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『奇妙、あるいは平凡な一日 』
夜城 黒塚aa4625)&猫井 透真aa3525


「おい、もう時間だ。さっさと起きろ、若」
 という声と共に肩を揺すられ、猫井 透真(aa3525)は眠そうに布団の中で身体を丸めた。透真は至って普通の大学生で(少なくとも透真本人はそのつもりである)、ある日突然化け猫英雄に取り憑かれ、その英雄の食費のために日夜バイトに明け暮れている。もっとも事故で死んだ両親の遺産がわりとあるので、バイトをしなくても食べるのに困る訳ではないのだが、働かずに遺産に頼るだけではダメ人間になるというのもあり、透真は身を粉にしてバイトで生計を立てている。
「う……うーん……あと五分……」
 昨日もなんやかんやあって帰りが遅く、布団に潜ったのは午前様。当然眠い。許されるなら五分と言わず許される限り眠っていたい。だが透真のささやか過ぎる願いは、温かな布団と共に剥ぎ取られる事になる。
「おら、起きろ若!」
「うわっ!」
 急激な寒さに身を震わせ、たまらず透真が顔を向けると、そこには極道が立っていた。ラフなオールバックにくたびれたスーツ、糊の効いていないシャツ。緩めたネクタイにサングラス。眉間には皺が寄り、サングラスの向こうに見える瞳は目付きの悪い三白眼。突然の極道に透真は慌てて土下座する。
「わ、わあ! ごめんなさい! なんでもしますのでお命だけは……」
「若、寝ぼけてるのか?」
「……く、黒塚さん?」
 震えながら恐る恐る顔を上げた所でようやく、目の前の男が極道……ではなく、知人の夜城 黒塚(aa4625)である事に気が付いた。なお外見は先程述べた通りだが、決して極道ではない。透真と同じH.O.P.E.に所属するエージェントだ。柄の悪い印象である事に間違いはないが。
「す、すいません失礼な事を……」
「何だ? 何か妙な事でも考えてたか?」
「い、いえ別に」
 気付いていないならそれでいい、と透真はごまかす事にした。ところでなんで黒塚さんが俺の部屋にいるんだっけ? それに俺の事を「若」とか呼んでいたような気が……若。黒塚さんが起こしに来る。このシチュエーション、どこかで……。
 そこで透真は以前見た夢の内容を思い出した。能力者や英雄が執事・メイド、或いはお嬢様・若様になってなんやかんやしていた夢だ。妙にリアルな夢だったのでわりとしっかり覚えているが、あの時透真は若様で、黒塚は執事になっていた気が。
 なんだ夢か。透真は胸を撫で下ろし二度寝を決め込む事にした。夢で寝るとは妙な話だが、夢の中で寝てはいけないという法律がある訳でもない。
「若、何寝ようとしてんだ」
「だってこれ夢ですよね? 一応設定は合わせなくちゃいけないのかな。今日は大学はお休みです。なので安心して寝かせて下さい。おやすみ」
「大学? 何言ってんだ? 今日は愚神組へ殴り込みの日だぜ?」
 黒塚の言葉に完全に目が覚めた。透真が布団を跳ね飛ばすと、黒塚が引き金を引くとパーンと鳴る物体を透真の手に置いた。いわゆる拳銃というヤツだ。チャカとも言う。
「ほら、若の分だ。急いで支度して出るぞ」
 どうやら本当に極道であったらしい。


「かかれーッ!」
 という黒塚の声と共に、猫井組の組員(らしい人達)は、愚神組の事務所(らしい建物)へと入っていた。黒塚も物陰に隠れながら、迫りくる愚神組を銃でバンバン薙ぎ倒していく。
 キマっている。見た目も振る舞いも言っている事も完全にその道の人である。と言うかキマリ過ぎていて怖い。透真は黒塚の足下に隠れ、チャカを握って混乱していた。
 なにこれ。俺って極道の若頭だったっけ? 化け猫に取り憑かれた普通の大学生って設定じゃなかったっけ!?
 だが「化け猫に取り憑かれた普通の大学生」に比べれば、極道の若頭の方が現実味が……ない。まるでない。一切ない。黒塚が極道というのはハマり役ではあるけれど、あつらえたように似合うけど透真が極道というのはない。
「若、いつまで隠れている気で」
「い、いやいや、俺が若頭なんてないから!」
「何処かで頭でも打ってきたか? まあいい。だったらそのまま隠れていろ。心配しなくても、若には指の一本だって触れさせねえよ」
 カッコ良過ぎる。元々「大して歳は変わらないはずなのに、何を食べたらこんなに渋くなれるんだろう」とは思っていたが、渋さが色々突破している。頼りになるオーラが留まる所を知らなさ過ぎる。
 だが、それでいいのか猫井透真。自分だってエージェント……いや猫井組の若頭だ。いくら黒塚が頼りになる男でも、頼ってばかりではダメな若頭になってしまう。
 この時透真の頭から「これは夢では?」という意識はすっかり抜けていた。途中で夢だと思っても、それを忘れてしまうのはわりとよくある事である。
 だから透真は固まった。「黒塚さん、俺……」と顔を上げかけ、黒塚の姿を見てびしりと固まった。
 黒塚から紫のねこみみとしっぽとが生えていた。
「……」
 これはそうだ、あれだ、そうチェシャ猫のみみとしっぽだ。しかしなんでチェシャ猫? 何故突然のねこみみとしっぽ? 何故極道設定にねこみみとしっぽが生えてきた???
 そこで透真は思い出した。「お前は一生、猫に関わる人生を送る」という両親の遺言を。まさか、透真に課せられた運命が、黒塚に突然のねこみみとしっぽを生やさせたと言うのだろうか。
「若、一体どうし」
「黒塚さぁぁあんっ!」
 透真は黒塚に飛びつき泣いた。むごい。むご過ぎる。二十代半ばを超えた男に紫のねこみみとしっぽなんて。現役大学生の透真でさえ、いい年こいた男が猫化とか恥ずかしいと思っているのに。それをよりによって黒塚に課すだなんて酷過ぎる。
「すいません黒塚さん! わあああああ!」
「お、おいおいどうしたんだ」
「わあああああん!(泣)」


