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『守護者の矜持 』
藤咲 仁菜aa3237)&リオン クロフォードaa3237hero001

 藤咲 仁菜と共鳴したリオン クロフォードは、仁菜の姿をほぼそのままに映す共鳴体の両足で地を踏みつけ、左腕に固定したアイギスの盾を掲げる。
 そこへ従魔どもが殺到し、盾の白を損なわんと爪牙を突き立てたが。
『どいて! 待ってる人がいるんだから!!』
 仁菜の心からあふれ出した思いが光となり、盾をさらに白く輝かせた。
「ふっ!」
 裏から肩をあてがい、一気に押し込んで従魔を吹っ飛ばしておいて、リオンは大きく踏み出した。その一歩は前進であると同時、踏み込みでもある。
 自らを踏み止めた反動に乗せた片手剣を薙ぎ、起き上がってきた従魔どもを斬り払って、さらに踏み出し、踏み込む。
「ニーナ! 左腕、まだ保つか!?」
 跳びかかってきた新たな従魔をシールドバッシュで叩き落とし、切っ先を送り込んだリオンが仁菜へ問うた。
 片腕に装着するタイプの盾は本来、受け止めるものならず「いなす」ものだ。打撃や砲撃などを受け止めれば、衝撃で容易く骨が折れ砕ける。
 無論、剣士たるリオンは心得ていた。記憶が喪われていても体は最適解を描いて動いてくれたし、この世界で、身をもって学びなおせるだけの経験を積んでいたから。
 しかし。戦場で昂ぶった頭はしばしば己の限界を忘れ、苦痛を置き去って足を前へと進ませてしまうものだ。だからこそ、彼よりも少しだけ距離を置いて戦場を見据える仁菜へ確かめるのだ。
『まだ大丈夫だよ! それより早く行かなくちゃ!!』
 ――訂正。仁菜は仁菜で、ある意味リオン以上に昂ぶっている。
『絶対助けて守り抜くから……!』
 それは祈りにも似た誓いで、誓いの姿をした決意。
 これまであまりに多くを失くしてきた仁菜は、もう二度と失くさないことを祈り、誓い、そして決めたのだ。
 どんな状況でも、守ることをあきらめない。
 リオンは前を塞ぐ従魔へ盾の縁を突き立て、それを支点に前進しながら体を反転、すべり抜けた。ニーナの祈りも誓いも決意も、俺の祈りで誓いで決意だ!
 かくてリオンは戦場を駆け抜ける。見渡す限り、従魔、従魔、従魔。他に見えるものなどなにもなかったが、仁菜から預かったロップイヤーはこの先に守るべきものがいることを告げていて、だからこそ迷わず進むのだ。
 ……愚神群の強襲を受ける数時間前まで、この地には小さな村があった。大半の村人は脱出に成功したが、足の弱った老婦人と、それを守ろうとした孫が取り残されている。
 同じなんだよな、みんな。失わないために命を賭けて守ろうとする。今度こそ、俺はなくなっていくのを見送らない!
 リオンの思いに仁菜の思いが重なった。
 失くしちゃった悲しみを、私たちは知ってるから。1秒でも早くたどり着く! 今度こそ、間に合わせるんだから!


