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『伝説のモデル 』
鞍馬 真ka5819

 鞍馬 真(ka5819)はその日、任務をひとつ終えたところだった。任務だけでなく、その打ち上げが終わったところだ、と言った方がいいだろうか。依頼主が、真たちのことを随分と気に入ってくれ、宴席を一晩中催してくれたのである。宿泊の準備まで整えられていて、至れり尽くせりであった。あたたかい朝食までいただき、依頼主のもとを立ち去ると、空はすっかり明るくなっていて、新しい一日が始まっていた。
「うーん、こういうのも朝帰りって言うんだろうか」
 真が苦笑して呟く。街道に立ち並ぶ店はどこも慌ただしく開店準備をしている。こうした生活の気配が色濃くたちのぼる場所は好きだ、と真が目を細めたとき。
「ちょっと! そこのお嬢さん!!」
 大きな声が街道に響いた。何かトラブルだろうか、と真はきょろきょろ周囲を見回す。
「ねえ、ちょっと! 君だよ、君!」
 大きな声の持ち主が、真の正面に立った。両目をぱちくりさせて、真は自分の顔を指差す。
「え、私?」



 大きな声の持ち主は、真と同じくらいの年ごろに見える青年だった。両手を膝にあて、がっくりとうなだれて嘆く。
「男の人だったのか〜〜〜〜〜〜」
「えーと、なんかすまない」
 真は苦笑するしかない。こうしたことは実は珍しくなかった。真の髪が腰まで届く長さであるのに加え、細身であるがゆえに女性に間違われることが少なくないのだ。特に後ろ姿は見分けがつかないとよく言われる。ナンパされることすらあった。
「いえ、謝るのはこちらの方で……、失礼しました」
「あの、差支えなければ事情をうかがっても?」
 真は青年に声をかけた。なんとなく、彼の目的はナンパではないという直感があった。
「実は……」
 青年が語ったところによると。彼は、この街道にあるブティックの店員だそうで、そのブティックで今日、新作アイテムのファッションショーを催す予定になっているらしい。だが、今朝になってモデルのひとりが風邪で倒れてしまい、代役を見つけられずに困っていたというのだ。
「できれば、髪が長い子がよくて……、他のモデルは皆、ショートカットかボブだから」
「そういうことか……。えーと……、別に、女性に見えれば実際は女性じゃなくてもいいんだよね?」
「まあ、そうですが……。えっ、もしかして、ご協力いただけるんですか!?」
 青年の目が、信じられないとでも言うように見開かれる。ええまあ私で良ければ、と真は苦笑しつつ頷いた。女装に慣れている、とまで言うと語弊があるが、あまり抵抗がないのは確かだ。相当に困っている様子であるし、ここで会ったのも何かの縁であろう。
「ありがとうございます!! よろしくお願いします!!」
 青年は深々とお辞儀をし、早速、真を彼の職場であるブティックに引っ張ってきた。本当に時間がなかったらしい、すぐに服を渡され、着替えさせられる。
「うそぉ……、すごぉい……」
「えええ、むっちゃ似合う〜〜〜!」
 ブティックのスタッフや、他のモデルが、着替えた真を見て歓声を上げた。渡されたのはインディゴブルーのロングドレスで、すっきりしたデザインのスカート部分には深くスリットが入っている。さすがに足を見せては分かってしまうのではないかと思ったが、黒いストッキングを履いてしまえば問題なく誤魔化せそうだった。
「メイク、あたしがしてあげる!」
「じゃ、髪はあたしがセットしてあげるわ!」
 モデルたちがはしゃいで真の周りに集まり、あっという間に準備を整えてしまった。渡された鏡を見て、真も目を見張る。
「うーん、ここまでの完璧さはなかなかなかったかな」
 自分でも、感心してしまう。ファッションショーが楽しみになってきたほどである。
「鞍馬さん、ハイヒール大丈夫ですか」
 青年が心配そうにやってきたが、真は微笑んで頷いた。その笑顔の美しさに、青年がどきりとしたように息を飲む。
「任せて」
 ばっちりウインクまで炸裂させて、真はステージへ向かう。人前に出るのはもともと嫌いではなく、むしろ好きな方だ。
 堂々としたランウェイ。まるで本職のモデルであるかのような完璧なターン。
 そして。ドレスにぴったりの、勝気で妖艶な微笑み。
 観客の視線は、真がすべて、さらっていった。



「ありがとうございました!!!」
 青年が、出会った時と同じ大きな声で礼を言う。
「いや、役に立ててよかったよ」
 真はドレスを脱いで、いつもの姿に戻っていた。
「あの、よろしければこのあと打ち上げがありまして」
「あー……、気持ちは嬉しいけど、遠慮しておくよ」
 二日続けて朝帰りは避けたい、と真は苦笑する。朝帰りどころか、今日は結局帰れていないのだし。
「じゃあ」
 にっこり微笑んで、真は長い髪をなびかせ、去って行った。
 真のことは、その後、「謎の美女モデル」としてそのブティックを訪れる人の間でのちょっとした伝説扱いになったという……。






━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5819/鞍馬 真/男性/22/闇狩人(エンフォーサー)】
【ゲストNPC/青年(ブティック店員)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ごきげんいかがでございましょうか。
紺堂カヤでございます。この度はご用命を賜り、誠にありがとうございました。
おかませ、ということで開き直って女装ノベルにしてしまいましたが……(女装を書くMSのイメージがすっかりついてしまった紺堂です。困ったものです)。
真さんはこうしたトラブルも楽しんでしまう、しなやかな対応力を持っているよなあ、と常々思っていたので、それを書きたかったというのもありました。
楽しんでいただけましたら、とても嬉しいです。
この度は誠に、ありがとうございました。

おまかせノベル -
紺堂カヤ クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年12月10日

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