「う……う〜ん……まむし酒……」
「一体何の夢を見てやがんだ」
 ソファに突っ伏したまま呻き声を上げる透真に、黒塚は「ハァ」と息を吐いた。今二人がいるのは黒塚の自宅である。いつも生活カツカツの透真に、たまには飯でも奢ってやろうと誘ったのだ。とは言え透真には両親の遺産があるので、いざとなればなんとかなるだろうから、「黒塚がそうしたかったから」と言った方が正しいだろう。
 なお自宅に呼んだ訳ではない。最初に行ったのは居酒屋である。以前広東料理店で飯を一緒にした時に、透真は酷い酔い方をした。具体的には腰から上を総動員してやたらに円を描いていた。
 もっともそうなった原因は大体酒を勧めまくった黒塚だが、「そんなに強くない」と言いつつ飲んでいたという事は嫌いな訳ではないのだろう。ならば今の内に酒との付き合い方は学んでおいた方がいい。社会に出てから失態を犯すより、今の内に経験を積んでおいた方が後々で役に立つ。
 などという言い訳の下に、飲ませに飲ませた結果がこれだ。今回もそれは景気よく回っていた。それで前回と同じように、歩けなくなる前にと店を後にしたのだが、今回は歩いている途中で完全に寝入ってしまった。それで仕方なくタクシーを呼び、面倒が少ない方をと黒塚の自宅に連れてきたのだ。
「ど……ドリアンアタック……」
「本当に何の夢を見てるんだ」
 寝言が謎過ぎて全くもって予想がつかない。だがまあ寝言が謎なだけで、吐きそうな様子はない。とりあえず寝床に運んでやり、枕元にビニール袋を掛けた洗面器と、水入りペットボトルを置く。見た目はヤのつく自由業だが、黒塚は不器用ではあるが気遣いの出来る男である。
 シャワーを浴びさっぱりして戻ると、透真は気持ち良さそうな顔をして眠っていた。その平和な寝顔を見ていると、先日の死闘が夢であったようにも感じる。
 だが現在、世界は『王』の侵攻を受けている真っ最中で。その戦いの一端に、黒塚も身を投じてきたばかりだった。
「(飲みたかったのは、俺の都合の方が大きかったかもしれないな)」
 微かに口角を吊り上げて、改めて透真に視線を落とす。呼んでもいないのに苦労が寄って来る苦労症の大学生は、今は苦労など素知らぬ顔ですよすよと眠っている。
「ま、たまにはゆっくりしてな。俺もお前も、な」


 朝。チュンチュンというさえずりと共に透真がぱかりと目を開けると、そこには見知らぬ天井と見知らぬ部屋が広がっていた。慌てて飛び起き横を見ると、サングラスを外した黒塚が寝ている。
「………???」
 なんで黒塚さんが? 別に同居している訳でもなかった気がするけど、と、以前何処かでしたような混乱を覚えてしまう。確か久しぶりに黒塚さんから連絡があり、夕飯を一緒にする事になり、酒を勧められ、飲んで、また勧められ、飲んで……気が付いたらここにいて、黒塚が隣で眠っている。
「え……あの……な、何があったんだ……?」
 十中八九自分が酔って何かしたのだろうとは思ったが、全くもって記憶がない。こうなった経緯も全くもって予想がつかない。黒塚を起こして即聞きたいが、ぐっすりと眠っているので起こすのも忍びない。でも何がどうしてこうなったのか分からないって超怖い。
 結局、透真の混乱と「起こすべきか起こさざるべきか」という葛藤は、黒塚が目を覚ますまで続く事になる。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【夜城 黒塚(aa4625)/外見性別:男性/外見年齢:26/能力者】
【猫井 透真(aa3525)/外見性別:男性/外見年齢:20/能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。以前お二人が入られていた依頼を元に、このようなお話にさせて頂きました。イメージや設定など齟齬がありました場合は、お手数ですがリテイクのご連絡お願い致します。
 この度はおまかせのご注文、誠にありがとうございました。またご縁がありましたらよろしくお願い致します。
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2018年12月05日

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