 通信機からひっきりなしに飛び出してくる他のエージェントからの報告で、戦線はじりじり押し上げられていると知れた。
『待ってられる時間があればなぁ』
 うっかり通信へ乗せてしまわないよう内でため息まじりに漏らし、リオンは前へ出した右足をにじって足場を確かめて。
「デクリオ級愚神と交戦開始。近くにいるエージェント、集まってくれ」
 あらためて通信機へ告げた。
『リオン。みんなが来てくれるまで、私たちでなんとかするしかない』
 仁菜が息を大きく吸って、ぐっと止めた。
 果たして彼女のライヴスが強く燃え立ち、主導を取るリオンの、緊張で強ばった心に力の火を点す。
 戦場に出るたび、ニーナはいつも震えてたんだよな。だから俺が手を引っぱって――なのに今は、俺が仁菜に背中を押されてる。
 そんな苦い思いは、すぐに仁菜の声音で塗り潰された。
『おばあさんとお孫さんに向かわせない!』
 そのために自分を危険へ晒さなければならないことを知りながら、彼女は迷わず言い切ってみせる。
 俺の背中を押して、俺の手を引っぱるのはニーナだ。なら、俺は全力で押されて、全力で引っぱられて、全力でやり通す!
「ダメージコントロール頼む」
『うん!』
 備えてきたスキルはケアレイ、クリアレイ、ケアレイン。すべては誰かの命を護るためのものだから、自身へ使うつもりはない。
 口に含んだ賢者の欠片をうっかり噛み砕いてしまわないよう、舌の裏でしっかり抑えつけて……リオンは盾を前へゆるく出した。これは誘いであると同時に、愚神の攻めをいなす構えでもある。
 形どおりの能力を備えているならスピードとパワーはかなりのものだ。正面から受け止めれば、次の瞬間体中の骨をへし折られることとなろう。
 こんな修羅場で剣術の基本、おさらいか。代金は俺とニーナの命で、愚神の取り立ては厳しそうだな。でも。俺は退けないし、退かないよ。決めたとおりにやり通すだけだ。
 俺だけならできっこないけどさ。ニーナといっしょなら、できる!
その内の仁菜はリオンの気迫に自らのライヴスを重ね、愚神を真っ向からにらみつける。
 小隊のみんながいてくれたらなって思う。せめて味方が来てくれるまで逃げたり隠れたりできたらって。でも。私は退けないし、退かない。先に行かなくちゃ守れないんだって、私は知ってるから。
 私だけなら進めない。そんなのわかってるけど――リオンといっしょなら行ける!
 グオウ!! 愚神が吼え、振り上げた前脚を叩きつけてきた。
「食いしばれ!」
 仁菜へ歯を食いしばるよう指示。リオンは盾を斜めに立て、このスタンプを受けた。
 ギヂビギヂ、一瞬の内に押し詰められた衝撃が、盾の表面をこすっていく。
 爪1本を引っかけられただけなのに、体勢が大きく崩れた。反射的に踏ん張りそうになる体から無理矢理に力を抜き、リオンは右脚を軸に体を巡らせて硬い暴力を受け流す。ああもう! 力込めながら力抜くとか、すごい矛盾だよな!
 左腕へはしる乾いた音で、仁菜は骨にヒビが入ったことを悟った。
 アドレナリンは全開、ゆえに痛みはほぼ感じないが、もう一回同じように受けたら今度こそ折れて、盾を支えられなくなる。
 考えなくちゃ。あのスタンプを受け止めて、攻撃する方法……
 すると。
「踏み込むよ」
 言葉が終わるより早く、リオンが前へ。
 説明されるまでもなく、彼の意図は知れる。小学校の理科で習った支点・力点・作用点だ。
 支点の近くに入り込むことで、作用点にかかる力は小さくなる。あの前脚を振り下ろす膂力とそれに加算される遠心力が減じられれば、この壊れかけの腕でも数瞬を稼ぐことができよう。
『食いしばる、だよね!』
 共鳴中の苦痛は、基本的にふたりで同量を分け合うことになっている。が、それをコントロールしているのは仁菜だ。
 この一合、私が全部引き受けるから! リオンは思いっきり斬り込んで!
 言葉なき意志がリオンを加速させる。弱くて意気地なしな女の子は、その絶望の底で誓ったとおりの強さをもって、片翼たる少年に限りない力を与えてみせた。
 ゴオオオ!! こちらの肉迫に合わせ、愚神が逆の前足を振り下ろす。
 そりゃそう来るよな。でも、そう来るってのはもう知ってるんだよ。
 リオンは足に対して斜めの角度をとって踏み込み、肩に担いだ盾で爪ならぬ脚の半ばを受け止めた。直撃こそ避けながらも、超重量を叩きつけられた左腕はきしみ、次の瞬間、折れ砕ける。痛みは――なかった。
 アドレナリンのおかげなんかじゃない。ニーナが全部引き受けてくれたんだ。ダメコン頼むって言ったの俺だけど、痛いのは半分こだって決めてただろ。
 苦い笑みを賢者の欠片と共に噛み砕き、リオンは押しつけられるまま上体を落とし込んでいった。が、それは倒れるためではなく、この落下を踏み出す力へ変えるがためのものだ。欠片を噛んだのも傷を癒すためならず、次の一歩を支えるがために。
「っ!!」
 前へ送り出した右足が大地を揺する。筋力に前進と落下、さらには愚神の重量まで加えた踏み込みは、共鳴体の脚を凄まじい勢いで損ないながら、それを上回る速さで反動という“力”をリオンの内に駆け上がらせた。
 俺たちは、こんなとこで止まってなんかられないんだよっ!
 私たちは、こんなとこで止まってなんかられないんだから!
 寸毫を超え、軌跡すらも残すことなく突き上げられた刃。
 愚神を突き抜き、その白き剣身を空へと顕わした。次いで。
 共鳴体の背後から飛来した矢弾が愚神を撃ち据え、引き裂き、まき散らした。
『あんたらが目印を立ててくれたおかげで当てられた。いい仕事だったぜ』
 ガンナーのひとりから通信が届く。
「助かったよ。ガンナーさんたちもいい仕事だった!」
 リオンはサムズアップと共に返し、再び駆けだした。


 残る従魔を斬り払いつつ、リオンは残されたふたりが隠れているポイントへ到着した。
「無事か!?」
 瓦礫の奥から返ってきたのは、コツコツ。ただ2回のノック。
『リオン!』
「わかってる」
 急かされながら瓦礫を押し退けて、ついに老婦人とその孫を見つけ出した。
「ここからはニーナの出番だよ」
『え、でも』
「いいんだってば! こういうのは女の子の仕事なの!」
 男女差別だぁ。そんなことを思いながらも、リオンに促されるまま主導を担い、ふたりと向き合う。
 老婦人の孫は、仁菜よりもずっと歳下の少年だ。祖母を背にかばい、いっぱいに開いた目で彼女を見上げている。
「――ありがとうございます」
 仁菜の言葉に、少年の眉が跳ね上がった。それはそうだ。まさか助けに来たライヴスリンカーが「ありがとう」だなんて。
「私たちが来るまでがんばってくれて。私たちに間に合わせてくれて。全部、あなたがあきらめないでいてくれたから。だから……ありがとうございます、です」
 ケアレイの癒しが老婦人を包み、次に少年を包む。少年を後に回したのは、それが守ることを選んだ者への最大の敬意だからだ。
「おねえさんも、ケガしてる……」
「私は大丈夫。それよりも早く避難を」
 少年に返し、仁菜はふたりをかばいながら戦場を離脱した。

 この共鳴体へ刻まれた傷を癒すのは、すべてが終わった後に。
 それは、守ることを選んだ者が自らへ贈るただひとつの敬意で、掲げるべきただひとつの矜持。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【藤咲 仁菜(aa3237) / 女性 / 14歳 / 我ら闇濃き刻を越え】
【リオン クロフォード(aa3237hero001) / 男性 / 14歳 / 未明の夜に歩み止めず】
おまかせノベル -
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2018年12月05日

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