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『錆と共に 』
ジャンクka4072

 寒冷であり乾いた風は容易に体皮を硬直させる。
 まだ辺境の地の冷え込みは本番ではない。それをよく知るジャンクではあっても、この冷え方はやはり古傷に染みるようだと厚い外套をふるわせた。
 翻る外套の下で左足の義足がカチカチと硬質な音を鳴らしている。
 元々ジャンクは辺境の出だった。今回はかつて関わりのあった集落の様子を見に来たのだった。
 ジャンクは来た山道を振り返った。遠目に見える集落のかげに両目を細める。左目は義眼である。
 彼の通り名の由来となったかつての質の悪い義肢と比べて、今では随分具合がいい。
「とは言え、この山道はな…」
 慣れ親しんだものでもこたえる、とひとりごちながらも歩みを進めていた。
 ふいに、風に混じって、複数の音や気配をジャンクは察知した。
(よくねえな)
 山の裏あたりかと、鋭敏化される感覚であたりをつけながら、それまでとはうってかわった素早さでジャンクは駆け出した。


 ヴォイドに襲われていたのは、年若い二人組みだった。服装からして帝国の人間だろうか。
 一人は足をやられているらしい。血を失っているようで、まともに動けていない。
 ジャンクは外套の下から取り出した白銀の魔導銃を構えた。ほとんど抜き打ちで放たれた弾丸はヴォイドの一体の横腹に命中し、突如の乱入者に他も動きが止まった。
「行くぞ! 走れ!」
 ヴォイド達と同じく虚をつかれた二人を、坂を駆け下りながら叱責する。
 半ば無理やり押し出すように、三人で駆け出した。
(雑魔か…数が多いな)
 このあたりの野犬がもとになったような雑魔達が、背から迫ってくる。
 ジャンクの目がひとりの引きずられている片足に向けられる。振り切るのは難しいか。
 時折牽制に弾丸を撃ち込んでも、わずかに距離をとるだけでヴォイド達はしっかりと後を追ってきている。
「坊主、魔術師か」
「…そうです」
 もうひとりに肩を借り足を引きずる青年にジャンクは銃を構えながら語りかける。
「何が使える」
「おい、無茶言うな。ろくに力使える状態じゃないぞ」
 もう一人が強い調子で抗議してくる。
「だったら死ぬだけだな。まあ俺は大してまずい状況とまでは見てねぇんだが、それもやり方を間違えなけりゃ、だ。」
 今が無理のしどころだ、と続けるジャンクに、講義の声は続かなかった。
「で、だ。お前さんの方は前を張れそうだな? だから…」
 とまで言って、今度はジャンクが黙る番だった。
 髪も短く気づかなかったが、傷ついた方に肩を貸すもう一人は女だった。わずかな逡巡だったが、彼女はジャンクのそうした心の機微を敏感に感じ取ったらしい。
「なんだ、私が女なのに文句でもあるのか」
「いや、待て。ねぇから」
「ならいい。さっさと案を言ってくれ。それで、切り抜けられるんだろ?」
 話が妙な方へ行きそうになったが、逆に早くすんだか。気のりはしなかったが、しかし。
「ああ、問題ねえ。聞きながら走りな!」
 冷えた風を盛んに肺に取り入れながら、ジャンクは力強く言った。義足との継ぎ目に、わずかに痛みをおぼえていた。


 山の谷間、岩場が厚く張り出して狭くなっている。
 駆けるにつれ、だんだんと左右がせばまってくる。それはヴォイド達にも同じで、広く分散していた数をある程度まとめるには適していた地形だった。
 ジャンク、そして傷ついた青年は足を止めた。目の前では、数で襲いかかってくるヴォイドたちの攻撃をもう一人が受けている。
 そこへ二人で制圧力のある攻撃を一気に仕掛けなければならない。
「集中が…」
 魔術師である、傷ついた青年が苦渋の色を浮かべる。明らかに血の気を失いすぎている。
 銃を構えながら、ジャンクは落ち着けと言った。
「あいつを見ろ。お前のことを生かしてやりてえと思ってるのさ。そういう間は、まだ大丈夫だ」
 青年は前方で傷つきながらヴォイド達の攻撃を受け続ける彼女の背を見た。
 その目の色を横目に見、ジャンクはわずかに口端を動かした。
「撃て!」
 青年の杖から一直線に迸る雷撃。そしてジャンクの放った銃撃の雨が、彼女の背をかすめるようにヴォイド達の体を無数に貫いた。


 青年の簡単な止血だけして、帝国領内までたどりつくと、そこでジャンクたちは別れた。
 何度も頭を下げ、礼をすると繰り返す二人にさっさと手当に行けとジャンクは取り合わなかった。
 去る二人の背を眺めながら、やれやれとひと心地ついたようにジャンクはタバコを出すべく外套の中をまさぐり出した。
「…生かしてやりてえと思ってる奴がいるうちは大丈夫、か」
 さきほど青年を鼓舞した言葉が思い出された。
「みんな、生かしてやりてえと思ってたのさ。みんな、な」
 北狄南下。そのとき、潰えた部族。ジャンクの部族も、そのうちの一つだった。
 当時の光景。あの二人より幼い、女子供。そして、その親達。だれしも、生を願っていたはずだ。
「いいのさ。うまくまわれば…はったりだろうが、嘘だろうが」
 なんでも使えば、と。
 吐き出した紫煙は、辺境の風にすぐさまかき消えた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4072/ジャンク/男性/53/猟撃士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お待たせして申し訳ありません。お気に召して頂ければ幸いです。
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2018年12月04日

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