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『※※路から始める女子力 』
ミィリアka2689

 近づいてくる年の瀬を前に、どこか気持ちが焦る――ことはなく。
 ミィリアはこたつに足を伸ばして、ぬくぬくと冬の風物詩を満喫していた。
 こたつ!
 みかん!
 上半身の寒さはどてらで防御!
 そして湯煎したあつあつの熱燗!
「完璧でござる……」
 身に染みる寒さもなんのその。
 外から内から、文明の力で抗ってこその冬模様。
 桜はただただ、開花の時期を待てばいい。
「来春も良い季節になればいいなぁ」
 すでに冬に勝ったつもりで、あたたかくなってからのことをぼんやりと思い描く。
 お団子、山菜、花見にお酒。
 春は春で楽しいものはいっぱいだ。
 いっぱいなのだが……ふと思い出したように頭の中をカレンダーがよぎる。
 あれ……春が来るってことは?
 その前に越えるべき1枚の壁がある。
 「何が」とはあえては言うまいが、言うなればそれはひとつの通過儀礼。
 抗うことができない時間の流れ。
 だらけきっていた心に、チリチリと焼け付くような焦燥感がうずき始める。
 辺りを見渡し、自分を見下ろし、ミィリアは青ざめてコタツから這い出した。
「こ、これじゃダメッ……でござる!」
 このままじゃ満開の桜に顔向けできない。
 磨こう――女子力。

 女子力を高めるために大事なことは何か。
 そう、まずは基礎となる足腰を鍛えることだね。
 さっそく平坦な河原道にやってきたミィリアは、ランニングにいそしんでいた。
 はじめは悪戯に寒いだけの北風も、身体が温まってくればほどよい気持ちよさに変わる。
 岸辺で釣りをしていたおじさんが、未来のハンターでも見るかのような暖かな眼差しで声援を送ってくれた。

 そんな時、ふとすれ違った2人組の女の子が持っていたものに、ミィリアのセンサーが反応した。
 無言でくるりと踵を返して、後ろから追い抜くふりをしながら、ちらりと彼女らの手元を覗き込む。
「こ、これは――」
 彼女らが持っていたのは大きなクレープだった。
 たっぷりの生クリームの上に色とりどりのフルーツ、そしてチョコチップがちりばめられた宝石箱みたいな一品。
 思わず喉が鳴る。
「な……なんて女子力でござるか」
 その破壊力、まさしく大艦巨砲主義。
 意味も分かっていない覚えたての言葉に気持ちを乗せて、ミィリアは彼女らの来た方向へと再び踵を返した。
 
「ンマァイ!!」
 クレープ屋台はすぐに見つかった。
 ランニングに勤しむその手には、さっそく入手した女子力の権化が握られる。
 ひと口かぶりつくと甘さと酸っぱさと甘さと甘さが口いっぱいに広がって、心はもう夢心地だ。
 ちりばめられたチョコチップもパリパリのと、しっとりしたのと、2種類が絶妙な食感の重奏を生み出していた。
 生クリームが口の端につくのも気にせず、幸せそうにクレープをほお張る。
 小脇のベンチに座っていた杖突きの老婆が、孫を見るような目でにこやかにそれを見送った。
 
 カロリー的にはヘヴィな女子力に身も心も満たされたころ、河原道はちょっと街の中へと入っていく。
 住宅街から街の主要部へと。
 指についた生クリームを舐めながら変わっていく風景を眺めていると、やたらと賑わう長い行列が目に付いた。
「なんでござるか……?」
 ランニングのルートに沿って、それとなく列の先端を探る。
 長蛇の先に見えて来たのは、絞りてたのフレッシュジュースを提供してくれるフルーツパーラーの店先だった。
「こ、これは――」
 店から出てくる女の子の持つカップに、思わず目を奪われる。
 透明なカップにたっぷりと注がれた綺麗な色のフレッシュジュース。
 それだけでもおしゃれなのに、聖輝節を意識してか星の形にねじれたストローが華を添えて、さらには飾りのミニリースまでついている。
 まだ疲れなんてないはずなのに、がくがくとミィリアの膝は武者震いに振えた。
「ち、巷の女子力は化け物でござるか……?」
 彼女が唖然とする中、その足は嫌がおうでも列の最後尾へと向いていた。
 
 帰宅して、脱兎の勢いでこたつの中に滑り込む。
 心とは裏腹に冷えた身体に対して、この暖かさは骨身にしみる。
「はぁ……やっぱり冬はこれが一番だよぉ」
 のほほんとした表情で背中を丸めたミィリアだったが、今あらためてこうしていられるもの、すべては外で女子力を摂取できたおかげである。
「これで、年末も戦えるでござるなぁ」
 安心に身を任せると、鍛錬の疲れでほどよくうとうと。
 夢見心地の中で、来月の壁もどんと来いと、どこか気持ちは大きくなったミィリアであった。
 
 ――了。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2689/ミィリア/女性/外見12歳/闘狩人】
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ファナティックブラッド
2018年12月10日

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