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『『愛の行方 中編』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 普通の依頼なら、留守電やメールでメッセージを残していくだろう。
 床に落ちていたメモ、乱雑に書かれた文字。きちんと置手紙を残す余裕もなかったことがうかがえる。
 それなのにメッセージの行の最初の一文字だけ、浮き上がるかのように見えた。その言葉に、アレスディア・ヴォルフリートの胸が苦しくなる。
 部屋を出てすぐに、アレスディアは携帯端末でディラ・ビラジスに電話をかけた。
 しかし、耳に届いた言葉は彼の声ではなく、圏外、もしくは電源が切られているという音声案内だけだった。
 自室に戻り、再び電話をするがやはりつながらない。
 やむなくディラの安否を尋ね、自分の状況を伝え、至急連絡を乞うとメールを打ち、送信する。
 深く息をついて、端末をテーブルに置き、アレスディアはしばし考え込む。
「……刻限は明日の夜。それまでに、どうか……」
 鳴らない端末を見詰めた後、アレスディアは1人夕食をとり、体を洗って床につく。

 翌日。
 アレスディアはギリギリまでディラを待ったが、彼は彼女のもとに戻ってくることはなかった。
 ただ一度だけ、彼と連絡がつき、僅かな時間会話ができていた。
『俺の全ては、アンタのものだ』
 その時の言葉が、彼の声が、まだアレスディアの頭の中に残っている。

