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『『愛の行方――鉛になった足』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 朝になっても、ディラ・ビラジスから連絡が届くことはなかった。
 何度か電話をしてみたが、繋がることがないまま、夜が近づいていた。
 アレスディア・ヴォルフリートは身支度を整えて、外へとでた。

(断頭台に登るときの気分というのは、こんな気分なのだろうか)
 曇り空を見上げながら、アレスディアは思い、すぐに首を左右に振る。
(否。断頭台の方がまだマシかもしれぬ。この先に待っているのは、飢えた獣達。人の情愛を失った奴らに、こちらの戯言がどれほど通じるものか。一蹴されればそこで終わり)
 恐怖、ではない。
 そこは自らが行くべき場所。自分に相応しい場所だとも思う。
 アレスディアは、人の感情のない彼らのような者達が踏みにじってきた人々を数知れず見てきた。
(次は、私の番か。以前なら、傷つくことも怖くなかった。いつでも誰かのために身を捧げる覚悟はあった)
 ……はずなのに。
 彼女の足は、鉛となってしまったかのように重かった。
 つい、携帯に目を向ける。周囲を探してしまう。いないと、探してもいないと解っているのに。
 この2年間、危険に飛び込む自分の、側にいつもいた人を。

 引き摺るように足を進めながら、昨晩の彼との会話を思い浮かべる……。
「できるだけ時間は稼ぐ。百人の囲いの中から私を救い出せるか?」
 自分のその言葉に、彼は――ディラ・ビラジスはこう答えた。
『アレス……何を考えている。行く必要はない、罠だ』
「罠か。それでも私は行く。行かねばならぬ」
『そいつらの仲間の1人と交渉中だ。交渉が成立したら、アンタには手を出させない』
 彼は、奴らの仲間のところにいるようだった。
「……奴らが、約束を守ると思うか? 苦境に立たされたときこそ、信じる先を誤るな。矛だけでもならぬ。盾だけでもならぬ。共にいてこそ、状況は切り開ける」
『なら、俺が戻るまで待て』
「刻限は明日だ。明後日には奴らは発つという。人の心を失ったままな。野放しにはできぬ」
『止めても……無駄だよな』
 ディラの諦めのような声が、耳に響いた。
「それで、そちらの状況は? どんな交渉をしている」
『昔団に所属していた女に、抗体を求められている。彼女の身体に抗体が出来れば、俺もアンタも狙われることはなくなる』
 その言葉を聞いたアレスディアの脳裏にあの日のこと……ディラに抗体をあげた時のことが思い浮かび、思わず少しの間沈黙してしまった。
「……む、ぅ……こんなときに、くだらぬこと、かもしれぬが……ディラが、女性に、抗体を、提供、するのは……嫌、だな……」
 ディラはどんなふうに、その女性に抗体を渡すのだろう。思い浮かぶイメージに何故か悲しみを感じてしまった。
『身体の一部をくれてやるわけじゃないし、アレスのような方法で渡すわけでもない。……俺の全ては、アンタのものだ』
 彼の言葉に、アレスディアの心臓が跳ねた。
「そ、それはともかく」
 呼吸を整えて、アレスディアは言う。
「……ディラ。クリスマスにほしいものがあるんだが……良いか?」
『なんだ?』
「メモの言葉……あれを、ディラの口から聞きたい。私からは……その返事で、どうだろう。……楽しみに、している」
 彼の返事はなかった。電話が切れてしまったようだ。
 自分の言葉は、どこまで彼に伝わっただろうか。

『俺の全ては、アンタのものだ』
 目を閉じて、彼の言葉を思い浮かべながら「……楽しみに、している」と、もう一度アレスディアは呟き、次の瞬間、眉間に皺を寄せた。
「勝手なものだ。一人じゃなくなった途端、生に執着が生まれるとは。だが、退かぬ。一人じゃないからこそ、退かぬ」
 ディラは来てくれるだろうか。来れる、だろうか。
 来てほしい――けれど、来ない方がいいのではないか。
 死地に誘うような連絡をすべきではなかったのではないか。
 さまざまな思いが交錯する。
 僅かな時間の会話の中で、彼はアレスディアを止めただけで、駆け付けるとは言わなかった。
 人質にされているような状態であり、振り切って来れるのかどうかも定かではない。
「……奴らが、約束を守ると思うか?」
 自身に問いかける。アレスディアを手に入れても、ディラが解放されるわけがない。
 大切な人、共にありたい人を護れない。ならば……最後まで、側に。
 否。決めるのは、ディラだ。
「ディラがどのような判断を下そうと、それが彼の意思であるなら、受け入れよう」
 意を決して、アレスディアは歩く。
 冷たい風が、アレスディアの頬を撫で、髪を揺らす。
 それでも、そう腹を括ったつもりになっても、背中の寂しさまでは拭えなかった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
ウェブゲーム『愛の行方』中編の心中のご依頼ありがとうございました。
アレスディアさんとディラのアレスディアさん視点での会話もこちらに書かせていただきました。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年12月11日

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