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『Real name:〜氷雨 柊羽〜 』
氷雨 柊羽ka6767

 西日の差し込むオフィスの窓辺で、依頼書の束を繰るハンターがいた。

 依頼書をめくる細い指。記された文字列を丹念になぞる琥珀色の双眸。
 希望に沿うものがないのか、伏せがちの横顔は見る者にどこか物憂げな印象を与える。
 吐息を零せば、唇の内に秘めた赤さと白い歯列が覗き、怜悧さの中にほんの少しの色香が漂う。
 開花を間近に控えた蕾然とした中性的な美少年に、居合わせた誰もが視線を奪われていた。


「……コホン」

 オフィスを手伝っている香藤 玲は、不躾な視線の束を遮るようそのハンターに近付き咳払い。我に返った人々は何食わぬ顔で各々用事を果たし始める。当人も玲に気付き顔を上げた。

「ああ、玲さん。休憩?」

 結った銀の髪がさらりと流れる。この場で玲だけは『彼』ではなく『彼女』だと知っていた。

「まだ仕事中だけど、気になる依頼あったかなーと思って」
「それが生憎」
「なら良さそうな依頼が来たら連絡しよっか、この用紙に記入して?」

 少し角張った、真面目な彼女らしい文字が用紙へ認められていく。
 登録ID、クラス、希望する依頼種別、そして――

『名前:氷雨 柊 』

 するとそこで筆が止まり、一拍置いてから『羽』の字が書き足された。


  *


『名前:氷雨 柊羽』

 記した名を柊羽は改めて眺める。

『柊』と書いて"シュウ"。

 それが本名で、羽の字を足して"シュウ"と読むこの名前は、ハンター登録時に柊羽自身で付けたもの。同じくハンターをしている姉も表記上は全く同じ名前なので、紛らわしいと思ったのだ。

(……読みは変えていないから、呼ばれる分には何も違和感ないけど……書く時はたまに間違えそうになっちゃうな)

 用紙の欄を埋めていきながら、ふと思う。

(どうして両親は、僕たち姉妹の名前に同じ字を当てたんだろう?)

 そもそも、エルフの母が付けたのか、蒼界からの転移者である父が付けたのか。
 父も植物に由来する名をしているから父かもしれない。由来も、いつか尋ねたことがあったように思うけれど、記憶があやふやで定かでない。

(姉妹揃って付けるくらいだから、『柊』によほど思い入れがあるんだろうな……)

 一旦気になりだすとあれこれ気になってくる。
 父がいた日本にも柊はあったのか、紅界と蒼界の柊に違いはあるのか、とか。
 柊羽ははたと気付き玲を見た。
 玲は父と同じ蒼界の日本出身だ。思わず身を乗り出し尋ねてみる。

「リアルブルーにも……日本にも柊ってあった?」

 玲、きょとん。それから用紙の柊羽の名を見て納得したように笑って頷く。

「あったよー。庭木としても一般的だったし、公園の垣根に使われてたりもして、日本人には親しみのある植物だと思うな」

(父さんが住んでた家の庭や近所にもあったのかな……)

 父が日常的に親しんでいた植物かもしれないと思うと、しみじみ愛着が湧いてくる。

「あとはこっちと一緒でクリスマス……聖輝節に飾ったりもするし」
「そんな所まで一緒なんだ、何だか不思議だね」

 すると玲はポンと手を叩いた。

「そうそう、日本には変わった柊の使い方もあってね? 節分っていう鬼が出るって言われてる日に、魔除けとして柊とイワシの頭を飾るんだよ」
「イワ、シ?」

 柊羽、意外過ぎる組み合わせにぎょっとなる。

「……一体何をどう考えたら、その組み合わせに行き着くのかな?」
「さぁ? 昔の人が考えた事だからねー」

 何故それを魔除けにチョイスしてしまったのか。イワシの頭を飾って臭わないのか。蒼界に鬼はいないけれど、居たとして、本気でそれで追い払えると思ったのか。
 疑問は尽きないが、玲はそれ以上詳しく知らなかった。

「不思議だよねぇ。でも柊羽おねえさんにも半分はそんな摩訶不思議日本人の血が入ってるんでしょ?」
「うん、そうだね……」
「僕としては、僕と同じ国の人の血が半分も流れてるのに、どうしてこうも顔面偏差値に差があるのかって方が不思議なんだけどね?」

 玲は何やら不服そうに自分の頬を抓んでいたが、柊羽は意味を測りかね首を傾げた。
 と、カウンターの奥から玲を呼ぶ声がする。

「ごめん、引き留めちゃったね」
「だいじょーぶ! じゃあ良さげな依頼が入ったら連絡するねー」

 そうして奥へ戻っていこうとした玲が、「思い出した」と呟き振り返った。

「柊自体にも魔除けの力があるって言われててね? 危険と隣合わせなハンターさんにはもってこいな、素敵な名前だと思うよ」

 そう言って手を振り、今度こそ奥へ引っ込んでいく。
 柊羽は父の顔を思い浮かべた。紅界では歪虚はどこにでも出没するが、蒼界では一時前まで一般人が歪虚と遭遇するのは稀だったという。

(転移してきた父さんは、こっちの歪虚の多さに驚いたかもなぁ)

 それなら娘達に魔除けの植物の名を付け、息災を願うのも分かる気がする。

(さて、実際はどうだか分からないけれど。……しばらく実家に帰ってないな。今度顔を見せに行くついでに尋ねてみようか)

 柊羽は席を立ち、軽やかな足取りでオフィスを後にした。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6767/氷雨 柊羽/女性/17歳/白銀のスナイパー】
ゲストNPC
【kz0220/香藤 玲/男性/16歳/甘味中毒駄ハンター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。ご自身のお名前に思い馳せる柊羽さんのお話を書かせていただきました。
密かにずっと気になっていたんです、お名前! 本当はどんな意味がおありなのでしょう?
ご姉妹揃って同じお名前……色々想像してしまいますね。いつか明らかになる日がくるのでしょうか。
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。

この度はご用命下さりありがとうございました!

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鮎川 渓 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年12月07日

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