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『無知と刀も使いよう 』
ソフィア =リリィホルムka2383

 轟々と燃え盛る炉から鉄を取り出し金槌で叩けば、鐘のように甲高い音が鳴る。赤く染まった地金から飛び散る火の粉をきっちり防護しているとはいえ物ともせず、ソフィアは紫色のその瞳を真っ直ぐ目の前の鉄に据えた。
 習うより慣れろ、技術は見て盗め。旧時代的ではあるがストイックで職人らしい格言も決して間違いではないとソフィアは思う。言葉にしろ行動にしろ計算のように唯一の正解があるわけでなし、本人の体格、手の大きさ、素材の状態を見極める眼など、一言に鍛冶といってもそのやり方は十人十色だ。例えそれが同じ派閥に属していたとしても、完成品の傾向が似通っているだけ。結局は職人自身の癖が出るし、自分と勝手が違う相手に完璧な指導が出来るはずもない。それなら言葉で説明されるよりも実地で合う合わないを試しながら練習するほうがよほど上達が早い。少なくともソフィアはそう思っている。無論先人の知恵をないがしろにしていいものでもないが。
 無心に叩く。幾層にも重ねて芯から脆さを少しずつ確実に消し去っていく。自分が目にしてきた、未だ辿り付けないその領域に足を踏み入れる為に――。
「あー、くそ! 全然ダメじゃねーか!」
 舌打ちをし、ソフィアが声を張り上げたのは作業を始めて数時間が経過した頃だった。火花から体を守る為に万全の装備をしていたというのもあるが、前髪は額に、耳の辺りの髪は頬に汗で張り付いているし、邪魔にならないようお団子にしていた部分もお風呂上がりのように湿っている。解いて髪を振り乱しても、べたべたといやに重たかった。
「普通に商品として売れるレベルになりそうだけどなー」
「その程度で満足出来るわけないじゃん」
 手を団扇代わりにして熱を逃そうと足掻くソフィアにだよね、と笑ってみせるのは様子を見に来た馴染みの職人仲間だ。彼は刀鍛冶ではないので同じ素材を扱う者としての私感となる。だからといって見当違いとは思わないが、先程口にしたとおり、正当評価でも全く嬉しくもない。鍛治師として対価を頂いている以上、自身で納得のいく水準を求めるのは当然のことだ。
 リアルブルー由来の刀という武器は扱う人間も少なければ造りたがる鍛治師も少ない。習うより慣れろ、だが習う相手を捜すのも大変な話だ。ハンター業の隙間を縫って、遠方を訪ねてみたり掘り出し物の史料を探したり。そんな日々を続けても所詮はこの程度だ。溶かしてやり直すか、と思案して。
「すみませーん、刀の研ぎ直しを頼んだ者なんですけどー」
「はーい!」
 工房と繋がっている店舗のほうから声が聞こえ、ソフィアは返事をして俊敏に身を翻すと、髪をポニーテールに結び直しつつ歩いていく。無意識的にさっと視線を滑らせ格好を確認し、同業者だろうと判断した。もしかしたら一緒に戦った事もあるかもしれないが、残念ながらソフィアに覚えはなかった。
「早速、見せてもらってもいいですか?」
「あ、はい」
 今はここに属しているわけではないが、刀のように特殊性の高い武具の扱いは外部の人間に委託することもある。といってもソフィアも刀鍛冶としてはまだまだ修行中の身なので、作刀の依頼は断ってもらっているのだが。可愛らしい少女にしか見えないソフィアを職人として認識しているのか、素直に鞘ごと出された刀をにっこり営業スマイルで受け取り、頭上に掲げるようにして引き抜く。瞬間、髪に隠れて見えないがソフィアのこめかみに青筋が浮かぶ。
(は? 何だよこの雑な使い方は!? わざわざ刀を選んどいて、よくこんな状態になるまで放っておいたな!!)
 胸中で多分初対面の男に更に呪詛のような罵詈雑言を連ねつつ、それでもソフィアは笑顔を維持した。若干、唇の端が引きつっているが。客の男はまるで気付いた様子もなかった。
「えーと、そのぉ……何ていうか、結構傷んでるんですけど、お手入れとか自分でされてます?」
「手入れ?」
 ぽかんとした表情に、こいつダメだ、と思った。史料として刀を所持しているのなら、研げば嵩が減るために敢えてそうしないという選択も理解出来る。後はただ蔵にあったのを見つけただけの門外漢だとか。けれど武器として使うのならば、相応の知識は必要だろう。
「ちょっと紙持ってきますね」
 そう断ってカウンターから離れ、紙とペンを探す。様子を見守っていたらしい職人仲間に満面の笑みを浮かべてみせれば、何故か彼は身を引いたがソフィアは気にしなかった。そして目的の物を手に戻り、素人でも出来る手入れのやり方を刀の仕組みの解説も交えつつ懇切丁寧に説明した。すると男は頷いて、
「分かりました!」
 と言い、道具の手配について相談しだしたので胸を撫で下ろす。面倒臭がるようなら買い取りをしようと思っていた。道具は正しく使われてこそ真価を発揮する。
「それじゃあ、お預かりしますね」
 ソフィアは心からの笑みを浮かべて、刀を大事に抱え持った。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2383/ソフィア =リリィホルム/女性/14/機導師(アルケミスト)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
前回は接客や刀関係の話を書けなかったので今回は
その辺りを色々と入れつつ書かせていただきました。
素が出ている台詞を書くのは凄く楽しかったんですが、
テンションが高過ぎ? でも鍛冶や刀のことだし……
と、かなり悩むところでもありました。
最終的にはギャップも込みで高いノリでいってます。
今回は本当にありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2018年12月05日

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