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『時と場所が変わっても 』
沢城 葵ka3114

 大陸の海岸部と周辺の島々を内包するリゼリオは様々な人間が集まるだけでなく、自然にも富んだ都市だ。葵も転移後、この街に居を構えているが今の住処を気に入っている点もそこにある。ある方向へ行けばハンター街にソサエティの本部、それから観光客の集まる一般的な街並み。別の方に向かえば自然が色濃い郊外に海岸線と雰囲気の変化には事欠かない立地にあるのだ。向こうにいた頃、アイデアに煮詰まったときに出歩いたのがきっかけで、暫くすると趣味としてすっかり定着した散歩を楽しむには絶好というほかなかった。むしろ、
「んー、今日は何処に行こうかしらねぇ」
 と、特にやりたいこともない日に困るくらいだ。たまの休日で、友人知人と会う予定もないこんな日がまさにそうなる。葵が転移した時には着の身着のまま、という程でもないが大した物は持っていなかった。それが数年間も同じ場所での生活が続くと物は増える一方で、潔癖性というわけではないが、ごちゃごちゃとした環境で落ち着いていられる性分でもなく。自分ではあまり身につけないのに買ってしまうアクセサリー類を筆頭に、整理整頓をしたばかりだ。大抵は似合う人や欲しがっている人に譲ったとはいえ、すぐにまた買い足すのは気が引ける。よって買い物は却下し、自然を満喫するという気分でもないのでとりあえず近くの通りをぶらぶらすることに決めた。
 そうして歩くこと十分程。ふと視線を向けた店先に馴染みの相手が出てきて、そしてばっちりと目が合う。どうせ行く先だしと彼女の方へと近付いていった。
「葵ちゃん、お久しぶり!」
「本当お久しぶりね。元気にやってる?」
 訊くと同世代の彼女は目を輝かせ、見て頂戴と言って葵の手を引いて店の中に向かう。少々強引だと思うが、彼女の明るく闊達な気性は嫌いではないのでおとなしく引っ張られる。
「やあ、葵さん」
「旦那さんもお久しぶり。何か見せたいものがあるみたいなんだけど」
 夫であり店主でもある彼にそう言うと、すぐ得心して奥にある作業場へと歩いていく。後を二人も追った。
「これこれ! ねえ、どう?」
 言って女性が目の前にあるトルソーの、その身につけている服を葵に見せる。それは女性向けの洋服で基本はシンプルな白なのだが、一部に手染めで描かれた薄桜色の模様が入っていたり、フリルで装飾が施されたりしている。ファッション要素が少ないだけに地味だがセンスを問われる服だ。それに紺のプリーツスカートを合わせてある。
 葵に素質があったから尚実感出来るが、この世界は魔術の歴史が長く、大きく発展してきたこともあって、逆に機導術の括りに入る機械技術は覚醒者向けのごく一部を除き、向こうと比べると格段に劣っている。それでもミシンは普及しているし、所属小隊の隊服のように衣服に魔術要素を取り入れるという独自技術もあるが。いずれにしても手間暇は相当にかかる。だから服飾関係の会社を経営しており、自身も幾つもの商品開発に携わっていた葵は、興味はあったけれど手を出すには敷居が高く、現在の本職であるハンター業を安定させるためにも積極的な関わりは持たなかった。それが偶然目に入ると職業柄気になり、けれど自身は女物の服は着ないので遠巻きに見るだけに留め、友人の好みに合いそうだと思って紹介をして。そのうちにこの店主夫婦と親しくなって意見を求められるまでになった。
「いいんじゃない? こういうシンプルなの、あたしは結構好きよ。それに縫い目がすごく丁寧」
 この世界でも手縫いで作るなんて中々の猛者だと葵は思う。実際、その繊細さを気に入る常連客がいるからぎりぎり保っているのだと二人も笑って話していた。観光客が気付きにくい所なのもあるだろうが。
 無邪気に喜ぶ妻とそれを見守る夫を見つつ、葵は向こうに残る社員たちを思った。人を見る目には自信があるし、性格だけでなく実力も折り紙付きの面々だ。会社がどうこうと心配しているわけではないが、こうして自分が異世界でそれなりに上手くやっていることを伝えられないのは心苦しい。気に病んで、帰りを待ち続けるだろうから。
「――葵さん。前から考えてたんだけど僕らと一緒に服を作る気はない?」
「え?」
 らしくない感傷を突拍子もない提案が掻き消した。そして二人して助言に感謝し、ハンター業の妨げにならない範囲でいいと説得を重ねてくる。それは心からの好意で、葵も嬉しいのも確かだけれど――。
「ごめんなさい、遠慮しておくわ。だってここは二人のお店だもの」
 熟考するまでもなく浮かんだ言葉が本音で確かな答えだった。葵が本格的に関わればそれは三人の店で、今とは形を変えてしまう。そんな風にはしたくなかったし、向こうに残してきた社員に義理立てではないが、繋がりを終わったものにするのも嫌だった。
 残念がりつつも葵の結論に納得した夫婦が微笑み頷く。そんな二人を見返して葵も笑った。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3114/沢城 葵/男性/28/魔術師(マギステル)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
リアルブルーにいた頃や、転移してきたばかりの頃の話を、
とも考えましたが、隊服の絵が好きだなというところから
葵さん自身はシンプルな格好、CWではどこで買ってるのか、
服飾関係のお仕事をしていたから服屋と関わってるかもと
妄想を発展させた結果、こういう感じの話になりました。
男口調とか女子力の高さとかも書いてみたかったですね。
今回は本当にありがとうございました!
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2018年12月07日

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