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『冬の女神の温もりは 』
氷鏡 六花aa4969)&アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001

●凍てついた心
 北極側の戦局が移り変わる中で、南極も断続的に従魔の襲撃が続いていた。氷鏡 六花(aa4969)はその度に澱みの無い戦いぶりで敵を駆逐していた。既に南極の戦線において、少女は欠かせぬ戦力となっていたのである。

「……」
 イグルーに戻ってきた六花は、そのまま氷床に腰を下ろす。彼女の目の前には、無造作に積まれたライヴスソウルの山があった。いざとなれば雪娘をも守り戦う。そんな決意の下、必死に少女は掻き集めたものであった。しかし、今では重大なる裏切りの証明に他ならない。六花は山の天辺からライヴスソウルを一つ拾い上げると、その手の内で弄ぶ。天井に吊るしたランタンの光を受けて、ライヴスソウルは深い青色の輝きを放った。
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)はそんな少女を不安げな面持ちで見守っていた。
『(六花……)』
 今日のような基地の保全任務はともかく、H.O.P.E.の重要依頼に出撃する度、六花はリンクバーストを繰り返してきた。ディープフリーズ――氷獄を何度も使用したい場面が多かったが故でもあったが、何より今の六花自身がそのような戦い方を望んでいた。
 憎悪と殺意を剥き出しにして、単身で敵中深くに進撃する。勿論、そのようにしなければ周囲の仲間さえ巻き込んでしまうのだが、死をも厭わず、己の命すら削るような戦いぶりは、アルヴィナの心配の種となっていた。このままでは、最後の戦いまでのどこかで、本当に死んでしまうのではないか。そう思えてならなかった。

 ――そなた自身の望みは何だ。あの娘と、どのような繋がりを望む。

 ギリシア見物の折に掛けられた、彼からの言葉。帰ってからも、ずっと頭から離れない。彼に問われなくとも、アルヴィナ自身、自分が何を望んでいるかくらいは分かっていた。
『(私は、六花と……)』
 彼女は一つの誓いを立てていた。その誓いと自分の中の望み。二つを天秤に掛け続けていたのだ。その釣り合いは常に誓いへと傾き、彼女の意志を押し留めてきた。

 ――少しは、己の望みについて考えるのもいいだろう。

 彼の言葉は、その天秤を望みの方へと傾ける。拳を固めて逡巡していたアルヴィナであったが、遂に意を決して、六花へと僅かに身を乗り出す。
『ねぇ……六花。前にあなたと出掛けた遊園地。雪の女王の御伽噺をモチーフにしたアトラクションが、新しく出来たそうよ。今は無理だと思うけれど……王を倒して、全てが終わったら……また一緒に行ってみない?』
「え?」
 思わず六花は目を丸くした。アルヴィナと出会ってからこの方、彼女から何かに六花を誘うという事など無かった。いつも、何も言わずに六花の決断を見守ってきたのである。
 そんなアルヴィナの誘いに、六花は心を揺すられるが。
「……ん。ごめんね、アルヴィナ」
 六花は寂しげな顔で首を振る。それでもその瞳には氷のような光が宿り、迷いも見えなかった。
「今は……そんなこと、考える気分じゃ、ない……から。愚神を……殺す。ぜんぶ……殺すの。早く、次の任務に、出掛け……なく、ちゃ……」
 手元に弄んでいたライヴスソウルを幻想蝶へ収めようとする六花。しかし、その手からふと力が抜け、地面へと取りこぼしてしまった。
「あ……」
 六花の声が揺れる。手を伸ばして青い光を手に取ろうとするが、不意に少女はその場に倒れ込んでしまった。肩で苦しげに息をして、少女は起き上がる気配を見せない。
『六花……!』
 アルヴィナは息を呑み、慌てて六花を抱き起こした。少女は力無く呻く。手を当てて確かめるまでもなく、全身が高熱に包まれていた。

●女神の願い
 H.O.P.E.南極支部、治療室。窓ガラスの向こう側で六花がベッドに寝かせられていた。アルヴィナは物憂げな顔で様子を窺っている。医師は六花の細い腕に点滴を繋ぎ、浮かない面持ちで治療室から出てきた。アルヴィナは慌てて歩み寄る。
『あの……六花は』
「命に関わる事は無いと思います。ですが、過労に近い状態になっています。数日は休んだ方がいいでしょう。無理は禁物です」
 医師の言葉を聞いて、ひとまずほっとした。入れ替わるように治療室に足を踏み入れ、六花の傍らに立った。解熱薬を注射された少女は、目を閉ざしたまま荒い息を今も繰り返していた。
『(六花……)』

 六花はペンギンのワイルドブラッドである事だけは分かっていたが、目に見える形での獣人化を見せる事は無かった。この事態に複雑な心境でいた六花だったが、半年ほど前、幾つかの検査を通して遂にそのからくりが判明した。六花は外見が変化しているのではなく、内部、特に血管が獣人化していたのだ。ペンギンの身体は、動脈に静脈が巻き付く構造になっており、熱を逃がしにくい構造になっている。能力者になった事による体質変化も併せて、極寒環境の南極でも平然と動き回れた所以であった。
 この事実を知った時の六花は、目をきらきらとさせてアルヴィナに報告したものだった。六花が特別嬉しそうな顔をしたのは、それが最後だったような気もしてならない。

