雨が止む前に戻ってきた――ただし、単身で。
 幻獣が『家』に帰った事を告げると、寂しげながら子供は納得し。
 やがて、雨は止む。


 ――嗅ぎ慣れぬ空気を持つソレは、我が同族を友とする者だった。
 臆する事なく『敵』の喉元へ牙を突き立てる狩りの技は、我ら以上だろう。
 だが、忘るるな。
 牙はその身を以って、敵を穿つ。
 優しき牙が折られぬ事を、我は祈る――。


 雲の切れ間より陽が差し、何処から遠吠えが響く。
 馬車の荷台で揺られながら、真は惜別と感謝の混じったそれを確かに聞いた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】

【ka5819/鞍馬 真/男/22/人間(リアルブルー)/闘狩人(エンフォーサー)】
おまかせノベル -
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ファナティックブラッド
2018年12月04日

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