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『咲かすは火の花、話の花 』
橘・沙羅6232)&清水・コータ(4778)

 夜の空を駆けているのは、黒衣の少女と燃え上がる赤……炎だ。まるで犬のような形をしたそれが、獲物を追う獣の如き勢いで敵に向かい放たれる。
 事実、それは犬である。橘・沙羅の血を食む、火で出来た犬。彼女が使役する、燃え盛るしもべだった。
 対峙する相手は、見るからに異形の姿をしている。恐らく、妖の類だろう。
 見かけた時、一瞬でも恐怖を抱いてしまったのか悪かったのだろうか。そいつらは沙羅に目をつけ、突然襲いかかってきたのだ。
 たまたま絡まれたようなものだが、沙羅は持ち前の速さと技術を活かし応戦していた。
(な、なんでこんな事に……!)
 だが内心では、突然のトラブルにすっかり頭を抱えてしまっている。正直今すぐに帰りたくて仕方がなかった。ただでさえ、普段から周囲の者達の突飛な言動に振り回され青ざめるはめになっているというのに。
(いかにも妖怪です! みたいな、怖い姿の敵が多すぎるんですよ……!)
 敵の攻撃を身軽に跳躍する事で避けつつも、つい見てしまった相手の不気味な姿に少女は肩を震わせる。忍といえど、沙羅の感性は普通の女の子と変わらないのだ。おばけの類に苦手意識を持っている彼女が、こっそりと涙目になってしまうのも無理もない話であった。
 幸い、今のところは沙羅以外の物や人に襲いかかる様子はない。いったん退いたフリをし、隙を見つけて奇襲をかけるというのも妙案だろう。
 使役した炎を囮にし、沙羅は駆ける。速さには自信があった。炎をまとう少女は夜風を味方につけたかのように素早く屋根を伝い、敵との距離を徐々に離していく。
 そして、頃合いを見計らい、いったん身を隠すために地上に着地……しようとしたところで、眼下に人がいる事に気付いて沙羅はその茶色の目を丸くした。
「お兄さん!?」
 しかも、それはよく知る友人だったのだから、驚きもひとしおである。
 だが、追ってきている異形はすぐ近くまできていた。今更引き返すのは、彼らの餌食に自らなりにいくようなものだろう。
 ええいままよ、と沙羅はそのまま友人を巻き込む選択肢を取る事にした。長い付き合いであるし、このような事で怒る相手ではないはずだ。
「うわ、ビックリした。奇遇だな」
 現に彼、清水・コータは、親しみやすい笑みを浮かべてそう言ってのけてみせる。
「ですね。いや、それどころじゃないです今! 取り込み中なので!」
「依頼中か?」
「いえ、今回はトラブルに巻き込まれただけといいますか……。お兄さんも手伝ってくれませんか?」
「よしきた。報酬の話は後で良いよ」
「ゆ、友情価格でお願いします……。って、あ、あれ? なんだか、嫌な予感が……」
 などと話をしている内に、気付けば二人の回りには数多の影。自分達の事を妖怪達がすっかり囲んでしまっている事に気付き、沙羅とコータは「ははは」とどちらともなく乾いた笑い声をあげる。
 もはや隠れる事は叶うまい。ともすれば、道は戦う事でしか開かれないのだ。

 ◆

 ある日の昼下がり、沙羅がコータの営む民族系のショップに訪れたのは、そんないつかの日のお礼を言うためだった。
 奇襲作戦を諦める事になった沙羅は、あの後コータと協力し二人の速さを武器に街を駆けながらの大立ち回り。最後は彼が持っていた外国産の花火に沙羅が火を点け、敵に放ち怯ませるという力技で押しのけて、何とか平穏を取り戻す事に成功したのだ。

 他に客がいなかったせいかしばし夢の中へ旅立っていたコータだったが、沙羅がきた事に気付くと寝起きとは思えぬ明朗な様子で出迎えてくれた。挨拶を交わし、二人はしばし談笑に興じる。
「あ、そうだ。これ。どうぞです」
 ふと、沙羅はここにきた目的を思い出し、手に持っていた袋をコータに差し出した。中身を覗いた瞬間に、コータは破顔する。中に入っていたのは、手作りの焼きプリンだったからだ。
「俺に? 良いのか?」
「はい。一応、この前のお詫びというかお礼に。お兄さんの御眼鏡に適うかは分かりませんが、火を使うのは慣れてるし焼き加減はちょうどいいはず……ってもう食べてますね!?」
 常にプリンを携帯する程プリン好きのコータが、その大好物を前に我慢出来るはずもない。瞬く間に消えていったプリンに驚きつつも、ご満悦な様子の相手に沙羅は笑みを浮かべた。
「じゃあ、俺も。頑張ったアールにお土産をやろうじゃないか」
 おどけた調子で、コータもまた沙羅に何かを手渡してくる。商品調達のために、またどこかの国に行ってきたのだろう。
 渡された手のひらに収まるサイズの不可思議な形の物体を、沙羅は見つめる。何やらボタンらしきものもついているし、ただのストラップや飾り物というわけでもないようだった。しかし、いったい何なのかは見当がつかない。
「ありがとうございます。で、これは何に使うものなんです?」
「……さぁ?」
「分かってないんですか!?」
「でも、面白そうだろ?」
 そう言って笑うコータの顔があまりにも楽しげなものだから、沙羅も毒気を抜かれたように肩をすくめるしかない。
 それから、二人でああでもないこうでもないとしばらくそのお土産の用途を探ったが、結局分からずにお手上げだと声を揃えて苦笑するのだった。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【6232/橘・沙羅/女/18/斡旋業務手伝い兼護衛】
【4778/清水・コータ/男/20/便利屋】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
ほのぼのテイストなドタバタ劇を綴らせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。お二人のお気に召すお話に出来ていましたら、幸いです。
何か不備等ございましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、このたびはおまかせノベルという大変光栄な機会をいただきありがとうございました。また何かございましたら、お気軽にお声かけください。
おまかせノベル -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年12月05日

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