『(最近はリンクバーストを連発しているうえに、“氷獄”も次々使っている。……その疲労が積み重なって、体温調節が上手く出来なくなっているのかしら……)』
「ん……」
 アルヴィナが黙って思案している間に、六花が不意に目を覚ます。焦点の合わない目で、少女はアルヴィナを見上げる。
「ここ、は……?」
『南極支部よ。さっき高熱で気絶して……』
「……行かなきゃ」
 六花は点滴を腕から引き抜き、そのままベッドを飛び降りようとする。しかしその足元はおぼつかずにふらついてしまう。ベッドの端に手をついて、六花はどうにか立ち上がろうとする。その瞳に、冷たい殺意を漲らせたまま。
 アルヴィナは表情を崩す。六花の背中を、そっと彼女は抱き寄せた。
『六花』
 冬の女神からは、ひんやりとした冷たさが伝わってくる。熱で火照った六花には、ひんやりとして心地よかった。六花はその場で手を力無く垂らす。アルヴィナは一層少女を抱きしめる腕に力を籠め、その耳元で囁いた。
『六花と初めて会った時……六花は寒いのが好きって言ってくれた。私の手を取ってくれた』
 脳裏にくぐもった声が反響する。それは赦しを乞う人の声であった。立ち去る事を祈る人の声であった。彼女の到来を喜ぶ人間など、一人も居なかったのだ。
『人に疎まれ畏れられるばかりだった私には……それがとても嬉しかった』
 寒さを厭わぬこと、雪を愛でること。彼女と結んだその誓いは、アルヴィナ自身の心の奥底に眠っていた、“自らを愛してほしい”という想いの現れだったのかもしれない。
『だから私は……私を尽くして六花に報いようって、貴女に内緒で誓ったの』
 そう誓ったアルヴィナに六花がまず初めに望んだのは、復讐だった。
『復讐も……約束、したものね。二人で一緒に、ご両親の仇討ちをするんだ……って』
 今の戦いも、その望みの途上にある。愚神と従魔を率いる、悪意の根源である“王”。今まさにそれは降臨し、その刃を振るわんとしている。六花は決意していた。喩え相打ちになってでも、その喉笛にしがみついて殺してやろうと。小さな命を全て擲つ悲愴な意志を、アルヴィナはどうにか支えてやりたいと願っていた。
『全ての愚神が、王の侵略で愚神にされてしまった異世界の住人なんだとしたら……』
 二人並んで出会った数多の敵の姿が蘇る。その中には、紛れも無い優しさで彼女の心を想った司祭がいた。余りにも無邪気で、彼女と打ち解けかけた獣がいた。愚神や従魔が旧くは同じ意志を持つ人だと、知らしめる者達。彼らもまた王の犠牲なのだ。アルヴィナは六花を掻き抱いて、声を絞り出す。
『六花のご両親、ムラサキカガミ、アバドン、それに……雪娘を愛していたあの人。王を討ち果たせば……皆の仇討ちができる。その為なら、六花との約束を果たす為なら。私は、消えたって構わない』
 目尻に小さく涙が浮かぶ。雪の結晶のように、涙は小さく瞬いた。
『でも……ごめんなさい、六花。私は、叶う事なら……ずっと貴女と一緒にいたいの。王を討ったその先でも、貴女と一緒に、生きていたい……のよ』
「……」
 六花は俯いたまま黙り込んでいる。心臓の小さな拍動だけが、アルヴィナの胸に伝わってくる。
『……私達の誓約。寒さを厭わぬ事。雪を愛でる事。寒さというのは……苦難の暗喩。雪は……苦境に在って、見上げた時にふと見える……ささやかな幸せや喜びの暗喩』
 アルヴィナは心に刻み付けてきた様々な記憶を蘇らせる。二人で梅を見に行ったり、神社でかき氷を作ってみたり、海に行ってみた事もある。アルヴィナの中には、六花と共に過ごしてきた記憶が確かにある。血は繋がっていなかろうと、絆で二人は繋がっている。間違いなく家族だった。
 その繋がりを失いたくない。数々の戦いを経て、アルヴィナはそう願うようになってしまっていた。
『ねぇ……六花。最初で最後の……私の我侭。お願いだから、貴女の人生を……投げ棄ててしまわないで』
「……」
 六花にとって、彼女の哀願を聞くのは初めてだった。しかし、本当は気付いていたのかもしれなかった。共鳴する度に六花の心はアルヴィナの心と繋がる。六花の心が復讐の刃として研ぎ澄まされていくほど、寄り添うアルヴィナの心もその刃に触れ、傷ついていた。
 それでも、アルヴィナは何も言わずに六花を支えてきたのだ。彼女自身の誓いを胸に。
「……ん」
 曖昧に呟くと、六花はベッドへと引っ込む。
「……今、倒れちゃったら、意味ない……もんね」
 そのまま毛布を引っ被る。復讐の意志は未だに固くとも、この場は休むつもりになったらしい。アルヴィナは涙を零したまま、小さく頷く。
『ええ。……今は英気を養って。それから、ゆっくり戦場を選びましょう?』

 分厚い窓を吹雪が叩く。もうすぐクリスマスだ。かの救い主がこの世に生まれた日だ。この少女にも救いの手を差し伸べんことは、あるのだろうか。

 おわり



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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氷鏡 六花(aa4969)
アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。
アルヴィナさんの六花さんへの願いを中心に描かせていただきました。
満足いただける出来になっているでしょうか……?

この度はご発注いただきありがとうございました。
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2018年12月07日

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