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『祭の裏側 』
ユリアン・クレティエka1664

「出し物でクレープなんてあったっけ?」
 妹からのメールに首を傾げて、ユリアンはパンフレットをとりだした。
 パラパラ……
 強いて言えばスイーツ部のガレットが近いけれど、妹はハーブの件で手伝っているはずだ。つまり自分が差し入れせずとも入手できる筈で。
「消去法で……駅前のアレかあ……」
 放課後は特に行列が長い、人気店である。
 自分にも陸上部の出し物があるのだが。
(わかってて言ってるんだろうなあ)
 張り切っている友人……あの子に付き合って。休憩も最低限で校内を動き回るのだろう。
「応援するのが嫌ってわけじゃないんだ」
 ただ、もう少し頼み方ってものがあるんじゃないだろうか。
(いくら兄って言っても双子だから? ……仕方ない、のか?)

 自分の割り当てが終わったのは、昼の少し前。
(バイトで慣れてるから良かったけど)
 調理に慣れて居なければ、接客に回されるところだった。ホール業務の研修前で良かったと、実はこっそり安堵している。
(保冷バッグと……うん、財布も忘れてない)
 キュッ
 両足とも、靴紐をしっかりと結び直して、昇降口から空を仰ぐ。忘れ物はないし……よし。
「それじゃ、行ってきますか」
 アプリのタイマーを起動して、ダッシュ!

 まだ寒くなりきらないこの季節、月ごとのオススメは林檎カスタードだとか。ほんのりシナモンの香る林檎のコンポートに濃厚なカスタードが添えられてミルフィーユ感が楽しめるらしい。ちなみにここのクレープはホイップクリームが当たり前に入っている。鉄板で調理するホットタイプは別だけれども。
(動き回っているだろうから……ホットタイプは止めとこう)
 文化祭に人が流れているおかげだろう、予想よりは少ない行列に並びながらユリアンはメニューをみつめる。
 問題は残りの3つ分である。同じものにするか、それとも別のものにするか?
(好みもあるだろうし)
 とりあえず価格帯の同じものを眺めてみる。苺、バナナ、ブルーベリー……果物系4種類でいいかな。
(シェアして食べる、ってよく言ってるし、大丈夫だろ)
 よく話を聞かされるので、そういった女子の事情には自然と詳しくなっている。
「あ、すいません」
 丁度順番が回ってきたので、カウンターの前に向かう。
「林檎カスタード、苺プリン、バナナチョコ、ブルーベリーチーズケーキを持ち帰りで……それと別で林檎ソルベ、お願いします」
 昼食の代わりにするならピザソーセージなんて食事系もあるのだけれど。軽く汗をかいた身体に冷たいものが欲しくなったから。
(せっかく並んだんだしね)
 人の分を運ぶだけなんて寂しいこと。食べ盛りの男子高校生がするわけないのである。

 保冷剤も貰って、丁寧にバッグに詰め込む。
「走るわけにはいかない、か?」
 トップに盛りつけられた果物が思いきりぐちゃぐちゃになるのは避けた方が良いだろう。もぐもぐと食べながら裏道を進んでいく。
 駅から高校まで、迷わずいける大通りはあるのだが。今日のような催しで人の通行が多い時や、遅刻ギリギリの者が使う近道というのがあるもので。
 クレープ屋まで走り込み代わりに駆けた道を、気持ちのんびりと歩いていく。
(本当はゆっくり食べたいところなんだけど)
 差し入れは早めに渡すべきだろうし、なによりさっさと済ませないと午後の担当時間も迫ってきてしまうわけで。
「……ん、でも流石人気店。甘さがくどくない」
 水出しのフレッシュハーブティーと一緒に出したら……待て、今はそれを考える時間じゃないはずだ。
「そうだ、メール送っておかないと……」
 早めに妹の所在地を聞かなければ、休憩時間が無くなってしまうのだ。

「動き回りすぎだよ」
 はいこれ、と保冷バッグごとクレープを差し出せば、満面の笑顔で受け取る妹。
「電源を切るなら、どこを回るか予定を送っておくとかさ……」
 おかげで学校内を随分と歩き回る羽目になった。眉尻を下げながら抗議すれば、ぺろっと舌を出される。
「それで許すのはあいつくらいだぞ」
 幼馴染のことを匂わせて、さっさとやりこめることにする。
「俺の休憩時間をどうしてくれ……る……」
 勢いよく頭を下げてくる妹の友人に、どう対応すればいいのか焦って、言葉が途切れた。
「いや、手伝うって言ったのはこいつだし、俺だって嫌なら差し入れ断ってるから……っ」
 君が謝ることじゃないよ、と慌てて手を振る。
 何と言えばいいのか、どう接していいのかわからないせいでつい、言葉を噛みそうになる。
「……クレープ、中身はシール貼ってくれてるから、それ確認して……今月は林檎カスタードがおすすめらしいよ」
 妹と、その先輩二人の視線が温かいものになっているのだが、幸運にも気付かなかった。

 ……Zzz

 ガバッ!
「……! 〜〜!! せめて、せめて周囲の視線くらい気付きたかった……っ!」
 可愛かったのはわかる、けど限度があるだろう!?
「夢で、よかった……」

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1664/ユリアン/男/20歳/疾風影士/夢だからこそ、率直な】
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石田まきば クリエイターズルームへ
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2018年12月11日

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