 そして刻限丁度に、アレスディアは指定されていた場所に訪れた。
 歓楽街にあるそのビルは、雑居ビルであり、何の店だかわからない店が多く入っているようだった。
 堂々と正面玄関から中に入り、階段を下りて地下へと向った……その先に、部屋はいくつかあった。
 いずれも、防音設備が施された重い二重扉で閉ざされた部屋のようだった。
 その一つ、一番大きなホールの扉が開き、男が出てきた。
 白衣を纏った黒髪黒目の中年男性……昨晩の男だ。
「ようこそ」
 男が冷たい笑みを浮かべる。
「抗体だけが望みなら、百人もいて何故私を捕らえない? こんな回りくどいことはせず、取り押さえて抗体を採取すれば良い。そうしないのは、愉しみたいんだろう?」
「抗体を得るには一定の条件が必要だ。だがその条件がまだ判明してはいない。……まあ、愉しみたいというのも間違いではない」
 男の冷ややかな笑みに、アレスディアは嫌悪感を覚える。
 男が、ホールへと続く扉を開いて、アレスディアを導き入れる。
 中には暗く冷たい目をした男女が十数人ほどいた。場に居るのは100人いや20人にも満たないが、アレスディアに声をかけてきた人物を除き、何れも手練れと見える。1人で相手にできる人数ではない。
「貴様らはいつもそうだ。手中の獲物を弄ぶ。……いいだろう。乗ってやる。私に選択肢がないのも事実だ」
 アレスディアは吐き捨てるように言い、続ける。
 ディラが来るまで……彼が来るまでは、何としても持ちこたえたかった。
「だが我先に食い散らかしては、あぶれる者も出てくる。優先順位ぐらいは決めたらどうだ」
 組み分けして、代表者と自分が勝負し、勝敗やかかった時間で順位を決めれば良いと、アレスディアは彼らに持ちかける。
 観戦している者は勝敗の賭けでもして待っていろ、と。
「一対一なら勝機はあるとでも?」
 男の問いに、アレスディアは首を左右に振る。
「この人数相手に勝機はない。もはや俎上の鯉だ。だが、ただ食い散らされるのも口惜しい。貴様らの余興の内だろうと、一矢報いる機会がほしい。一人にでも、一撃でも、叩き込みたい。これは、意地だ。鯉の最後の望みぐらい、聞いてやる度量を見せろ」
「なるほど、それで少しでも長く戦えるというのなら悪くはない。抗体を得るには猛る血と血を混ざり合せる必要がある。このお嬢さんは豪く強そうだ。まずは誰が行く?」
「パース、弱ってから奪う。身体が弱っても、威勢はなくならなそーだし」
「魔法で焼いたらダメなんでしょ。私も後でいいわ」
 次々とそんな言葉が発せられる。
「あんた、行きなさいよ。援護は任せて♪」
 魔術師風の女が、大柄で筋肉質な男性にそう言う。
「一対一……いや、取り決めなど守るわけがないか」
 アレスディアは首に提げたコインを盾へと変化させる。
「こんな女、簡単に捻り殺……いや、殺したらマズイんだっけなァ」
 大柄な男が、木刀を手にアレスディアのもとに跳び、打ち下ろす。
 アレスディアは壁を背にし、盾で男の一撃を受ける。一撃で木刀は容易く二つに割れてしまった。
 アレスディアは盾で男を打ち払おうとするが、男は強靭な身体でアレスディアの盾を受け止めた。
「つぅ……かてぇ盾だな。まあ、硬いガードを剥ぐ楽しみもあるってか」
 男がアレスディアの攻撃を押し返そうとする。アレスディアは片方の盾で受けつつ、もう片方の盾で男を倒そうとする……が、突如、彼女の頭上で衝撃波がさく裂した。
 魔術師風の女による魔法だった。
 頭に衝撃を受け、アレスディアの意識が一瞬飛ぶ。
 片方の盾が男に弾き飛ばされ、強力な力で肩を壁に打ち付けられた。
 だが次の瞬間、アレスディアは残った盾のヘリで男の頭部を殴り飛ばした。
 男の重い身体が崩れ落ちる。頭と口から血を流していた。
「ウイルスに侵された可哀そうな病人を再起不能にするつもりか?」
 壮年の男の嘲笑、部屋を囲む者たちの笑い声が響く。
 誰も、倒された男の身など案じてはいない……。
「次! 貴様らの本気はその程度か!?」
 1つとなった盾を手にアレスディアは吼えた。
「その盾、邪魔よねー」
 十メートルほど離れた位置にいる魔術師風の女が、強い衝撃波の魔法を打ち込んでくる。
 盾で防ぐアレスディアの横から覆面をした男がナイフを放つ。躱すために背を浮かせた瞬間に、接近した覆面の男に突き飛ばされる。
「捕まえた」
 倒れた彼女の背に、覆面の男が伸し掛かる。
 ここまでか……! そう思いながらも、抵抗を続けようとするアレスディアの耳に男の囁き声が響いた。
「俺だ。合わせてくれ」
 強い力で、アレスディアは仰向きにさせられる。
 覆面で顔は見えない。だけれどその小さな囁き声と、自分に向けられる目、そして逞しい身体も良く知っている。
「……ここまでか。好きにしろ」
 悔しげに言い、アレスディアは顔を背けた。
(これでいいのか、ディラ……)
「彼の次は私の番よね、功労者だもの♪」
 女がアレスディアの盾を抱えて、近づいてくる。
「吸い付くしちまったら、ゴメンな! あははははッ」
 普段の彼とは違うハスキーな大声、周囲のはやし立てる声に続き、
「彼女が仕掛ける。その隙に逃げるぞ」
 小さな声が、アレスディアの耳に届いた。
 近くに扉が見える。出口の方向に突き飛ばされたようだった。
(馬鹿なことを言うな。逃げてどうする)
 そう思いながら、屈辱をあらわにした表情でアレスディアはディラの演技を……キスを受けた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
中編のご依頼ありがとうございました!
次回ですが、内通者であるドクター(アレスディアさんに地図を渡した男)の目論みを、魔術師風の女(ディラを誘った女)が暴露します。
目論みは、抗体を得て皆を治療することが目的ではなく、ただの実験だというようなことです。
場が色めき立つ中、アレスディアさんがディラと共にどうするのかを、プレイング欄にお書きいただければと思います。
東京怪談ウェブゲーム(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年12月11日

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